不動産ブログ「マンション・チラシの定点観測」

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チョット違和感!『有料老人ホーム・サ高住のための入居者募集ハンドブック』(同文舘出版)

辻山敏 著『有料老人ホーム・サ高住のための入居者募集ハンドブック』(2021/7/10)同文舘出版。

有料老人ホーム・サ高住のための入居者募集ハンドブック (DO BOOKS)

ネットで本書のタイトルを知ったとき、妙な違和感を持った。
アパート経営のための入居者募集ノウハウ本であれば、スルーしていたのだが、対象が有料老人ホームやサ高住となると話は別。誰もが将来避けて通れない道だからだ。

著者は福岡で医療業界雑誌や介護業界雑誌の企画営業を経て、シニアマーケットに強い広告プランナーとして独立。「広報、販促が根付いていない業界の風習」(P26)に、風穴を開けようとしている。

施設をいかにてよく見せるか。将来入居者となる可能性があるシニアに、どのようにアプローチしていくのか。経営の厳しい施設にとって、痒いところに手が届くノウハウが詰まっている。

本書は経営者のための指南本。逆に言えば、施設を探している人にとっては、”販促ワザ”を見破るための本でもある。

朱書きは、私のメモ。


もくじ

超高齢化社会と「高齢者施設」というビジネスチャンス

施設のウリをしっかりと伝えていく販促活動をすることの必要性を訴える著者。

超高齢化社会と「高齢者施設」というビジネスチャンス

(前略)特別養護老人ホームの入居条忖が要介護3以上になるなど、軽度介護の方々の受け皿を、より民間施設に依存せざるを得なくなっています。そのため今後も、公的な施設の代わりに民間の介護施設の需要は高まると予測され、民間の介護事業者にはビジネスチャンスがあると期待できます。

しかし、数が増えていくことで、入居を検討する一般消費者は、より自身の理想、生活スタイルや趣味嗜好に合った施設を選ぼうとされます。そのため、そのニーズをうまく汲み取り、他施設との差別化のため、施設のウリをしっかりと伝えていく販促活動をすることが必要です。この本では、増え続ける介護施設の中で生き残っていくための販促についてわかりやすくお伝えします。

(P14-16/1章 施設類型や施設設置基準にとらわれない販促が成功への近道)

有料老人ホームのチラシの場合には、「有料老人ホームに関する不当な表示」(平成18年公正取引委員会告示第35号)と「『有料老人ホームに関する不当な表示』の運用基準」(平成18年事務総長通達第13号)が適用されるのだが、本書では全く触れられていない。

「有料老人ホームに関する不当な表示」は全部で11項、7つの内容から構成されている。罰則規定はない。詳しくは「有料老人ホームの折込みチラシ、表示ルールは守られているか」参照。

選ばれるための4大ファクター「価格」「立地」「サービス」「人」

高齢者施設が選ばれるポイントと一般の賃貸アパートや賃貸マンションが選ばれるポイントは大きく違うという著者の指摘。

選ばれるための4大ファクター「価格」「立地」「サービス」「人」

(前略)高齢者の住まいや施設を同じようなファクターで売ろうとすると、顧客ニーズから乖離してしまいます。ここが、不動産業から参入してこられた方々の多くがつまずいたところです。高齢者住宅の選ばれるファクターはそれとは違う、と認識してください。

高齢者の住まいや施設では、「価格」「立地」「サービス」そして、「人」の4つのファクターで選ばれます。

高齢者の施設のほとんどが、国に定められた施設設置基準に合わせていることやワンルームが多いため、「間取り」で選ばれることはほとんどありません。そのため、選ぶ側のファクターとしては「間取り」の優先順位は低くなります。また、「立地」もファクターのひとつですが、一般の賃貸アパートやマンションとは少し異なります。必ずしも、交通の便がよいところが人気というわけでもありません。静かな住宅地や山や公園など、自然が近い場所、家族に近い場所など、探している方によって捉え方が異なります。

そして、高齢者の住まいや施設として大切なのは「サービス」です。この「サービス」は、介護サービスや医療連携もありますが、食事などの生活サービスやレクリエーションなどの付加価値の部分も含まれます。

最後に「人」です。そこで働く「人」は、感じのよいスタッフなのか、介護に対して真摯に取り組んでくれているか、イキイキと楽しく働いているのか、辞めずに固定された方々が務めているのか、などといった「人」の部分が見られています。

(P37-38/2章 知っておきたい「有料老人ホームの販促の基本ポイント」お客様は「施設類型」で選ばない?)

※有料老人ホームやサ高住を選ぶにしても、「サービス」の質以上に重要なのは、最後まで(看取られるまで)住むことができるかという点。

NHKスペシャル人生100年時代を生きる『第1回 終の住処はどこに』(18年11月17日放送)によれば、要介護度は低くても徘徊行動の見られる認知症高齢者がサ高住から退去を迫られるケースが増えているという。

また、終身で重度介護を提供するとパンフレットに表示してあった有料老人ホームで、入居者が追い出されたケースがあった(消費者庁は18年7月3日、HITOWAケアサービスに対して再発防止命令を出した)。詳しくは「有料老人ホームも追い出される!?」参照。

独自の“ウリ”を明確化することが満室への近道

著者は「問い合わせ者数」「見学者数」「入居者数」の歩留まりを管理することを提案している。

独自の“ウリ”を明確化することが満室への近道

(前略)私が介護業界の販促に携わって、他の業種と比べてまだまだ足りないと感じる部分として、先ほどのリサーチカの他に営業管理があります。通常の営業会社の場合、多いところでは朝晩の営業会議で今月の目標数字の確認、進捗の報告などでの数字が飛び交います。有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅は通常の営業と違い、暦の中で入居が必ずある時期や売れやすい時期がありません。そのため、目標や進捗という数字は設定こそ大事ですが、追いにくいと考えます。そこで、次の3つの数字をキーワードに営業管理をすることを勧めます。「問い合わせ者数」「見学者数」「入居者数」の歩留まりです。

「問い合わせ者数」を母数に、何人が見学に来たのか。見学に来た方を母数に何人の方が入居したのかを数値化しましょう。たとえば、100人の問い合わせで20人が見学にきた場合、歩留まりは20%です。20人の見学者に対して10人が入居された場合の歩留まりは50%です。その際の問い合わせ者数から、入居者数の歩留まりは10%となります。

ここから、50室の有料老人ホームを満室にするためには、500人の問い合わせが必要で、100人が見学するという計画が立てられます。しかし、500人の問い合わせを取ることはかなり労力とコストが必要です。さらに新規オープンの場合は、キャンセルされる方が出てきます。私の経験上、入居を決めたと言われた方の15%をキャンセル率で計算することをおすすめします。ということは、50室の有料老人ホームを満室にするためには、60件の入居申し込みを必要とする計算ができるでしょう。(以下略)

(P74-75/3章 まずは現状把握―セルフマーケティング)

※50室の有料老人ホームを満室にするためには、60件の入居申し込みを必要とする計算ができるという定量化。一人ひとりが名前ではなく、数として認識されている身も蓋もないコンサルティング……。

本書の構成

9章構成。全218頁。

  • 1章 施設類型や施設設置基準にとらわれない販促が成功への近道
  • 2章 知っておきたい「有料老人ホームの販促の基本ポイント」お客様は「施設類型」で選ばない?
  • 3章 まずは現状把握―セルフマーケティング
  • 4章 「販促活動」の流れと方法
  • 5章 「販促活動」に必要なツールの整備
  • 6章 「見学」で、すべてが決まる!!
  • 7章 クロージングまでの販促活動
  • 8章 事例紹介
  • 9章 最後に心がけてほしいこと

有料老人ホーム・サ高住のための入居者募集ハンドブック

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2023年6月1日、このブログ開設から19周年を迎えました (^_^)/
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