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「長周期地震動」が超高層マンションの資産価値に影響を与える!?

9月2日に放送されたNHKスペシャル「第1集 都市直下地震 新たな脅威 “長周期パルス”の衝撃」は、タワマン住人にとって文字通り衝撃的な内容だったのではないだろうか。
ただ、「長周期パルス」以前に、「長周期地震動」のことが気になるのだが、世間的にはあまり認識されていないのではないか……。


もくじ

長周期地震動とは

南海トラフ地震のような規模の大きい地震が発生したときに生じる、周期(1往復するのにかかる時間)が長い揺れのことを長周期地震動という。

  • 揺れが1往復するのにかかる時間(周期)が長い地震動を長周期地震動という。
  • 長周期地震動は、マグニチュード7以上、かつ震源が浅い地震で卓越する。
  • 長周期地震動は、厚い堆積層がある大規模平野で励起されやすく、揺れの継続時間が長くなりやすい。
  • 建物には、固有の揺れやすい周期(固有周期)があり、地震動の卓越周期と近い場合に大きく揺れる(共振)。
    ※建物の固有周期:超高層建築物(高さ60mで1~2秒)

(内閣府「南海トラフ沿いの巨大地震による長周期地震動に関する報告」資料2)

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(内閣府「南海トラフ沿いの巨大地震による長周期地震動に関する報告」資料2)

あなたの住んでいる超高層マンションは大丈夫か?

2003年9月に発生した十勝沖地震で震央から250km離れた苫小牧市内で石油タンク火災が発生したことや、2011年3月に発生した東北地方太平洋沖地震で首都圏や大阪湾岸の超高層建物で大きな揺れが観測されたことを踏まえ、各方面で長周期地震動対策の検討が進められてきた。

国土交通省は各方面での検討成果を踏まえ16年6月24日、「超高層建築物等における南海トラフ沿いの巨大地震による長周期地震動への対策について」を公表した。

「対象地域」(後述)における長周期地震動への対策は、新築の場合と既存(中古)の場合とに分けられている。

新築の場合は、2017年4月1日以降に申請する「高さが60mを超える建物と4階建て以上の免震建物」の長周期地震動に対する安全性の検討が義務化されている。

既存(中古)の場合は、対象建物は同じだが、「自主的な検証や必要に応じた補強等の措置を講じることが望ましい」とされている(義務化されていない)。

対象地域内の既存の超高層建築物等について

対象地震による建設地の設計用長周期地震動の大きさが、設計時に構造計算に用いた地震動の大きさを上回る場合には、大きな揺れによる家具の転倒、内外装材や設備の損傷等による危害が発生するおそれがあることから、自主的な検証や必要に応じた補強等の措置を講じることが望ましい旨を周知します。なお、マンションを含む区分所有建物や庁舎等の公共建築物の耐震診断・耐震改修等の事業について、既存の国の支援制度の活用が可能です。

(超高層建築物等における南海トラフ沿いの巨大地震による長周期地震動への対策について|国交省)

分かりやすく言えば、2017年度以降に申請される超高層マンションや4階建て以上の免震マンションは長周期地震動対策がなされる。それより前に設計・施工されている同マンションは長周期地震動に対して大丈夫かどうか検証したほうがいいということだ。

検証の結果がNGの場合には、補強工事をしたほうがいい。ただし義務ではないよ、ということ。

ただ、すべての超高層マンションの耐震性能を検証せよということではなく、次図のように、長周期地震動対策の「対象地域」が示されている。

関東地域では、23区や横浜市、川崎市の全域が「設計時に構造計算に用いた地震動の大きさを上回る可能性がある地域」(緑色)に入っている。

長周期地震動対策の対象エリア

↓ 上図の拡大図

関東地域(PDF:1.2MB
静岡地域(PDF:0.7MB
中京地域(PDF:1.1MB
大阪地域(PDF:1.1MB

あなたの住んでいる超高層マンションは大丈夫か?

超高層マンションの耐震性能の検証に着手できるか?

上記の国交省の文書を踏まえれば、既存の超高層マンション(タワーマンション)については、義務ではないが長周期地震動の影響を検証しておくことが望ましいということになる。

すでに2011年の早い段階から独自の基準を設けて、長周期地震動を勘案した構造設計を実施している大手デベロッパーもいるが、2011年よりも前の超高層マンションはどうか。

設計段階で長周期地震動を勘案してこなかった超高層マンションの耐震性能の検証に手を付けられるのだろうか?

現実的にはかなり難しいのではないのか。

そう考える主な理由は3つ。お金の問題、人材確保の問題、合意形成のハードル。

お金の問題

超高層マンションの耐震性能を検証するには、それなりの時間とお金がかかる。検証結果がNGの場合には、さらに対策工事の立案から工事費の算定まで検討のための費用が必要となる。

設計時のデータを持っていない設計事務所にゼロから検討を依頼することは現実的ではない。となると、そのマンションを販売したデベロッパーを通じて、当時設計した設計事務所に依頼することになる。

競争原理が働かないから、高くつく(というか高いかどうか素人に判断ができるのか)。

人材確保の問題

ただ、それ以前に、多忙な設計事務所(あるいはゼネコンの設計部門)が、超高層マンションの耐震性能の検証などという面倒な仕事を引き受けてくれるかどうか

超高層マンションの耐震性能の検証を的確にできるような人材(優秀な構造エンジニア)は限られている。

合意形成のハードル

希少な人材をなんとか確保して、耐震性能を検証できたとする。もし検証結果がNGだったらどうするのか?

対策工事が必要になった場合に、億単位のカネをかけて工事を実施するための合意形成が図れなければ、それまでに費やした時間とお金が無駄になってしまう。だから、耐震性能を検証するということは、最悪の場合対策工事を行う覚悟があることが前提になるのだ。

制振補強工事を実施するとなると億単位のカネがかかる。住みながらの工事となるので工期も長くなり、日常生活への制約もあるだろう。

億単位の出費と長期に及ぶ日常生活の制約が必要となると、対策工事を実施するための合意形成は難しいのではないのだろうか。

かといって、NGのまま次のステップ(対策検討~対策工事)に進まなければ、風評被害リスク(資産価値の低下)が生じてしまう。

 

以上を勘案すると、超高層マンションの耐震性能の検証には着手しないのが得策という結論になってしまわないか。

国交省は合意形成を円滑に進めるため、次のような支援制度の利用が可能だとしているのだが……。

国の支援制度
「既存の超高層建築物等における南海トラフ沿いの巨大地震による長周期地震動対策 リーフレット」(PDF:5.7MB)より 

耐震性能の検証を実施するための合意形成が難しいとなると…

国交省が16年6月24日付で都道府県建築行政主務部長宛に発信した文書「超高層建築物等における南海トラフ沿いの巨大地震による長周期地震動対策について(技術的助言)」(PDF:796KB)には、既存の超高層建築物は、倒壊・崩壊することはなく、長周期地震動に対して一定の余裕がある旨が記されている。

既存の超高層建築物等は、短周期成分から一定の長周期成分までを含む複数の地震動について、建築物が倒壊・崩壊しないこと等を確かめており、既往の実験結果等を勘案すると、対象地震による長周期地震動に対して一定の余裕があると推察されますが、設計時に想定した地震動、使用材料及び接合部の種類、平面形状等により、必ずしも十分な余裕を有しているとは判断できないものも存在する可能性があります。

耐震性能の検証を実施するための合意形成が難しいとなると、あとは、転居するか、自分の住むマンションが「長周期地震動に対して一定の余裕がある」ことを祈るしかない……。 

超高層マンションの資産価値は長周期地震動対策の有無で決まる!?

1978年に発生した宮城県沖地震を契機として、1981年に建築基準法の耐震規定が大きく改正され、いわゆる現在の「新耐震基準」が制定された。
1981年6月よりも前の旧耐震基準で設計されたマンションとそれ以降の新耐震基準で設計されたマンションとでは資産価値が異なる。

では、長周期地震動対策以前の超高層マンションと、2017年4月1日以降に設計される長周期地震動対策済みの超高層マンションは、資産価値は異なるのか?

新耐震であるか否かでマンションの資産価値が異なるのだから、「長周期地震動対策済みであるか否かでマンションの資産価値が異なる」と捉えるのが自然だろう。

長周期地震動対策の有無が超高層マンションの資産価値に反映されていないとすれば、それは長周期地震動の問題点を世間がまだよく認識していないに過ぎないのでは。

NHKスペシャル「長周期パルス」の衝撃

以上は、3.11東日本大震災などの経験を踏まえた「長周期地震動対策」の話。

9月2日に放送されたNHKスペシャル「第1集 都市直下地震 新たな脅威 “長周期パルス”の衝撃」は、さらに「長周期地震動対策」の上をいく次元の話。

16年4月の熊本地震の際に、西原村役場に設置された地震計に記録された特殊な揺れ「長周期パルス」については、まだ研究が始まったばかり。

 

NHKスペシャルでは、工学院大学の久田嘉章教授の「本当に条件が悪いと、倒壊する可能性はゼロではなかった」というコメントが衝撃的であった。

※詳しくは、「長周期パルスの衝撃!NHKスペシャルを見て」ご参照。

 

長周期パルスについて、警鐘を鳴らしているのは久田嘉章教授だけではない。

建築の専門誌『日経アーキテクチュア』17年4月13日号の特集「追跡 熊本地震」の記事から、二人の教授のコメントを抜粋しておこう。二人とも、長周期パルスが発生した場合、超高層免震建物が大きな被害を受けていた可能性を指摘している。

【筑波大学 境有紀教授】

(略)「もし免震建物が西原村の周辺にあれば大きな被害を受けていた可能性がある」と境教授は指摘する。

「一般的な免震建物は建物と擁壁のクリアランスが50cm~100cmある。西原村の地震動による揺れが起これば、建物が擁壁にぶつかってしまうだろう」(P60)

【京都大学の林康裕教授】

京都大学の林康裕教授も、西原村の地震動特性が免震建物に与える影響を懸念する。林教授は大阪市域の上町断層帯近くに立つ超高層建物(高さ60m以上)219棟をせん断質点系にモデル化し、熊本地震で観測された地震動を入力して影響を検証した。注目したのはやはり32棟ある免震建物の擁壁への衝突の割合だ。

 シミュレーションに使った鉄筋コンクリート造(RC造)の免震建物は、擁壁と建物のクリアランスが60cm~80cmに分布している。一方、西原村の地震動を入力した場合の免震層の最大相対変位は100cmを超えた。つまり、免震層が揺れに応答する変位は、クリアランスの幅を大きく超えてしまうのだ。

 「熊本地震の揺れが上町断層帯で再現されると仮定すれば、ほぼすべての超高層免震建物が擁壁にぶつかる結果になった」と林教授は説明する。(P60-61)

 

ちなみに、熊本地震で観測された特殊な揺れは、学会では「パルス性の大振幅地震動」と呼ばれている(たとえば、日本建築学会近畿支部が17年11月6日に主催するシンポジウム「大振幅地震動に対する設計と地震対策の最新動向」)。

今後、世間的に定着する呼称は 「大振幅地震動」なのか、「長周期パルス」なのか……。 

まとめ

  • 長周期地震動とは南海トラフ地震のような規模の大きい地震が発生したときに生じる、周期(1往復するのにかかる時間)が長い揺れのこと。

  • 国土交通省が16年6月24日に公表した、「超高層建築物等における南海トラフ沿いの巨大地震による長周期地震動への対策について」によれば、既存(中古)の「高さが60mを超える建物と4階建て以上の免震建物」の長周期地震動に対する安全性を検証することが望ましいとされている。

  • お金や人材確保の問題、合意形成のハードルが高いなどの理由により、設計段階で長周期地震動を勘案してこなかった超高層マンションの耐震性能の検証に着手することは難しいのではないのか、というのが筆者の考え。

  • 耐震性能の検証を実施するための合意形成が難しいとなると……あとは、転居するか、自分の住むマンションが「長周期地震動に対して一定の余裕がある」ことを祈るしかない。

  • 新耐震であるか否かでマンションの資産価値が異なるのだから、「長周期地震動対策済みであるか否かでマンションの資産価値が異なる」と捉えるのが自然だろう。

  • 熊本地震の際に、西原村役場に設置された地震計に記録された特殊な揺れ「長周期パルス」については、まだ研究が始まったばかりだが――専門家らは、長周期パルスが発生した場合、超高層免震建物が大きな被害を受ける可能性を指摘している。

(追記)熊本地震データねつ造

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