総務省の公害等調整委員会の事務局は1月31日、「東京国際空港航空機騒音調停申請事件」の調停が成立したことを公表した。
羽田新ルート(A滑走路)の着陸ルート下にある京浜島の町工場を営む法人5社が16年9月に、国交大臣に対してルートの変更と損害賠償金5億円を求めて、公害等調整委員会に調停を申し出ていた事件。
公害等調整委員会、調停成立を公表
公表された下記「3 調停の概要」を読んでも、最終的にどのような内容で調停が成立したのかピンとこない。
1 事件の概要
- 申請人:東京国際空港近辺において事業を営む法人(5社)
- 被申請人:国土交通大臣
- 申請受付日:調停申請(平成28年9月9日)
- 概要:申請人らは、被申請人が策定する計画案が実現すると、南風時の15時から19時までの間、本件空港のA滑走路の北側からの航空機の着陸が行われ、騒音等による被害が生じるとして、滑走路の供用制限等を求めた。
2 事件の経過
(省略)
3 調停の概要
(1)被申請人は、今般の飛行経路の見直しにあたり、下記について確認
- 周辺地域への影響を抑制するために被申請人が行う取組
- A滑走路における航空機の運航の見通し
- 申請人ら周辺地域の航空機高度及び騒音レベルの見通し
(2)被申請人は、本件見直しによる航空機の運航の開始後に、航空機による騒音の測定を行い、その結果を情報提供
調停内容をひも解く
具体的な調停内容を確認すべく、ネットをググってみたところ、申請人の関係者のひとりで、京浜島で町工場を営む小柴智延氏が運営しているサイト「京浜島からみた羽田空港問題」に行きついた。
同サイトに「調停条項 2020年1月31日受領」(A4×2枚)(PDF:847KB)が公開されているのである(次図)。
1.被申請人は、今般の東京国際空港における飛行経路の見直し(以下「本件見直し」という。)に際し、申請人らに対し、本件土地等の上空を通過する航空機の飛行に関し、以下のとおり、確認する。
(1)被申請人は、東京国際空港の周辺地域への影響を可能な限り抑制するために、本件見直しにあたり以下の取組を行う。
- ① A滑走路の目標点標識を、南側へ約480m移設する。
- ② A滑走路に到着する航空機経路の降下角を、3度から3.5度に可能な限り引き上げる。
- ③ 低騒音機の導入を促進するための国際線着陸料の料金体系の見直しを行う。
- ④ 平成30年3月に取りまとめた「落下物対策総合パッケージ」に基づき、今後も落下物防止対策等の安全対策に取り組む
(2)令和12年(2030年)に向けて、首都圏に所在する空港の更なる機能強化に向けての取組が検討されているが、その取組においても、南風運用時に、15時から19時のうち実質3時間程度の着陸便(A滑走路は、1時間あたり最大14便程度)に限定して行われる以外の運用時間の拡大計画は、現時点においてはない。
(3)上記(1)①のとおり移設したA滑走路の着陸の目標点標識を本件土地等に近づけるように移動することは計画されておらず、A滑走路の移設後の目標点標識を起点として、到着経路の降下角を3度とした場合に算出される、本件土地等の上空を通過する航空機の高度は、94m (東京湾平均海面を基準)を下回らないことが見込まれる。
(4)(前略)同騒音値を正確に予測することは困難であるが、平成30年3月26日に、当調停委員会が、大阪国際空港周辺において現地調査を実施した際に発生した最大騒音値(LAmax値で91dB)を越える騒音が、航空機重量や気象条件等により、時に発生する可能性があるところ、今後も騒音対策に取り組む。
※2.~4.省略
被申請人(国交省)が今後確認しなければならない事項として、4項目列挙されている。②降下角度3.5度への引き上げや③国際線着陸料の料金体系の見直し、④「落下物対策総合パッケージ」に基づく安全対策などは、この調停に係らず、国交省が様々な場で公言していることである。
今回の調停で、申請人が被申請人(国交省)から勝ち取った約束事としては、(2)2030年に向けた羽田空港の更なる機能強化として運用時間の拡大計画が現計画においてないこと、(3)本件土地等の上空を通過する航空機の高度は94m を下回らないこと、(4)今後も騒音対策に取り組むこと。
申請人のもともとの要望は、北側方向から着陸させないことと、損害賠償金5億円だったのだが……。
(前略)被申請人に対し、主位的に、本件空港A滑走路を、一切の航空機の北側方向からの着陸に供用しないこと及び損害賠償金合計5億円を申請人らに支払うこと、予備的に、一切の航空機に対して、本件空港A滑走路の北側から着陸することを許可又は指示しないこと、を求めるものです。(平成28年9月9日受付)
調停を申し出た関係者の受け止め
調停を申し出た関係者は、今回の調停内容をどのように受け止めているのか?
申請人の関係者のひとりである小柴智延氏は、自分のホームページに次のように記している。
十分満足のいくものとは言いがたいですが、見解が大きく異なるなかで妥協できる内容と判断しました。
委員長をはじめ関係者の方々のご尽力に感謝いたします。
新飛行ルートの運用開始がせまっています。
実機飛行確認は2月1日から行われる予定です。
騒音他の懸念点が杞憂におわればよいのですが。
騒音値や将来の運行について何らの約束をしてくれていないことには不満が残ります。
なお、本調停の成立は、私どもの上空を航空機が飛行することについて容認したものではありません。
時間があれば後日もう少しコメントを書きたいと思います。
あわせて読みたい