住宅関連の音・振動環境の対策や研究の第一人者である井上勝夫日大名誉教授著『マンションの「音のトラブル」を解決する本』あさ出版(2021/1/27)を読了。
初心者にも分かりやすい言葉で丁寧に解説されているので、マンションの音が気になる人にお勧めしたい。
※朱書きは、筆者コメント。
下階からの苦情に誠実な対応をとらなかった上階住人
下階からの苦情に対して、誠実な対応をとらず、生活のしかたを変えていなかった態度を「常識に欠ける対応」として、数十万円の損害賠償を命じられた例。
下階からの苦情に誠実な対応をとらなかった上階住人
こんなケースがありました。
マンションの上階に幼児のいる家族が越してきました。子どもが遊ぶときの飛び跳ねやおもちやの落下音、さらに歩いたり、走ったりする音が午後7時以降、深夜まで及ぶことがあったそうです。
そのため下階の住人は、睡眠障害、健康被害、ノイローゼなどの精神的被害を受けたとして、上階の住人に対して「不法行為に基づく損害賠償」を請求したのです。
訴えた下階の人は上階からの衝撃音を測定していましたが、そのレベルは50~65デシベル程度でした。裁判所で上階を調べたところ、上階の床材は遮音性能の低いものでした。
にもかかわらず、上階の住人は下階からの苦情に対して、誠実な対応をとらず、生活のしかたを変えていなかったのです。裁判所ではその態度を「常識に欠ける対応」として、上階の住人に数十万円の損害賠償と訴訟費用を負担するよう命じています。(P112-113/第4章 まずは加害者にならない)
※常識的な対応をしていないと裁判で負けてしまうという、東京地裁20年超所属で多数の訴訟事件を手掛けた筆者の教えは肝に銘じておいたい。
BGMで音に音をかぶせるのは有効
高い音が聞こえてきたら、なるべく高音の音楽をかけたり、低い音の場合は低音の音楽をBGMにするなど同じ周波数附近の音を含んでいる音楽をかけるのがいいとして、マーラーとホルスト、ショパンの曲の周波数が紹介されている。
BGMで音に音をかぶせるのは有効
被害者側で誰でもできる有効な対策方法は、音に音をかぶせる「マスキング」という方法です。てっとり早いのは、BGMを流すこと。できれば環境音楽など、意昧がない音が流れるものがおすすめです。
この場合、聞こえてくる音と同じような周波数の音が含まれていると効果的です。たとえば、テレビの音がうるさいのなら、こちらもテレビをつけると、聞こえてくる音を特定しにくくなります。(中略)
知り合いから聞いた話では、隣から重低音の騒音が聞こえてくるときは、マーラーの交響曲やホルストの「惑星」を流すと言っていました。これらの曲は管楽器の低い音が多く含まれていますので、音をマスクする効果が大きいのかもしれません。
私がマーラーとホルスト、ショパンの曲の周波数を調べてみたところ、左図のような周波数が多く含まれていました。聞こえてくる騒音に合わせてBGMの音楽を探してみるのも楽しいでしょう。(P128-130/第5章 被害者になったらどうする?)
※上表を可視化したのが次図。たしかに4つの曲は125ヘルツの音を多く含んでいる。
業者との契約では遮音性能に関して一筆入れる
リフォームを依頼するさいには、契約条件として「現状より遮音性能を落とさないこと」という一項を入れ、できればリフォームの前と後で性能値をはかるという一項を入れるのが理想だという。
業者との契約では遮音性能に関して一筆入れる
業者にリフォームを依頼するさいには、契約条件として「現状より遮音性能を落とさないこと」という一項を入れてもらうといいと思います。そのさい、できればリフォームの前と後で性能値をはかるという一項を入れるのが理想です。
(中略)
業者はいやがるでしょうが、あくまでも住むのはこちらですので、譲れない点はしっかり伝えたほうがいいでしょう。(P164-165/第7章 リフォームするさいに気をつけること)
※契約に一筆入れておきたいのはやまやまだが、業者がすんなりと応じてくれるのかどうか。そのあたりの交渉テクニックの記述がほしかった。
本書の構成
8章構成。全207頁。
- 第1章 マンションの音はなぜ気になるのか
- 第2章 音の正体を知る
- 第3章 どんな音が問題になる?
- 第4章 まずは加害者にならない
- 第5章 被害者になったらどうする?
- 第6章 管理組合の役員になったら?
- 第7章 リフォームするさいに気をつけること
- 第8章 買うときはここをチェック
あわせて読みたい