朝日新聞社は5月28日、2024年3月期の連結決算を発表。
今期の決算はどうだったのか。朝日新聞社が6月26日に提出した「有価証券報告書-第171期(2023/04/01-2024/03/31)」をひも解いてみた。
- 朝日新聞社3月期決算、2年ぶり営業黒字(朝日記事)
- 朝日新聞は不動産事業に支えられている
- 朝日新聞による自己分析:ウクライナ侵攻を機に原燃料や新聞用紙の価格が高騰したから購読料改定が必要と判断
- 雑感(このままだと朝日新聞は生き残るのは厳しい…)
朝日新聞社3月期決算、2年ぶり営業黒字(朝日記事)
朝日新聞は5月29日、24年3月期連結決算で「2年ぶりの黒字」であったことを自ら報じている。
朝日新聞社の3月期決算、2年ぶり営業黒字
朝日新聞社が28日発表した2024年3月期連結決算は、売上高が前年比0・8%増の2691億1600万円、営業損益が57億8100万円の黒字で、前年の4億1900万円の赤字から2年ぶりの黒字に転じた。
昨年5月の新聞購読料の改定のほか、インバウンド需要で好調だった不動産事業が収入を押し上げ、増収となった。(以下略)
朝日新聞は不動産事業に支えられている
大手4紙のなかで唯一、有価証券報告書を公開している朝日新聞社の経営状況を確認してみよう。
EDINETで入手可能な有価証券報告書をひも解き、朝日新聞社の収益構造を調べてみると、同社は新聞出版事業者というよりも不動産屋であることがよく分かる。
セグメント別の売上高の推移
セグメント別の売上高の推移をみると、メディア・コンテンツ事業(旧 新聞出版事業)が圧倒的に多いが、年々減少している。一方、不動産事業は、増加傾向(次図)。
※不動産事業の21年3月期は、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け減少した。
セグメント別の利益額・率の推移
※次図参照。
メディア・コンテンツ事業
- 利益額
17年3月期以降50億円を超えることはなく、20年3月期、21年3月期と2年連続マイナスに沈んだあと、22年3月期に2年ぶりに黒字になったのだが、23年3月期再びマイナスに沈む。24年3月期は、23年5月1日の値上げもむなしく2年連続のマイナス。 - 利益率
2%を超えることはなく、24年3月期は▲1.1%まで落ち込んだ。
不動産事業
- 利益額
20年3月期にピーク(74億円)を記録したあと、21年3月期52億円、22年3月期50億円と減少したが、23年3月期は66億円まで戻し、24年3月期は41億円まで増加。 - 利益率
21年3月期18.1%、22年3月期16.5%と減少したが、23年3月期に19.2%まで戻したあと、24年3月期は20%を超えた。
24年3月期は、不動産事業がメディア・コンテンツ事業の赤字をカバーした。
従業員数・給与の推移
朝日新聞の厳しい経営環境は従業員数と給与にも暗い影を落としている。
朝日新聞グループとしてはこれまで、メディア・コンテンツ事業に係る従業員数は7千人を超えていたのだが(臨時従業員を含む)、メディア・コンテンツ事業が20年3月期に大赤字になった翌年以降、毎年削減されている(次図)。
社員は徐々に高齢化し、平均年間給与はこの12年間で約140万円(▲10.9%)下がっている(次図)。
※年齢・給与データは、3つのセグメント(メディア・コンテンツ事業、不動産事業、その他の事業)の平均値。
朝日新聞による自己分析:ウクライナ侵攻を機に原燃料や新聞用紙の価格が高騰したから購読料改定が必要と判断
このようなメディア・コンテンツ事業(旧 新聞出版事業)の厳しい状況を朝日新聞社はどのようにとらえているのか。
有価証券報告書-第171期(2023/04/01-2024/03/31)に「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」が記されているので、一部抜粋しておこう。
22年2月のロシアによるウクライナ侵攻を機に原燃料や新聞用紙の価格が高騰したことから、安定的な新聞発行を続けるためにも購読料改定が必要と判断したとしている。
メディア・コンテンツ事業
主力のプリントメディア事業では、23年5月に「朝日新聞」の購読料を改定した。月ぎめ購読料は、朝夕刊セット版を4,400円から4,900円へ、統合版を3,500円から4,000円へ改定した(いずれも税込み)。前回の購読料改定は21年7月だったが、その後の22年2月のロシアによるウクライナ侵攻を機に原燃料や新聞用紙の価格が高騰したことから、安定的な新聞発行を続けるためにも購読料改定が必要と判断した。
新聞発行の効率化も進めた。23年春から、北海道と東北地方の一部の新聞発行について、それぞれ㈱北海道新聞社及びそのグループ企業、㈱河北新報社への委託を拡大した。また夕刊の発行を23年4月末に愛知、岐阜、三重の3県で、24年3月末に北海道で休止した。「朝日新聞」の年間平均部数は朝刊358万部、夕刊106万5千部(前期比で朝刊41万1千部減、夕刊17万2千部減)だった。部数減に伴い、広告収入や折込収入が減収となった。
(中略)
㈱朝日新聞出版では、101年続いた「週刊朝日」を部数減や広告減により23年5月末で休刊した。今後は週刊誌「AERA」のほか、デジタル版の「AERA dot.」に注力する。
(中略)
当セグメントの売上高は225,803百万円と前年同期と比べ4,119百万円(△1.8%)の減収、セグメント損失は2,546百万円(前年同期の損失は7,047百万円)となった。
雑感(このままだと朝日新聞は生き残るのは厳しい…)
- 筆者は長年の愛読者として、最近の朝日新聞は読みごたえがなくなったと感じている。専門的な内容であれば、その分野を熟知したブロガーの記事のほうがはるかに読みごたえがあるからだ。
- 株価一覧を掲載するのは紙資源のムダだし、ネットを使えない老人向けだとするならば、ゴマ粒サイズの小さな文字は相応しくない。株価掲載ニーズがホントにあるのか、調査結果を知りたいところだ。
- 朝日新聞の強みは、一個人では対応が困難な調査記事と、難しいことを分かりやすく伝えられる編集能力だと思う。これらの強みを活かしたうえで、もっと収益性を高められるようなビジネスモデルの構築がなければ、朝日新聞は生き残るのは厳しいのではないか。
- 朝日新聞の発行部数は減少し続けている(次図)。新聞の値上げ(朝夕刊セット:4,400円⇒4,900円)は収益改善よりも新聞離れを引き起こしていないか……。
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