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住宅ローン審査の厳格化、銀行はどこを見ている?

お気に入りのマンションが見つかったとして、次なる心配は住宅ローンの審査に通るのか、ということかもしれない。

住宅ローンとは、貸し手にとっては何とも都合のいい言葉だ。多くの人にとって、住宅ローンは人生最大の借金。どうすれば借りられるかといっても、あなたが取れる手段は限られる。銀行は借り手のどこを見ているのか。

国交省は03年度から毎年「民間住宅ローンの実態に関する調査」を実施しているので、過去のデータも含めて、ひも解いてみた。

※投稿22年3月27日(更新23年4月3日:22年度報告書データ反映)


もくじ

住宅ローン審査、厳格化の推移

住宅ローン審査の厳格化の傾向は、スコアリング方式により審査を実施している金融機関数の割合で把握できるのではないかと考えた。

スコアリング方式とは、年収や返済負担率といった審査項目によって住宅ローンを申し込んだ人に点数を付け、その合計点で融資するか否かを決める方式をいう。

全ての金融機関がスコアリング方式を導入しているというわけではない。スコアリング方式の導入状況の推移(04~22年度調査)を次図に示す。

住宅ローン審査の厳格化の推移

以下、上図の解説。

  • 04~08年度調査
    住宅ローン審査の厳格化が進み、スコアリング方式を「行っている」と「一部行っている」の合計が65.7%のピークに達する。
  • 09~13年度調査
    金融円滑化法の影響により、住宅ローン審査の厳格化が緩和され、スコアリング方式を「行っている」と「一部行っている」の合計が40%を下回る。
    • ※リーマンショック後の09年、当時の民主党政権が銀行に対し、借金の返済や住宅ローンの支払いを猶予するよう求めた時限立法「金融円滑化法(中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律)」が成立。2度の延長を経て12年度末に失効した。
  • 14~18年度調査
    金融円滑化法が失効した1年後から、住宅ローン審査の厳格化が徐々に進み、18年度調査ではスコアリング方式を「行っている」と「一部行っている」の合計が5割に近づく(47.9%)。
  • 19~21年度調査
    スコアリング方式を「行っている」と「一部行っている」の合計が46%前後にとどまっている。新型コロナ禍下での金融庁要請により、緩和傾向が見られる。
    • ※新型コロナウイルス感染症の感染拡大を踏まえ、金融庁は20年5月27日、業界団体に対して「住宅ローン等に係る要請」を発出し、顧客のニーズに応じた条件変更の速やかな実施を要請した。
  • 22年度調査
    「行っている」と「一部行っている」の合計が4割まで低下。

では、金融機関はどのような項目を審査しているのか。審査で重視している項目は何なのか。

金融機関はココをみている(22年度調査)

国交省が22年度調査結果として公表した資料には、「融資を行う際に考慮する項目」として21項目が掲げられている(次図)。

金融機関はココをみている

国交省「令和4年度民間住宅ローンの実態に関する調査 結果報告書」P19

 

9割を超える金融機関が「融資を行う際に考慮する項目」として掲げているのが、次の9項目。

  • 1位:完済時年齢(98.7%)
  • 2位:健康状態(97.9%)
  • 3位:借入時年齢(97.2%)
  • 4位:担保評価(96.1%)
  • 5位:勤続年数(93.2%)
  • 6位:連帯保証(93.1%)
  • 7位:返済負担率(93.0%)
  • 8位:年収(92.9%)
  • 9位:金融機関の営業エリア(90.7%)


逆に、金融機関があまり考慮していない(金融機関の5割未満しか掲げていない)のが、次の6項目。

  • 性別(21.2%)
  • 雇用先の規模(25.4%)
  • 所有資産(26.2%)
  • 家族構成(29.8%)
  • 業種(34.4%)
  • 申込人との取引状況(48%)

金融機関が重視する21項目の推移

金融機関が融資を行う際に考慮する項目は、21項目(09年以前は14~16項目)。
項目ごとに、考慮している金融機関数の割合の推移を次図に示す。

金融機関が融資を行う際に考慮する項目

  • 金融機関が重視する審査項目(上述した9項目)は、ほぼ9割超で推移している
  • 金融機関が以前よりも重視するようになってきた審査項目は、「雇用形態」と「国籍」
  • 一方、重視しないようになってきた審査項目は、「融資可能額(購入、借換え)」「債務の状況や返済履歴」「申込人との取引状況」

 

外国人に対する審査の目が厳しくなってきた一方で、低金利環境下で融資先の確保を優先するあまり、金融機関による貸出先の返済能力のチェックが甘くなってきているというように見えなくもない。

審査ポイントの推移(4項目)

さらに、読者の関心が高そうな4項目(年収、勤続年数、融資率(購入の場合)、返済負担率)の審査ポイントの推移を見てみよう。

年収

年収については、「150万円以上」であることを融資の条件としている金融機関の割合が増加していたが、19年度調査時点をピークに減少(次図)。

審査ポイント、金融機関数の割合【年収】

22年度調査時点では、「100万円以上(27%)」と「150万円以上」(42%)を合わせると約7割(69%)。ようするに年収のハードルは極めて低いということである。

勤続年数

勤続年数については、年々融資条件が緩くなり、10年度調査では「1年以上」と「3年以上」が逆転した(次図)。

審査ポイント、金融機関数の割合【勤続年数】

22年度調査時点では6割の金融機関が「1年以上」であることを融資の条件としている。

ようするに勤続年数のハードルも極めて低いということである。

融資率(購入の場合)

融資率(購入価格に対する融資額の割合)については、「100%以内」であることを融資の条件としている金融機関の割合が多い(次図)。

審査ポイント、金融機関数の割合 【融資率(購入の場合)】

「80%以内」を融資の条件としていた金融機関の割合は年々減少。22年度調査時点では「80%以内(5%)」「90%以内(1%)」「100%以内(61%)」を合わせると67%。

ようするに頭金2割あれば、7割近い金融機関が融資してくれるという状況。

返済負担率

返済負担率については、一定の特徴が見られない(次図)。

審査ポイント、金融機関数の割合【返済負担率】

あえていえば、アベノミクスが本格化した時期(13~15年度調査)において、返済負担率が「45%以内」という無謀な融資が増えたということくらい。

まとめ

国交省が毎年公開している「民間住宅ローンの実態に関する調査」の結果をもとに、住宅ローン審査の傾向を以下のように読み解いた。

  • 住宅ローン審査、厳格化の推移
    住宅ローン審査の厳格化はリーマンショックで一時緩和された。金融円滑化法の失効(12年度末)ののち、再び厳格化が進むが、新型コロナ禍下での金融庁要請により緩和傾向が見られる。
  • 住宅ローン審査、金融機関はココをみている(22年度調査)
    9割を超える金融機関が「融資を行う際に考慮する項目」として掲げているのが、次の9項目。
    • 完済時年齢、健康状態、借入時年齢、担保評価、勤続年数、連帯保証、返済負担率、年収、金融機関の営業エリア
  • 金融機関が重視する21項目の推移
    外国人に対する審査の目が厳しくなってきた一方で、低金利環境下で融資先の確保を優先するあまり、金融機関による貸出先の返済能力のチェックが甘くなってきている。
  • 審査ポイントの推移
    「年収」「勤続年数」のハードルは極めて低い。頭金2割あれば、7割近い金融機関が融資してくれるという状況。

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