朝日新聞社が「11年ぶりの赤字」という衝撃的なニュースが報じられたのは昨年の5月。
今期の決算はどうだったのか。
朝日新聞社が6月27日に提出した有価証券報告書 ‐ 第169期(21年4月1日 ‐ 22年3月31日)をひも解いてみた。
朝日新聞社、2年ぶりの黒字 22年3月期決算(朝日記事)
朝日新聞は5月27日、22年3月期連結決算で2年ぶりの黒字だったことを自ら報じている。
黒字に貢献したのは昨年7月の購読料改定や支出削減だという。
朝日新聞社、2年ぶりの黒字 22年3月期決算
朝日新聞社が27日発表した2022年3月期連結決算は、売上高が前年比7.2%減の2724億7300万円、営業損益が95億100万円の黒字で、新型コロナの影響を受けた前年の70億3100万円の赤字から2年ぶりに黒字へ転じた。
昨年7月の購読料改定や支出削減が収益改善に貢献した。純損益も129億4300万円の黒字で、前年の441億9400万円の赤字から2年ぶりの黒字となった。(以下略)
(朝日新聞 22年5月27日)
朝日新聞は不動産事業に支えられているのだが…
大手4紙のなかで唯一、有価証券報告書を公開している朝日新聞社の経営状況を確認してみよう。
EDINETで入手可能な有価証券報告書をひも解き、朝日新聞社の収益構造を調べてみると、同社は新聞出版事業者というよりも不動産屋であることがよく分かる。
セグメント別の売上高の推移
セグメント別の売上高の推移をみると、メディア・コンテンツ事業(旧 新聞出版事業)が圧倒的に多いが、年々減少している。一方、不動産事業は、年々増加している。ただ、21年3月期は新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け減少した(次図)。
セグメント別の利益額・率の推移
利益額でみると、メディア・コンテンツ事業は、17年3月期以降50億円を超えることはなく、20年3月期、21年3月期と2年連続マイナスに沈み、22年3月期に2年ぶりに黒字になった。また、利益率は2%を超えることはなく、21年3月期には▲4.6%にまで大きく落ち込んだ(次図)。
一方、不動産事業のほうは、利益額は20年3月期にピーク(74億円)を記録したあと、21年3月期52億円、22年3月期50億円と減少。利益率も19.2%(20年3月期)から16.5%(22年3月期5)に減少した。
21年3月期は新型コロナ感染拡大の影響が大きく、不動産事業がメディア・コンテンツ事業の赤字をカバーできなかったのだが、22年3月期はメディア・コンテンツ事業が45億円と大幅に増加した(※大幅増の原因分析は後述)。
従業員数・給与の推移
朝日新聞の厳しい経営環境は従業員数と給与にも暗い影を落としている。
朝日新聞グループとしてはこれまで、7千人を超えていたのだが(臨時従業員を含む)、メディア・コンテンツ事業が20年3月期に大赤字になったことを受けたのであろうか、2年連続で大幅に削減されている(次図)。
社員は徐々に高齢化しているものの、平均年間給与はこの10年間で約170万円(▲13.5%)下がっている(次図)。
朝日新聞による自己分析
このようなメディア・コンテンツ事業(旧 新聞出版事業)の厳しい状況を朝日新聞社はどのようにとらえているのか。
有価証券報告書(第169期、21年4月1日~22年3月31日)に「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」が記されているので、一部抜粋しておこう。
27年7カ月ぶりの月ぎめ購読料の改定や秋の衆院選の選挙広告の獲得などによって、メディア・コンテンツ事業の利益は4,466百万円と前年同期の損失12,025百万円から利益に転じたとしている。
メディア・コンテンツ事業
(前略)朝日新聞の年間平均部数は455万7千部、夕刊134万2千部(前期比で朝刊39万部減、夕刊14万部減)。21年7月には本紙の月ぎめ購読料を1993年12月以来、27年7カ月ぶりに改定した。購読料改定の影響による購読止めは、ASAの対応に加え、読者サービスやプロモーションなどの施策も功を奏し、想定した範囲内に抑えられている。
(中略)
メディアビジネス扱総収入は前年同期を上回った。しかし、19年度との比較ではコロナ禍による収入減が継続している。1年延期された後に開催された東京オリンピック・パラリンピックは緊急事態宣言下だった影響もあり大幅な増収機会とはならなかったが、秋の衆院選では前回(2017年)を上回る選挙広告を獲得した。
企画事業では、コロナ禍による人数規制のため「大英博物館ミイラ展」「国宝 鳥獣戯画のすべて」など大型催事の動員数が伸び悩んだ。一方で、2年連続のオンライン開催となった国際シンポジウム「朝日地球会議2021」は、視聴者数が5日間でのべ約105万人に達し、前回の実績から倍増した。
(中略)
当セグメントの売上高は239,237百万円と前年同期と比べ23,476百万円(△8.9%)の減収、セグメント利益は4,466百万円と前年同期の損失12,025百万円から利益に転じた。(以下略)
黒字の要因分析
2年ぶりの黒字確保に対して、月ぎめ購読料の値上げや秋の衆院選の広告獲得などはどの程度貢献したのか。具体的な数字はどうだったのか。
まず、月ぎめ購読料の値上げの影響を分析してみる。
朝日新聞の月ぎめ購読料は朝夕刊セット版が昨年7月1日から4,037円から4,400円に値上げされた(本紙購読料改定のお知らせ|朝日新聞社 21年6月10日)。
一方、有価証券報告書の「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」によれば、朝日新聞の年間平均部数は20年が494万7千部、21年が455万7千部(▲39万部減)。
これらを前提に次式より、月ぎめ購読料の値上げによって売り上げが約7.1億円増加したと推定できる。
- 7億1,785万円=(4,400円-4,037円)×(455万7千部-494万7千部)×9か月(7~3月)
メディア・コンテンツ事業の利益額が21年3月期▲120億円から22年3月期44億円に増加したことを考えると、月ぎめ購読料の値上げによる売上高7億円程度は焼け石に水であることが分かる。
利益額44億円に大きく貢献したのは、衆院選の広告費だったのか?
残念ながら広告費の内訳は開示されていないので、衆院選の広告影響を分析することはできない。
人件費の削減が大きく貢献したのではないか。
朝日新聞社単体の人件費(=従業員数×平均年間給与)と人件費の前年との差の推移を可視化したのが次図。
従業員削減による効果は21年47億円、22年37億円。
※朝日新聞社連結の人経費は公開されていない。
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