シニア世代が地方から東京へと移り住む動きが続いているという朝日の記事。
- シニア世代が地方から東京へと移り住む動きが続いている(朝日)
- 消滅都市回避に「都市高齢者の地方への住み替え支援」は現実的か
- 「全ての自治体が生き残る必要はない」という発想
- ふるさとは遠きにありて思ふもの
©マンション・チラシの定点観測
シニア世代が地方から東京へと移り住む動きが続いている(朝日)
シニア世代、東京に移住増 転出も多いが「住みやすい」
シニア世代が地方から東京へと移り住む動きが続いている。昨年、他道府県から東京に移った65歳以上の人は1万5千人を超える。高齢者のニーズをつかもうと、高度成長期にできた古い団地を高齢者向け住宅に改築する取り組みも進む。(以下略)
(朝日新聞デジタル 5月6日)
総合病院まで車で30分、ゴミ捨て場にも車で向かう生活。夫が他界して、腰痛で1週間寝込んだ時「このままでは孤独死してしまう」と栃木県那須町から高島平団地に移った落合美江さん(69)の事例も記されている。
消滅都市回避に「都市高齢者の地方への住み替え支援」は現実的か
シニア世代が地方から東京へと移り住む動きとは逆に、民間有識者でつくる日本創成会議は昨年の6月4日、高齢者の地方移住を提言している(東京圏高齢化危機回避戦略)。
2025年以降、東京圏全体で介護施設の不足が深刻化し、その不足を補うために人材が東京圏に流入すれば地方が衰退化してしまうなどの理由から、高齢者の地方移住を提言しているのである。
同提言に対して、ネットでは「高齢者の地方移住」は”姥捨て山政策”ではないのか、という批判が噴出していた。
また、同会議は2年前の5月8日、「若年女性人口が2040年に5割以上減少する市町村は896に達する」という衝撃的な地方都市消滅のレポート(ストップ少子化・地方元気戦略)も発表している。
「東京一極集中」に歯止めをかけ、「若者に魅力のある地域拠点都市」に投資と施策を集中することが重要だとして、次の4項目を掲げている。
- 人口減少に即応した「新たな集積構造」の構築
「コンパクトな拠点」+「ネットワーク」形成、自治体間の「地域連携」、「地方法人課税改革」- 地域経済を支える基盤づくり
地域資源を活かした産業、スキル人材の地方へのシフト、農林水産業の再生- 地方へ人を呼び込む魅力づくり
地方大学の再編強化、地方企業への就職支援、「全国住み替えマップ」、ふるさと納税の推進、都市からの住み替え支援優遇税制、観光振興- 都市高齢者の地方への住み替えを支援
地方に「コンパクトな拠点」を設けることで生き残りをかけるのはよいが、「都市高齢者の地方への住み替えを支援」はいかがか。
東京で消耗し高知移住で喘いでいる若者なら出直すことも可能だが、多くの高齢者は、移住先に馴染めなかったからといって、再び都会に戻ってくるだけの経済的、体力的な余裕はないのでは。
「全ての自治体が生き残る必要はない」という発想
国が救済すべきは「自治体」ではなく、「住民」であり、負け組の自治体から、他の自治体に「転職」を支援することの意義を自著で掲げているのが、経営コンサルタントの瀧本哲史氏(元マッキンゼー・アンド・カンパニー)。
企業の淘汰のプロセスに照らし合わせても、古くて効率の悪い企業が淘汰されることは望ましいことである。救済されるべきは企業ではなく、あくまでも労働者なのだ。
これを自治体の淘汰に当てはめると、国が救済すべきは「自治体」ではなく、「住民」であり、負け組の自治体から、他の自治体に「転職」を支援するほうが全体のパイは拡大すると考えられる。つまり、移転費用の支援である。
全ての自治体が生き残る必要はない本来必要な地方創生は、全ての自治体をむりやり生き残らせようとして全体を沈ませるのではなく、自治体同士の競争を促し、住民の移動という「足による投票」によって、強い自治体への統合を目指したほうが良いということになるだろう。
(瀧本哲史著『戦略がすべて』P218-219)
シニア世代は地方への移住ではなく、地方から東京に移り住む人が増えているというのが、冒頭の朝日の記事であった。
高齢者は、生活利便性の高い都市の住環境を求めているのである。
ふるさとは遠きにありて思ふもの
ふるさとは遠きにありて思ふもの
そして悲しくうたふもの
よしや
うらぶれて異土の乞食かたゐとなるとても
帰るところにあるまじや
ひとり都のゆふぐれに
ふるさとおもひ涙ぐむ
そのこころもて
遠きみやこにかへらばや
遠きみやこにかへらばや
これは遠方にあって故郷を思うという単純な詩ではなく、室生犀星が郷里金沢との間を往復していた苦闘時代に故郷も冷ややかであった複雑な思いが込められた詩だという(「大岡信ことば館 」参照)。
まあ本来の詩の意味はさておき、高齢者は都会に住み続け、故郷には戻らず、遠きにありて思うのがいい。
「ふるさとは遠きにありて思ふもの」
現役引退後、都市から生まれ故郷の田舎に戻り、86歳で亡くなった実父が、晩年繰り返し話していた言葉のひとつである。
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