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修繕積立金が安い理由

2月12日記事[修繕積立金の研究]に対して、「よ」さんから、分譲当初の修繕積立金を抑えているのはなぜなのかという主旨の質問をいただいた。
新築分譲マンションの修繕積立金の月額が低いのは、消費者の無知に付け込んだデベロッパーの販促ワザのひとつであるというのが筆者の結論。
以下に説明しよう。



少し古いデータになるが、国交省が約4年前(平成16年2月25日)に公表した「平成15年度マンション総合調査結果について」によれば、有効回答1,058物件のうち、修繕積立金の算出根拠として、77.1%は「長期修繕計画の必要額を参考に決定」されているが、「管理費の一定割合(10.5%)」や「近隣の他のマンションの例を参考に決定(1.4%)」といったトンデモナイ物件が1割以上ある。
なぜ、こんなデタラメな設定がなされているのか。
理由は簡単だ。
管理費を低く設定してしまうと、管理を受託するであろうデベロッパーのグループ会社の売り上げ減につながるが――。
デベロッパーにとって、修繕積立金が足りていようがなかろうが、売り上げに関係ないからだ。
むしろ修繕積立金を抑えることで、消費者に月々これくらいであればやっていけそうだとう幻想を抱かせる効果が得られる。
本来的には、20年〜30年程度の長期修繕計画をシッカリ策定し、将来必要となる工事費の累計額から逆算して月々の積立額を決めるべきだ。
また、段階的に修繕積立金を上昇させるから、新築時の積立金は安い、という主張も疑問だ。
段階的に上昇していく修繕積立金の支払いに耐えられない人が出てきたらどうなるか。
20年〜30年間フラットな負担のほうが好ましいのは、サブプライム問題の例をみるまでもなく、住宅ローンでも同じだと思う。
では、分譲当初の修繕積立金を抑える目的が「よ」さんの想定された「短期転売者の負担軽減」かといえば、それも的確ではない。
マンションのそのときの資産価値は、将来必要となる修繕工事のための積立金が適切に積み立てられていてこそ、維持されるもの。
短期転売する人のために修繕積立金が低く設定されていると、そのようなマンションの資産価値は低くなるから、転売価格も低くなってしまうだろう。
修繕積立金は、マンションの資産価値を維持するための必要経費。
高い修繕積立金を設定している物件のデベロッパーほど良心的といえるかもしれない。



なお、旧金融公庫の修繕積立金の1戸あたり月額6,000円(築5年未満)という基準は必ずしも万能ではない。
財団法人マンション管理センターのホームページに掲載されている「標準モデル(8階建75戸、専有面積69m2/戸)」の試算では、以下のとおり1戸あたり月額12,000円程度必要としている。

  • 部位:修繕工事費(千円/戸)÷修繕周期(年)=年当り必要額(千円/戸)
    • 外壁: 700(千円/戸)÷12年=58.3(千円/戸)
    • 鉄部塗装:66(千円/戸)÷4年=16.5(千円/戸)
    • 屋上防水:59(千円/戸)÷12年=4.9(千円/戸)
    • 給水管: 279(千円/戸)÷20年=13.9(千円/戸)
    • 雑排水管: 134(千円/戸)÷20年=6.7(千円/戸)
    • ガス管: 34(千円/戸)÷30年=1.1(千円/戸)
    • 電気設備: 148(千円/戸)÷20年=7.4(千円/戸)
    • 給水設備: 241(千円/戸)÷25年=9.6(千円/戸)
    • エレベータ設備: 200(千円/戸)÷30年=6.7(千円/戸)
    • 診断等費用: 145(千円/戸)÷12年=12.1(千円/戸)
  • 上記合計:137.2(千円/戸)

上記の主要項目のほか、たとえば、テレビ共聴施設の取替えや集合郵便受箱の取替などこまごました物の分を一括して上記主要項目の合計額の3%程度と想定し、

  • 137.2千円/戸×1.03÷12ヶ月=11.776千円/戸・月 ⇒月額12,000円程度
2023年6月1日、このブログ開設から19周年を迎えました (^_^)/
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