不動産ブログ「マンション・チラシの定点観測」

首都圏を中心に、マンション選びのためのお役立ち情報を提供しています


隣接エリアの地名をマンション名に使用するのは売主都合だ

流通センターの跡地に建つ、運河沿いの大規模マンション。

【第1期1次 予告広告】銀座1丁目駅直通6分、駅徒歩14分。総戸数144戸、15階建。販売戸数9戸、3LDK(69.11m2〜71.11m2)。予定販売価格6,986万円〜7,186万円。平成24年8月中旬竣工(本チラシ掲載日の2カ月後)。

B4判のチラシ裏面に「都心へ自在にアクセスできる3駅4路線利用」のキャッチコピー。
「物件概要」に目を凝らすと、次のように3駅へのアクセス情報が表示されている。

  • TS駅から徒歩14分
  • KB駅から徒歩14分
  • EC駅から徒歩15分

たしかに3駅への徒歩アクセスは可能だが、横断歩道での信号待ち時間などを加味すると、とても表示された時間では行き着くことができない。
チラシに掲載されている徒歩時間と実際にかかる時間にギャップがあることは、このブルグでも何度か記した。

    • -

本日のテーマは、「物件の名称の使用基準」について。
この物件はSHエリアの運河沿いに建つのに、「SHキャナルテラス」ではなく、隣のTSエリア(最近人気のマンション・エリア)の名称を用いた「TSキャナルテラス」となっている。
物件の建つエリア名を冠した「SHキャナルテラス」ではなく、消費者受けの良い隣接エリア名を冠した「TSキャナルテラス」とすることは、許されるのか――
結論からいえば、この物件の場合は、許される。
以下に、その理由を示そう。


業界の自主ルール「不動産の表示に関する公正競争規約」第19条に、「物件の名称の使用基準」として、次のように規定されている。

(物件の名称の使用基準)

  • 第19条 物件の名称として地名等を用いる場合において、当該物件が所在する市区町村内の町若しくは字の名称又は地理上の名称を用いる場合を除いては、次の各号に定めるところによるものとする。
    • (1) 当該物件の所在地において、慣例として用いられている地名又は歴史上の地名がある場合は、当該地名を用いることができる。
    • (2) 当該物件の最寄りの駅、停留場又は停留所の名称を用いることができる。
    • (3) 当該物件が公園、庭園、旧跡その他の施設から直線距離で300メートル以内に所在している場合は、これらの施設の名称を用いることができる。
    • (4) 当該物件の面する街道その他の道路の名称(坂名を含む。)を用いることができる。
  • 2 別荘地(別荘又はリゾートマンションを含む。)にあっては、前項に掲げるところによるほか、次の各号に定めるところによることができる。
    • ※省略

上記の(2)に、物件の名称として「当該物件の最寄りの駅」の名称を用いることができるとなっているのだ。
冒頭に記したように、この物件は3駅にアクセスできる。
絵にすると、こんな感じ。
物件位置と3駅・3エリア名の関係
3駅のうち、EC駅の1.4kmに対して、KB駅とTS駅が1.3kmとほぼ同じ距離で「最寄駅」。
利用できる駅が2以上あって、物件までの距離がほぼ同じであるときは、どちらの駅名を用いてもいいことになっている(首都圏不動産公正取引協議会 公正競争規約研究会編『不動産広告の実務と規制(10訂版)』135頁)。
したがって、消費者受けの良い隣接エリア名を冠した「TSキャナルテラス」とすることができるのだ。


人気のマンション・エリア名をマンションの名称に用いることは、住民の満足感(優越感)を高める効果があるかもしれないが、どちらかといえば売主の販促都合ではないのか。
マンションに長く住み続ける住民にとっては、知り合いを呼ぶうえでも、宅配便の誤配防止のうえでも、マンション名は所在地の名称と一致させておいたほうがメリットが多いと思う。

(本日、マンション広告7枚)

2023年6月1日、このブログ開設から19周年を迎えました (^_^)/
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