マンション価格が高騰を続ける東京。その波は、賃貸マンションの家賃にも静かに、しかし確実に押し寄せている。ただし、23区すべてが同じペースで値上がりしているわけではない。
前編では、過去10年の賃料データをもとにクラスター分析を実施し、東京23区を5つのグループに分類した。
今回はその続編である。インフレや需給の逼迫、金利動向、そして外国人需要といった外部要因をふまえ、2026年・2027年の賃料を予測する。果たして東京の家賃はどこまで上昇するのか。
予測の方法:どうやって未来を予想したか
データとアプローチ
用いたのは、東日本不動産流通機構が公表する「首都圏賃貸取引動向」だ。2015年Q1から2025年Q1まで、全41四半期分の賃料データ(円/㎡)を収集し、区ごとの年平均成長率(CAGR)を算出。これに加えて、インフレ、金利、需給、外国人需要といったマクロ要因を勘案し、未来の賃料を導いた。
予測はシンプルだ。過去の成長率(例:千代田区2.58%/年)に、経済要因(例:インフレ2.0%、需給1.0%)を足して総合成長率(例:千代田区5.58%/年)を算出。2025年Q1の賃料にこの成長率を複利で適用し、2026年Q1と2027年Q1の賃料をはじき出した。過去データのトレンドは、時系列モデル(ARIMA)で検証し、信頼性を確保。ARIMAはデータの長期的な流れや変動を捉える手法だが、今回は確定データ(2025年Q1)があるため、複雑な計算は省き、わかりやすさを優先した。
※ARIMA(Auto Regressive Integrated Moving Average:自己回帰和分移動平均)モデルは、時系列分析および時系列で将来生じ得る値を予測するための手法。データのトレンド、季節性、ランダムな変動を捉え、それらのパターンを基に将来の値を予測することができる。
外部要因:家賃を動かす4つの力
予測モデルに組み込んだのは、以下4つの要因である。
- インフレ:物価が上がれば家賃も連動。2025~2027年は2.0%と保守的に見積もる。建設コストの上昇も家賃を押し上げる。
- 金利:日銀の利上げ(長期金利0.5%→1%想定)で投資利回りが圧縮され、賃料上昇がやや抑えられる(▲0.5%)。
- 需給:東京の賃貸市場は供給不足。需給逼迫を踏まえ、エリアにより0.3~1.0%の上乗せ。
- 外国人需要:外国人投資家による物件需要や転入超過が賃料を押し上げる。0.0~0.5%の上乗せ。
予測のステップ
- 過去10年のCAGRを算出(例:千代田区2.58%)。
- 外部要因(インフレ2.0%、金利▲0.5%、需給0.3~1.0%、外国人需要0.0~0.5%)を加え、総合成長率を計算。
- 2025年Q1の賃料に対し、総合成長率を複利で適用(2026年Q1=1年、2027年Q1=2年)。
- 結果を円/㎡で四捨五入。
各区の外部要因調整と総合成長率を次表に示す。

予測結果:23区の賃料、どこまで上がる?
2027年第1四半期(1-3月)の予測賃料(円/月・㎡)を次図に示す。

23区を2025年Q1の賃料水準で5グループに分け、2026~2027年の上昇率を予測。過去の成長率(CAGR)と経済要因の影響で、グループごとの差が鮮明だ。
- グループ1(高価格帯:千代田、中央、港、渋谷)
- 総合成長率:年5.0~6.3%
- 2025年Q1賃料:4,863~5,367円/㎡
- インフレ+需給+外国人需要で、全区が5%超
- 例:千代田区は2025年Q1の5,041円/㎡→2027年Q1に5,403円/㎡へ。
- グループ2(中価格帯:新宿、目黒、品川、文京、台東)
- 総合成長率:年4.8~5.4%
- 2025年Q1賃料賃料:3,882~4,283円/㎡
- 観光・交通利便性が強み。台東(5.42%)は特に顕著
- 例:新宿は2025年Q1の4,283円/㎡→2027年Q1に4,568円/㎡へ
- グループ3(中~低価格帯:江東、墨田、中野、世田谷、豊島)
- 総合成長率:年4.0~5.3%
- 2025年Q1賃料賃料:3,545~3,776円/㎡
- 再開発や利便性の向上が背景。墨田(5.32%)が代表例
- 例:江東は2025年Q1の3,776円/㎡、2027年Q1に3,998円/㎡へ
- グループ4(低価格帯:杉並、大田、北、荒川)
- 総合成長率:年3.2~4.5%
- 2025年Q1賃料賃料:3,269~3,378円/㎡
- 落ち着いた住宅地として堅調な伸び。荒川(4.54%)がやや突出
- 例:杉並は2025年Q1の3,369円/㎡→2027年Q1に3,508円/㎡へ
- グループ5(さらに低価格帯:板橋、練馬、江戸川、葛飾、足立)
- 総合成長率:年3.3~4.8%
- 2025年Q1賃料賃料:2,552~2,986円/㎡
- 葛飾(4.80%)や足立(4.62%)は過去の急成長(CAGR 3.00%、2.82%)でグループ4を上回る
- 例:葛飾は2025年Q1の2,797円/㎡→2027年Q1に2,969円/㎡へ。
- ※総合成長率は賃料水準だけでなく、過去の成長率(CAGR)と外部要因(需給、政策)の影響を受ける。グループ5の区(例:葛飾、足立)のCAGRが予想以上に高く、外部要因の加算により成長率がグループ4を上回った。
これら5つのグループを代表する区の賃料の推移(2026・2027年第1四半期の推定値を含む)を次図に示す。

参考補足:台東区の再分類
- 前編では、台東区の賃料推移が江東区や墨田区に近かったため、グループ3に分類。しかし今回は、2025年Q1の賃料水準(3,882円)、高めの成長率(5.42%)、観光需要の強さを考慮し、グループ2へと移した。台東区のポテンシャルは、投資判断において見逃せない。
予測の限界:どこまで信じられるか?
本分析で用いたのは、四半期ごとの平均賃料である。高級マンションや駅近・築浅物件といった局所的なプレミアムは反映されていない。
また、インフレ率や需給などの外部要因は、過去傾向と市場予測に基づく推定値に過ぎず、2026~2027年にかけての経済ショック(地政学リスク、金利急変、国際情勢の不安定化など)は織り込んでいない。
まとめ:東京の家賃、上がるのはどこか
東京23区の家賃は、今後もじわじわと上昇していく。だが、そのペースは一律ではない。都心の一等地である中央区や渋谷区では、すでに高水準の家賃がさらに上がる見通しであり、一般の住まい探しには現実味が薄い。一方で、葛飾区や足立区のような郊外エリアでも、成長率は無視できない。これまで家賃が比較的抑えられていた分、上げ幅はむしろ大きく見える。
「少しでも安い家賃で」「将来的にも家計を圧迫しない場所で暮らしたい」。そう願うのであれば、家賃の水準だけでなく、今後どれだけ伸びる可能性があるかにも目を向けたい。価格が上がりきっていないエリアでも、数年で住環境が変わり、じわじわと値上がりしていく区がある。
2027年、自分が住んでいるエリアの家賃が「ちょっと高くなったな」で済むのか、それとも「もう手が出ない」に変わるのか。データをもとに、いまから備えておくに越したことはない。
※本記事の情報は予測に基づくものであり、物件選定や投資判断は自己責任でお願いします。
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