オールアバウト「住みやすい街選び(首都圏)」のガイドである中川寛子氏の新著『路線価図でまち歩き』学芸出版社(2023/4/30)を読了。
路線価図を持って街歩きをするという、新たな街歩きの楽しみ方を伝授してくれる1冊。
※朱書きは、私のメモ。
日当たり、通風も価格に含まれている
駅から離れても逆に路線価が上昇しているような場所があるという。
日当たり、通風も価格に含まれている
規則性に反して安い場所の安い理由は防災上の安全性だが、逆に高いところでは住環境の良さがプラスに働いており、価格アップに寄与している。
たとえば桜が名物の目黒川から中目黒駅とは反対側、に青葉台方面に坂を上がっていくと、駅からは離れていくことになり、路線価はあるところまでは下がっていく。だが、ある地点からは逆に上がり始める。その理由は住環境である。
青葉台、坂という言葉からお分かりだろう、目黒川の都心側は段丘になっており、その上部は目黒川沿いの低地を見渡す眺めの良い高台。中目黒から渋谷へのコースにあった西郷山公園のように、眺望だけでなく、採光、通風にも恵まれており、もちろん、川沿いと違い、浸水の危険なども少ない。そのため、路線価は高く、一帯には大使館や著名人宅その他お屋敷というにふさわしい住宅が並ぶことになるのである。(以下略)
(P49/第1章 路線価図を持って歩いてみよう)
※路線価図は、国税庁の「路線価図・評価倍率表」で閲覧することができる。
都市中心部ではリスクは利便性に置き換えられる
ハザードマップが危険を示していても、路線価はそれとは別に値上がりする場合があるという。
都市中心部ではリスクは利便性に置き換えられる
都市中心部近くになると様相は複雑になる。建物が建て込んでいる中心部ではそもそも原地形が分かりにくい。改変されていればもちろん、改変されていない場合でも高低差が分かりにくいのが一般的であろう。加えて外縁部と違い、中心部のリスクは急傾斜地ではなく、低地であることが多い。だが、ここまで見てきたように都市中心部の、住宅地以外の場所では水害、地震などで被害が想定されていても利便性が高いと路線価も高くなる。特に再開発エリアなどであれば地形的な不安は技術がクリアしているものとされるのか、ハザードマップが危険を示していても、路線価はそれとは別に値上がりする。
しかし、細かく価格を構成する要件を考えながら路線価図、ハザードマップを重ね合わせて見ていくと、利便性、安全性、住環境それぞれの要素がどの程度価格に影響を及ぼしているかを読み取ることはできる。(以下略)
(P141-142/第2章 路線価図に様々な地図を重ねる)
※地震災害リスクや水害リスク、犯罪リスクや羽田新ルートによる騒音・落下物・墜落事故リスクなど。これらのリスクが高い地域はどこなのか。具体的に調べる方法をまとめた記事⇒【保存版】これからのマンション選び|地震災害・水害・犯罪・羽田新ルートのリスク地域を避ける
再開発の波及効果は意外に小さい
再開発は路線価に対して、広範囲に影響しない場合があるという、意外な分析。
再開発の波及効果は意外に小さい
価格差を広げる方向に働くこともある再開発だが、世の人が期待するほどには波及効果がない例もある。
たとえば日暮里の駅前では2008(平成20)年に再開発が行われており(紙上再現!路線価図でまち歩き⑮)、タワーマンションを含む3棟が建設された。老朽化した家屋、駄菓子屋街が整然とした街区に変わったわけだが、現地の路線価を見てみると、影響があるのは再開発エリアの外周にしか及んでおらず、これによって周辺の路線価が上がっているようには見えない。
あるいは港区、浜松町駅から歩いて5分ほどのエリアで二区画を合体する再開発が行われ、タワーマンションが建設された(紙上再現!路線価図でまち一歩き⑦)。この場合も物件周囲は200%以上と一気に高くなっているが、道一本分遠ざかるだけで周囲と同じくらいの160%に。周囲に影響を与えることはほとんどないと言っても良いのである。
こうした周辺に影響を及ぼさない再開発は主に住宅を中心にしたものであることが多い。多額の公費を投入して再開発されたにも関わらず、良くなった地域は主にその敷地周辺だけ。(以下略)
(P201-202/第3章 路線価の変動から分かること)
※都内ではタワーマンション計画を絡めた大規模な再開発事業が多数進行している(タワーマンション|都内の大規模な市街地再開発事業(2023年度)※随時更新 )。路線価への影響範囲を可視化してみたいものだ。
本書の構成
3章構成。全223頁。
- 第1章 路線価図を持って歩いてみよう
- 第2章 路線価図に様々な地図を重ねる
- 第3章 路線価の変動から分かること
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