Photo by マンション・チラシの定点観測 CC BY 3.0.
不動産経済研究所は2月19日、恒例の「2014年の全国マンション市場動向」を発表。
- 全国発売は21.0%減の8万3、205戸。2009年以来5年ぶりの減少。
- 北陸・山陰以外が軒並み減少。首都圏20.5%減、近畿圏23.8%減。
- 平均価格は3.2%上昇の4、306万円、m2単価も4.0%上昇の60.3万円。
不動産経済研究所が発表した記事には、過去10年間のマンションの「発売戸数」や「価格」などの推移データが表形式で掲載されている。
さらに、12年〜14年の事業主別発売戸数(上位20社)――いわゆるランキングも掲載されている。
最近の新築マンションの市場動向(首都圏に限らない)を知るための、貴重な情報が満載されているのだが、いかんせん、数字の羅列なので、直観的に理解しづらい。
マスコミの記事では物足りない人のために、過去に発表されたデータも含め、首都圏のデータを中心に見える化(グラフ化)したうえで、次の7項目について独自の考察を加えてみた。
- 発売戸数の推移(全国)
- 発売戸数の推移(首都圏)
- 価格の推移(首都圏・近畿圏)
- 価格の推移(1都3県)
- 「価格」と「専有面積」の推移
- 事業主別発売戸数の推移(全国)
- 発売戸数上位20社のシェアの推移
発売戸数の推移(全国)
「2009年以来5年ぶりの減少」ということなのだが――
全国の発売戸数の約半分を占める首都圏の傾向を見ると、05年から下降し続けていた発売戸数は、09年をボトムに反転していることが分かる。
消費増税前の駆け込みで13年にやや増加したものの、失速。
05年以前の8万戸の水準には遠く及ばない。
発売戸数の推移(首都圏)
23区に目をやると、2010年以来の2万戸水準から、2013年には消費増税前の駆け込み需要で2万8千戸と急増したものの、2014年には再び2万戸水準に戻っている。
価格の推移(首都圏・近畿圏)
過去14年間の販売価格の動向はといえば――
首都圏の「平均価格」は、01年に4,000万円だったのが、06年を境に大きく上昇し始め、07年から12年までは4,500万円前後の水準で推移。13年・14年と上昇し、5,000万円を突破している。
また、首都圏の「平均単価」のほうも、06年を境に大きく上昇し始め、07年にm2当たり60万円の水準を上回り、08年以降は65万円前後と高止まりしていた。
ところが13年・14年に大きく上昇し、70万円を突破している。
価格の推移(1都3県)
1都3県の新築マンション価格の動向はといえば――
23区の「平均価格」が、07年の6,120万円から漸減し始め、09年に5,190万円と底を打ったのち、10年は5,497万円と微増。
11年、12年と漸減傾向であったが、13年(5,853万円)・14年(5,994万円)と上昇し、6千万円に迫っている。
80万円〜85万円の間に高止まりしていた23区の「平均単価」は、13年(86.5万円)・14年(87.3万円)と上昇し、90万円に迫っている。
「価格」と「専有面積」の推移
23区の「平均価格」と「平均単価」から、「平均専有面積(=平均価格÷平均単価)」を逆算し、新築マンションの「平均価格」と「平均専有面積」の関係が分かるグラフを作ってみた。
07年から09年にかけて、「平均専有面積」が小さくなることで、「平均価格」が下がっていく様子がよく分る。10年以降は「平均専有面積」を抑え過ぎた反動なのか、面積、価格とも上昇傾向にある。
上のグラフから分かることはもう一つ。
データが二つの塊(「01年~05年のデータ」と「07年~14年」)に分かれていることだ。
06年から07年にかけて、「平均専有面積」はあまり変わらないのに、「平均価格」が1,000万円近くも上昇(5,149万円⇒6,120万円)しているのだ。
なぜ、たった1年の間に、23区の新築マンションの平均価格が1,000万円近くも上昇したのか?
筆者は、耐震強度偽造事件の影響だと考えている。
耐震強度偽装事件が発覚したのが05年11月17日。
再発防止の一環として、改正建築基準法が施行されたのが07年6月20日。
あまりにも拙速な法改正がその後のマンション不況の引き金となり、「改正建築基準法不況」とか「国交省不況」、あるいは当時の国交大臣の名前をとって「冬柴不況」と言われたほどだ。
改正建築基準法に対応するための、マンション事業の遅延コスト増や、設計・工事監理などのコスト増が、最終的にはマンション価格に反映しているのではないか――。
06年から07年にかけて新築マンションの平均価格が上昇した事象は、23区に限らない。
次図のように首都圏全体のデータを見ても、23区と同様の傾向が読み取れる。
事業主別発売戸数の推移(全国)
04年~13年の事業主別発売戸数(上位20社)データについても、以下に考察しておこう。
14年の事業主別供給戸数トップは、住友不動産(6,308戸)。
2位は 三菱地所レジデンス(5,300戸)、3位は野村不動産(4,818戸)となっている。
今回、不動産経済研究所が発表した上位20社は、3カ年分(12年・13年・14年)。
ランキング(順位)だけだと、各事業主の勢いのほどが分かりにくい。そこで、過去に発表されたデータも含め、04年以降の大手の発売戸数の推移をグラフ化してみた。
長年にわたって首位をキープしていた大京の凋落ぶりとは対照的に、大手不動産(三井不動産レジデンシャル、三菱地所レジデンス、住友不動産、東急不動産、野村不動産)は順位が入れ替わりながらも、シッカリと上位にランクインしている。
発売戸数上位20社のシェアの推移
全国の発売戸数トップ20社は次の通り。
- 事業主(全国/首都圏/近畿圏/その他)
- 1位:住友不動産(6,308戸/5,190戸/677戸/441戸)
- 2位:三菱地所R(5,300戸/4,354戸/452戸/494戸)
- 3位:野村不動産(4,818戸/3,664戸/761戸/393戸)
- 4位:三井不動産R(4,638戸/3,598戸/572戸/468戸)
- 5位:東急不動産(2,550戸/1,542戸/841戸/167戸)
- 6位:大和ハウス工業(2,289戸/832戸/311戸/1,146戸)
- 7位:プレサンコーポ(2,273戸/122戸/1,445戸/706戸)
- 8位:大京(2,018戸/1,065戸/366戸/587戸)
- 9位:タカラレーベン(1,551戸/931戸/0戸/620戸)
- 10位:名鉄不動産(1,474戸/711戸/500戸/263戸)
- 11位:東京建物1,455戸/870戸/571戸/14戸)
- 12位:一建設(1,330戸/1,330戸/0戸/0戸)
- 13位:阪急不動産(1,256戸/327戸/929戸/0戸)
- 14位:あなぶき興産(1,253戸/29戸/214戸/1,010戸)
- 15位:新日鉄興和不動産(1,184戸/885戸/180戸/119戸)
- 16位:近鉄不動産(1,163戸/234戸/816戸/113戸)
- 17位:エヌ・ティ・ティ都市開発(1,081戸/570戸/299戸/212戸)
- 18位:大成有楽不動産(1,076戸/977戸/77戸/22戸)
- 19位:伊藤忠都市開発(1,043戸/746戸/297戸/0戸)
- 20位:日本エスリード(902戸/0戸/902戸/0戸)
ランキングに目を奪われず、発売戸数に着目することで、興味深いことに気づく。
08年以降上昇し続けていた上位20社のシェア(全国主要都市の発売戸数に対する上位20社の合計発売戸数の占める割合)が、10年の56%をピークに頭打ちになっていることだ。
リーマンショックの影響で、中小デベロッパーがマンション事業からの撤退を余儀なくされ、耐震強度偽装事件発覚(05年11月17日)以降、ブランド力のある大手デベロッパーの寡占化が進んでいたのだが、中小デベロッパーが息を吹き返しつつあるということなのか――。
(本日、マンション広告3枚)