10月14日、三井不動産グループが2006年に販売した横浜市都筑区の大規模「パークシティLaLa横浜」が傾いている問題が発覚。
建物の傾きが確認されたのは4棟のうちの1棟。
2014年11月、住民から廊下の手すり部分の高さに差があるという指摘を受け、三井不動産レジデンシャルと三井住友建設が調査をしたところ、傾いたマンションの計52本の杭のうち28本の調査を終えた時点で、6本の杭が地盤の強固な「支持層」に到達しておらず、2本も打ち込まれた長さが不十分であることが判明したという。
物件概要
物件概要は次の通り。
- 総戸数:705戸
- 建物階数:地上12階
- 完成時期:2007年12月
- 売主:三井不動産レジデンシャル、明豊エンタープライズ
- 施工:三井住友建設
今回発覚した「杭データ偽装事件」は、2005年11月17日に発覚した耐震構造偽装事件と何が違うのか?
「耐震構造偽装事件」は一人の建築士が偽装
耐震構造偽装事件は一人の建築士によって、構造計算書が偽装された事件。
その後、再発防止策として、第三者機関による構造審査(ピアチェック)などが導入され、マンション事業の遅延コスト増や、設計・工事監理などのコスト増が、最終的にはマンション価格の上昇につながることとなった。
「マスコミ情報では分からない!過去14年間の新築マンション市場を可視化して分かったこと 」より
「杭データ偽装事件」は建材メーカーの担当者が偽装?
では今回発覚した「杭データ偽装事件」の起因者は誰なのか?
日経新聞電子版によれば、杭の打ち込み状況を判定する計測したデータを旭化成建材の担当者が偽装したとされている。
杭を打ち込む際は掘削した土の抵抗を数値化したデータを使う。記録機は重機の運転席の後ろにあり、計測したデータを旭化成建材の担当者が使い回したり、加筆したりしたとみられる。
同社は横浜市の調査に対し、こうした事実を認めたという。虚偽のデータを使った動機などはまだ分かっていない。
(日本経済新聞 電子版 2015年10月15日 1:02)
「耐震構造偽装事件」はピアチェックの導入で再発防止
耐震構造偽装の場合には、その後建築関係法令が改正され、第三者機関が構造計算書をチェック(ピアチェック)することで、再発防止が可能であるという建付けとなった。
また、設計や施工の責任の明確化の観点から、図書類の長期保存が義務付けられ(建築士法第24条の4)、構造計算書は15年の保存が義務付けられている(建築士法施行規則第21条4項2号)。
建物が竣工した後も増改造際には、構造計算チェックの必要があるので、実際には構造計算書を永久保存扱いとしている場合が多い。
「杭データ偽装事件」の再発防止は可能か?
構造計算書は法律で15年の保存義務が課せられているのに対して、杭の施工に係るデータの保存期間は特に法律で定められていない。
15年間の保存義務のある「工事監理計画書」では、特に杭の打ち込み状況を判定するための計測データを記録するようなところまでは求められていない。
だから、古い建物については、 杭の施工者などが自主的に長期保存していないと、杭の計測データに偽造があったか確認することができない。
「耐震構造偽装事件」の場合には、構造計算書を第三者機関が再計算するということで話がうまく収まった。
でも、「杭データ偽装事件」の場合は第三者機関がチェックすべきデータが必ずしも残されていないことに加え、仮に残されたデータがあったとしても、そのデータを計算によって確認できるという性質のものではないということに問題解決の難しさがある。
1人のおバカな一級建築士が起こした耐震偽造事件は、最終的にはマンションのコストアップをもたらした(耐震偽装事件で生まれた、建築士の定期講習市場は10億円?)。
今回の杭データ偽装事件は、どのように決着が図られるのだろうか。
(本日、マンション広告なし)