釜石市が国内の自治体として初めてAirbnbと提携することを伝える岩手日報の記事。
提携の具体的内容は10月20日、都内で開かれる共同記者の場で発表されるという。
- 釜石市がAirbnbと提携(岩手日報の記事)
- 県内のAirbnb登録件数は28件
- 県内のSTAY JAPAN登録件数は20件
- 釜石市のスタンス:民泊推進
- 岩手県のスタンス:民泊の規制強化
- 悪貨は良貨を駆逐するのか
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釜石市がAirbnbと提携(岩手日報の記事)
民泊情報をネットで提供 釜石市と米Airbnbが初提携
世界各国の民泊などの宿泊情報をインターネット上のサービスで提供する米国のAirbnb(エアビーアンドビー)と釜石市は20日、観光促進に関する覚書を締結する。同社が日本の自治体と提携するのは初めて。
(中略)
調印式と共同記者発表会は20日、東京都内で、同社共同創業者のジョー・ゲビア氏と野田武則市長が出席して行われ、提携の具体的内容を説明する。2019年のラグビー・ワールドカップ開催を控える同市の観光振興、地域活性化に向けた効果が注目される。(岩手日報 10月7日)
同記事を読んで、「あれっ?岩手県のAirbnb物件って多かったっけ?」というのが最初に思い浮かんだこと。
まずは釜石市というか、岩手県内のAirbnb登録物件の状況を確認しておこう。
県内のAirbnb登録件数は28件
岩手県は、Airbnb登録件数の都道府県別ランキング第42位(次表)。
民泊仲介サイトにとっては、未開の地である。
Airbnb登録件数は28件(10月8日現在)、あまり増えていない。(次図)
(AirbDatabankデータをもとに筆者作成)
釜石市内にはAirbnb登録物件は1件も登録されていない(次図)。
(AirLABO地図に追記)
県内のSTAY JAPAN登録件数は20件
役所の会合でAirbnbと熱い論戦を交わした(株)百戦錬磨のグループ会社である「とまれる(株)」が運営しているホワイト民泊(=合法民泊)仲介サイトSTAY JAPANのほうは、岩手県内の登録件数は20件(10月8日現在)。
Airbnbの28件に迫っている。
ただし、こちらのサイトも釜石市内の登録はゼロ。
(STAY JAPANのHPより)
なぜ、釜石市はホワイトな民泊を展開しているSTAY JAPANではなく、ブラック(違法)な民泊が混在しているAirbnbとの提携を選択したのか?
具体的な提携内容については、10月20日の共同記者会見を待つとして――釜石市の民泊に対するスタンスを確認しておこう。
釜石市のスタンス:民泊推進
釜石市が2015年度に策定した「釜石の実像と釜石市オープンシティ戦略」(PDF:4MB)のP41に、ラグビーワールドカップを見すえて団体大口客や外国人観光客の受入体制を強化すること、そのために地元住民の負荷を抑えた形での民泊を推進することが掲げられている。
背景・目的
(前略)当市の強みであるビジネス滞在向け観光に加え、市民が地域の魅力・資源を再認識し、地域に豊かさが還元される滞在型観光を推進し、ラグビーワールドカップを見据えた団体大口客や外国人観光客の受入体制を強化していく必要がある
漁村・山間部を中心とする滞在型観光の推進橋野鉄鉱山の世界遺産登録を最大限生かし、地元住民の負荷を抑えた形での民泊や、情報交流拠点の戦略的配置、モデル地区選定やプログラム開発などを通じた観光地域づくりを推進し、市街地の周遊型観光と対になる滞在型観光を確立する。
滞在型観光を推進するためにも、民泊を推進するというスタンスであるが、「地元住民の負荷を抑えた形」という条件をつけているところが何とも微妙だ。
ちなみに、同戦略は15日間(平成28年3月4日~3月18日)パブコメにかけられているが、提出意見数はゼロで終わっている。
では、岩手県の民泊に対するスタンスはどうなのか?
岩手県のスタンス:民泊の規制強化
実は岩手県では今年の6月の定例会議で「民泊のあり方に関する意見書」が7月6日付で可決されている。
家主居住型(ホームステイ型)の民泊を原則とすべきとしたうえで、仲介業者に対する規制や民泊施設に対する検査・指導権限の強化など、岩手県はどちらかといえば民泊の規制を強化するスタンスであることが読み取れる。
民泊のあり方に関する意見書
(前略)民泊は都市部において不足している宿泊施設の補完的受け皿のほか、本県においては、ラグビーワールドカップ2019や2020東京オリンピック・パラリンピックにより増加が見込まれるインバウンドの受け皿の選択肢の一つとして、地域経済の活性化に効果があると期待される反面、多くの課題があることも事実である。
(中略)
そもそも民泊とは家主居住の経営を原則とすべきであり、宿泊者の安全や公衆衛生の確保が担保されていなければならないものと考える。
よって、国においては、民泊を推進するに当たって、次の事項に取り組むよう強く要望する。
- 1 宿泊者の安全確保、犯罪やテロ等の防止、近隣住民とのトラブル防止を大前提とし、海外の事業者を含む仲介業者に対する規制策、既存の宿泊施設との公正な競争の確保策を組み入れた新たな制度体系を構築すること。
- 2 新たな制度体系により民泊を認めていく場合には、宿泊施設の経営者等に対する検査、指導監督権限を強化すること。
- 3 新たな制度体系により、グリーン・ツーリズムなど現在行われている取組に弊害が及ばないようにすること。
悪貨は良貨を駆逐するのか
仮に、岩手県が民泊の規制強化を望んで、民泊条例を制定したとしても、岩手県全域に適用されるわけではない。
保健所が設置されている釜石市は、県の条例とは別に独自の条例を制定する必要があるからだ。
さて、ラグビーワールドカップ2019に向けて、地域経済の活性化を期待しての民泊推進ために、日本発のSTAY JAPANとではなく、Airbnbと手を結んだ釜石市。
Airbnb Japanのイメージアップ戦略が功を奏したのか(間違いではないが不適切!Airbnb Japanのイメージアップ広報)。
悪貨(ブラック民泊)が良貨(ホワイト民泊)を駆逐しないことを祈ろう。