フリージャーナリスト三宅勝久氏の労作『大東建託の内幕』同時代社 (2018/6/18)を読了。
『いい部屋ネット』(桜井日奈子)のテレビCMが醸し出す好印象とは真逆の世界が描かれている。
営業は半年間契約が取れなければクビ
「営業は半年間契約が取れなければクビになります。契約見込み客のあてがなければ、朝から夜遅くまで民家を訪ね歩く『終日飛び込み』という営業をさせられる。
「営業は半年間契約が取れなければクビになります。契約見込み客のあてがなければ、朝から夜遅くまで民家を訪ね歩く『終日飛び込み』という営業をさせられる。とても苦痛です。だからみんな必死です。『どうなんだ』と上司に言われれば、『やります』と言うしかない。できるかどうかわからなくても、『リッチ△件やります』と言うしかないんです」
怒鳴りつけられるのは建築営業のヒラ社員だけではない。月に一、二度は部長クラスの幹部が見回りにくる。そういうときは課長も容赦なく叱責された。(P35/第2章 会長の報酬は二・六億円 労災認定も責任とらず)
大東建託の2017年度の売上高は6,276億円。「設計事務所・建設会社の売上高ランキング2017」65社のなかで8位。第7位の鹿島に次ぐ。ところが、大東建託の社員の平均勤続年数は8.1年。65社のなかで下から2番目(ワーストはアイダ設計の6.4年)。
支店では当たり前だった「テンプラ契約」
支店では数字を上げるための架空契約(テンプラ契約)が当たり前だったという。
支店の数字を上げるために架空契約をするのは、大東建託ではよくあることなんです。「テンプラを挙げる」と言います。親しいオーナーに頼んで、本当は建てる気がないのに契約書だけつくってもらう。それを支店の成績として報告するわけです。契約したあとは、いろいろ口実をつけて作業を進めさせないでおいて、ころあいをみて解約するんです。「頼むから契約取ってきてくれ」と上司に頼まれてやっていました。この架空契約をする際、受注金などを立て替える必要があって、それがヤミ金に借りるきっかけとなりました。
(P57-58/第4章 転落したトップセールスマン)
闇金の返済に苦しんだこのトップセールスマンは、遂に上司の免許証を使って銀行のカードローンを申し込もうとして逮捕された。とても一社員の問題だとは思えない闇の深さを感じる。
松本支店殺人未遂事件
大東建託松本支店の建築営業社員が顧客と家族をハンマーで激しく殴打し、瀕死の重傷を負わせた「松本支店殺人未遂事件」。
翌12月1日の新聞各紙の記事をみると、すべて「大東建託」の名前が匿名になっていた。大東建託のホームページを確かめたが、事件に関する記述は見当たらなかった。
城田氏の起こした事件は、徹頭徹尾城田氏個人の犯罪として裁かれた。しかし、本質的には大東建託という問題企業が引き起こした事件というべきだろう。そして、深刻な問題を抱えた企業であることが歴然としているにもかかわらず、黙認し、宣伝を流すという形で肩を貸してきた新聞やテレビなどの大マスメディア、是正に手をこまねいてきた国上交通省をはじめとする行政当局にも、責任の一端があるはずだ。
(中略)
判決からしばらく後、ブラック企業大賞のニュースが報じられた。その候補に大東建託の名はなかった。一方で、経済産業省が2018年2月に発表した「健康経営優良法人(大規模法人部門)~ホワイト500~」には、前年に続いてしっかりと名を連ねていた。(P211/第14章 松本支店殺人未遂事件 「優秀な」営業マンはなぜ破滅したのか)
本書で描かれたブラックな数々は「ホワイト500」のイメージからは程遠い。大東建託の企業CM『生きることは、託すこと。』(松重豊、宮田早苗、池松壮亮、佐久間由衣)や『いい部屋ネット』(桜井日奈子)のテレビCMが醸し出す好印象とのギャップがあり過ぎる。
マスメディアが報じていないので実態はよく分からないが、大東建託の社員の平均勤続年数8.1年(65社のなかで下から2番目)がすべてを物語っているのではないか……。
本書の構成
3部、14章で構成されている。全217頁。
第1部 使い捨てられる社員たち
- 第1章 藤枝支店自死事件
- 第2章 会長の報酬は二・六億円 労災認定も責任とらず
- 第3章 欠陥建築の尻ぬぐいで過労死寸前
- 第4章 転落したトップセールスマン
- 第5章 埼玉支店 不正で大量解雇も隠蔽
第2部 家主の夢と現実
- 第6章 近隣住民を憤慨させた工事強行未遂
- 第7章 退去費用ゼロで「退去せよ」の非常識
- 第8章 銀行融資一億円を宙に浮かせたままで建築強行
- 第9章 強引に家賃下げられた家主が不安の声
- 第10章 だまされた高齢者「二部屋だと思ったら一部屋だった!」
第3部 自壊への道
- 第11章 労組結成で対抗「二年間契約とれなければ首」の異常
- 第12章 取材に応じたら懲戒処分された!
- 第13章 八千代支店と赤羽支店で自死が相次いで発生
- 第14章 松本支店殺人未遂事件 「優秀な」営業マンはなぜ破滅したのか
『大東建託の内幕』
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