1級建築士として戸建て住宅の設計に30年係わり、介護施設の施設長を務めたという特異な経験を持つ著者による施設に入らず「自宅」を終の住処にする方法(詩想社新書)を読了。
新築・中古マンション選びのためのノウハウ本は多々あれど、終の住処の指南本は決して多くない。なかでも本書は施設に入らずに、可能な限り「自宅」を終の住処とすることを説いた貴重な本である。
本書を読めば、いま流行りのサ高住(サービス付き高齢者向け住宅)への入居は慎重にならざるを得ないだろう。シニア世代だけでなく、老親のいる世代にもおススメしたい1冊。
※朱書きは、私のメモ。
建築士で介護施設長だった私が考える理想の「最後の居場所」
介護施設の施設長として朝出勤すると、認知症のAさんの便まみれの部屋の掃除でぐったりしたヘルパーからの報告を受ける。そんな経験を持つ著者からの「幸福な最期の居場所」の提案は説得力を持つ。
建築士で介護施設長だった私が考える理想の「最後の居場所」
(前略)朝出勤すると、ヘルパーさんから「早朝6時に出勤したら、認知症のAさんの部屋が便まみれで掃除にいままでかかってぐったりです」というような報告が日常茶飯事の介護現場に直面した。
一方、多くの認知症の高齢者の人たちと日々向き合うことで、本当に多くのことを学ばせていただいた。部屋の隅で放尿するなど、物事や空間の見当がつかなくなるという認知症の中核症状である見当識障害は、「死」という恐怖に直面するときの人間の防御本能だと実感できる日々であった。
私のように、建築士として終の住処の設計に携わりながら、同時に介護現場の施設長も務め、多くの人たちの老後生活とその臨終の瞬間に立ち会ってきた経験をもつものはほとんどいないだろう。
建築士の視点から、また、介護と看取りの現場を知っている視点から、いったい人はどのような環境で最期を迎えることが幸せなのか、これまで私は考えてきた。
この本は、「幸福な最期の居場所」とはいかなるものなのか、またそれをどのように自分で整え、準備しておけばいいのかを、私なりに提案するものである(以下略)
(P6/まえがき)
※本書題名には「終の住処」という表現が使われているが、私が普段使うのは「終の棲家」。どう違うのか、生成系AIに聞いてみたらChatGPTの回答がしっくりくる。著者が「終の住処」という表現を使っているのも腑に落ちる。
- ChatGPT
- 「終の住処」は一般的な最後の滞在場所を指し、特に医療や介護の文脈で使用されることが多い一方、「終の棲家」はより個人的で主体的な意思を反映した最後の居場所を指す場合があると言えます。
- Bard
- 「終の住処」は、より一般的で、老後を過ごす場所や、死ぬまで住む場所を指すことができます。一方、「終の棲家」は、より文学的で、より個人的な意味合いを持っています。終の棲家は、人が安らかに暮らせる場所、愛する人たちに囲まれて暮らせる場所、自分の人生を振り返って感謝の気持ちを抱ける場所を指すことができます。
- Microsoft Bing
- 「終の住処」と「終の棲家」は、どちらも「最期を迎える時まで生活する住まい」のことを指します。両方とも「ついのすみか」と読みます。特に違いはありません。
サ高住が「常時満室」と「常時空室」に二極化する理由
サ高住(サービス付き高齢者向け住宅)で利益を上げるためには平均要介護度を上げるか、人件費を下げるしかないという、著者の指摘。
入居者の利益に反するビジネスモデルではないか。
サ高住が「常時満室」と「常時空室」に二極化する理由
全国的に乱立しているサ高住は常時満室のところと、常時空室ありのところに二極化している。
常時満室のところは2タイプあり、地域最安値か、いろいろと入居者のためのサービスを充実させているサ高住のどちらかだ。
(中略)
大手のサ高住事業者が展開しているサ高住にも、見学に行ったこともある。大体が定員30~60人程度の大規模施設だ。玄関ホールは豪華に見せているが、居室や廊下が殺風景きわまりない。
経済合理性が最優先されており、出し惜しみをしているのだろうが、居心地のよい場所はまったく見ることができなかった。
サ高住は、30室で延床面積1000m2以下が建築費と売上げの比である投資回収効率がいちばんよいとされる規模だ。そのため、中小規模の運営事業者はほとんどがその規模である。
どこも定員が決まっているため、利益を上げるためには平均要介護度を上げるか、人件費を下げるしかない。平均要介護度を上げるための例としては、当施設は自立や要支援の方は入居できず、要介護認定の方のみしか入居できませんと宣言すればよいのだ。
(P54-57/第1章 最期の居場所は「自宅」こそふさわしい理由)
※サ高住は倒産リスクをはらんでいるので、人生最期まで気が抜けない。
入居を迷っているなら 見学は絶対に行ってはいけない
老人ホームではどこにでも入居者獲得マニュアルのようなものがあり、見学者には最短で入居してもらうような営業話術が用意されているという。
入居を迷っているなら 見学は絶対に行ってはいけない
(前略)サ高住の施設長も経験しか私かみなさんに言いたいのは、まだ入居を迷っているという段階では、けっして老人ホーム見学に行ってはいけないということだ。
老人ホームではどこにでも入居者獲得マニュアルのようなものがあり、見学者には最短で入居してもらうような営業話術が用意されている。
「せっかくのご縁ですしね。まだ元気なうちに入居していただければ、今後の生活は安心安全で何も心配することがなくなりますよ」というような営業トークで気持ちが揺れる方が実際に多いのだ。
しかし騙されてはいけない。私もサ高住の施設長だった頃、似たような営業をしている現場に何度となく遭遇したが、あくまでもこれは先方のビジネスであり、本当にあなたのためになる場合は限りなくゼロに近いと考えてほしい。
実際にあなたとあなたの家族のためになることは、介護施設や老人ホームに入ることではなく、自宅で住み続けることでしかかなわないのだ。自宅に住み続けることを簡単に諦めてはいけない。(以下略)
(P72-73/第2章「介護施設に入るべきか?」、迷ったときに知って)
※営業トークは新築マンションの専売特許だと思ったら、「老人ホームではどこにでも入居者獲得マニュアルのようなものがあり」という説明には驚かされた。
念のためAmazonで調べたら、「有料老人ホーム・サ高住のための入居者募集ハンドブック」(2021/7/10)が売られていたので、さらにビックリ。
本書の構成
4章構成。全188頁。
- 第1章 最期の居場所は「自宅」こそふさわしい理由
- 第2章「介護施設に入るべきか?」、迷ったときに知っておくべきこと
- 第3章 それでも知りたい、よい介護施設・老人ホームの見分け方
- 第4章 最期まで暮らせる安心老後住宅のつくり方
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