新聞全紙大のシッカリとした紙質のチラシ。
手に取ってみると、マンションチラシではなく、介護付き有料老人ホームのチラシだった。
【施設概要】居室数41室、鉄筋コンクリート造1棟5階建。ユニットケアタイプ(22.05m2〜24.11m2)、マンションタイプ22.05m2〜44.10m2.開設日/平成18年3月(8年前)。募集室数/2室。
「指導対象とした広告・表示(東京都)」(←リンク切れ)などを見ると、有料老人ホームの折込みチラシは、マンションの折込みチラシ以上に「不当表示」が行われているような気がする。
これからは供給戸数が頭打ちの新築マンションに代わって、有料老人ホームの数が増えていくだろうから、『マンションチラシの定点観測』よりも、『有料老人ホームチラシの定点観測』のニーズがありそうだ。
本日の介護付き有料老人ホームの折込みチラシの記載内容について、以下に考察してみよう。
- 有料老人ホームを紹介する広告類を規制しているルール
- 土地又は建物についての表示
- 施設又は設備についての表示
- 医療機関との協力関係についての表示
- 介護サービスについての表示
- 介護職員等についての表示
- 管理費等についての表示
有料老人ホームを紹介する広告類を規制しているルール
マンションチラシの場合には、「不動産の表示に関する公正競争規約」という規制ルールがある。
有料老人ホームの場合には、「有料老人ホームに関する不当な表示」(平成18年公正取引委員会告示第35号)と「『有料老人ホームに関する不当な表示』の運用基準」(平成18年事務総長通達第13号)がこれに当たる。
「有料老人ホームに関する不当な表示」は全部で11項、次のように7つの内容から構成されている。罰則規定はない。
- 土地又は建物についての表示
- 施設又は設備についての表示
- 居室の利用についての表示
- 医療機関との協力関係についての表示
- 介護サービスについての表示
- 介護職員等についての表示
- 管理費等についての表示
以下、7つの項目について、それぞれ見ていこう。
土地又は建物についての表示
当該有料老人ホームが土地又は建物を所有していない場合には、その旨を明瞭に記載しなければならないルールになっている(告示第1項)。
本日のチラシには、土地・建物の所有に関する情報が掲載されていないので、土地・建物ともに有料老人ホームの運営会社が所有していることになる。
もし、所有していないとすれば、表示ルール違反。
施設又は設備についての表示
たとえば「機能訓練室」や「食堂」といった写真が掲載されている場合、その機能訓練室や食堂を、教養娯楽室や多目的室としても使用するのであれば、その旨を明瞭に記載しなければならないルールになっている(告示第3項)。
チラシには、食堂と思しき写真が掲載されているが、「施設概要」に「レストラン兼多目的室」と明瞭に表示されているので問題なし。
居室の利用についての表示
居室の写真や平面図が掲載されている場合、入居者が当初入居した居室から「住み替えることがある」や、その住み替えにより「専有面積が減少」したり「追加的な費用を支払う必要がある」のであれば、その旨を明瞭に記載しなければならないルールになっている(告示第5項)。チラシには、居室の写真も平面図も掲載されていないので、告示第5項に違反しようがないのだが――
でも、そもそも居室の写真や平面図が掲載されていないことの方が問題だろう。
チラシの募集はたったの2室なのだから、居室の写真や平面図を掲載すべきだと思うのだが、「有料老人ホームに関する不当な表示」ルール上は、それらを掲載する義務はないのだ。
医療機関との協力関係についての表示
「医療機関と提携」等と表示したり、協力医療機関の建物の写真を載せている場合、その医療機関との具体的な協力内容や費用負担の有無について、明瞭に記載しなければならないルールになっている(告示第7項)。
チラシには、「日々の健康、万一に備え、地域の医療機関と協力・提携」として4つの医療法人の名称が掲載されているところまではいいのだが、「年○回の健康診断」といった具体的な協力内容や費用負担の有無が明瞭に記載されていないのでルール違反。
介護サービスについての表示
入居者に対する介護サービスについて表示されている場合、入居者に介護が必要となったときに、入居している有料老人ホームが介護サービスを提供するのではなく、入居者自らが外部の訪問介護事業者と契約して、介護サービスを利用することになるのであれば、その旨を明瞭に記載しなければならないルールになっている(告示第8項)。
チラシには「介護付き有料老人ホーム」と記載されているが、どのような介護サービスが提供されるのか、具体的な記載は見当たらない。
「施設概要」に「介護保険」として、つぎの二つが列挙されている。
- 東京都指定特定施設入居者生活介護
- 東京都指定介護予防特定施設入居者生活介護
東京都福祉保健局のホームページの特定施設入居者生活介護(サービス付き高齢者向け住宅)についてをひも解くと、細かい介護基準が規定されているので、本件チラシの有料老人ホームでも都基準の介護サービスが提供されるということなのだろうか。
介護職員等についての表示
「多数の介護職員が〜」、「充実したスタッフで〜」等と表示している場合、以下の点について明瞭に記載しなければならないルールになっている(告示第10項)。
- 常勤換算方法による介護職員等の数
- 介護職員等が要介護者等(介護保険法の規定に基づく要介護認定又は要支援認定を受けた有料老人ホームの入居者をいう。以下同じ。)以外の入居者に対し、食事の提供その他日常生活上必要なサービスを提供する場合にあっては、要介護者等に介護サービスを提供する常勤換算方法による介護職員等の数
- 夜間における最少の介護職員等の数 チラシには「ホテルマンのように仕え、家族のように支える。それが私たちのスタイルです」とか「お客様と感動を共有させていただきたいと願うスタッフがいます」といったキャッチコピーが掲載されているだけで、介護職員等の数については掲載されていない。
だからNGかと言いうと、そうではない。
「多数の介護職員が〜」、「充実したスタッフで〜」というように数に言及していないので、介護職員等の数を掲載する必要はないからルールに違反しているわけではない。
でも、そもそも介護職員等の数の表示を義務付けていないことに問題があると思う。
管理費等についての表示
「管理費○○円」、「利用料△△円」と表示されている場合、その費用の中に、一般消費者がその名称からは通常「含まれているとは思わない費用」が含まれているのであれば、表示された費用の具体的な内訳を明りように記載する必要がある(告示第12項)。
チラシには次のように記載されている。
料金プラン例・・・102号室
- 入居一時金/2,800万円
- 月額費用/21万6千円(税別)
- 内訳:管理費・・・15万6千円(税別) 食費・・・6万円(税別)
「管理費」といった包括的な表示ではなく、「事務職員の人件費」「施設管理費」「衛生管理費」「洗濯」というように具体的な内訳が明瞭に記載されている必要があるので、ルール違反。
食費6万円は、「シェフが毎日、美味しくて栄養満点の食事をお作りしています」と謳われているから、1日当たりにすると2,000円。1食平均666円だ。
ビールや日本酒、ワインも食費6万円に含まれているのか――。
(本日、マンション広告3枚)
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