9月2日に放送されたNHKスペシャルのメガクライシス・シリーズ巨大危機Ⅱ「第1集 都市直下地震 新たな脅威 “長周期パルス”の衝撃」は、タワマン住人にとって文字通り衝撃的な内容だったのではないだろうか。
見損ねた人のために、長周期パルスの要点を説明し、最後に雑感を記しておいた。
長周期パルスとは
長周期パルスとは、周期3秒ほどの長周期の揺れが大きな変位を伴って一気に発生する大きな地震動のこと。熊本地震で初めて、活断層付近で観測された。
1995年の阪神・淡路大震災で被害が集中したのは、木造などの低い住宅。このとき観測された揺れは周期が1秒から2秒程度。
一方、熊本地震で観測されたのは周期が長い3秒ほどの強い揺れ。長周期の地震動は、固有周期の長い超高層建物に甚大な被害を与える。
(長周期パルスのイメージ)
倒壊する可能性はゼロではない!?
長周期パルスが超高層建物にどの程度の被害を与えるのか?
工学院大学の久田嘉章教授が新宿に建つ29階建て(高さ133m)鉄骨造の超高層建物をモデルにしたシミュレーション動画が印象的だった。
長周期パルスによって、負荷がかかりやすい低層階を中心に骨組みが赤く染まっているのだ(柱が変形して損傷を受けていることを示している)。
久田嘉章教授の解説が怖い。
「相当深刻な被害を受けた可能性はあると思います。地面がこう揺れることによって、大きな変形が出てしまう。本当に条件が悪いと、倒壊する可能性はゼロではなかった。非常に注意が必要だと改めて確認された」
雑感
東日本大震災で観測された「長周期地震動」への対策は済んでいるか?
2011年3月11日に発生した東日本大震災では「長周期地震動」のリスクが注目された。
国交省は16年6月24日、超高層建築物に対して巨大地震による長周期地震動への対策をとるよう関係団体に通知している。
(略)同対策は、南海トラフ沿いで約100~150年の間隔で発生しているとされるM8~9クラスの巨大地震に備えて、関東地域、静岡地域、中京地域及び大阪地域の対象地域内において、
- 平成29年4月1日以降に申請する性能評価に基づき超高層建築物等を新築する際の大臣認定の運用を強化するとともに、
- 同区域内の既存の超高層建築物等について、今回対策を求める地震動の大きさが設計時の想定を上回る場合には、大きな揺れによる家具の転倒、内外装材や設備の損傷等による危害が発生するおそれがあることから、自主的な検証や必要に応じた補強等の措置を促すものです。(以下略)
この通知を踏まえ、今年度以降に申請される超高層マンションは対策済みとなるが、すでに竣工している超高層マンションについては、耐震性能を確認のうえ、必要に応じて補強措置を取ることが求められているのだ。
現在お住まいのタワーマンションは、対応済みだろうか?
以上は、東日本大震災で注目された長周期地震動の話。
熊本地震で初めて観測された「長周期パルス」への対応をどうするか?
番組では長周期パルスを受けた超高層の免震建物が、擁壁にぶつかって損傷するという説明がされていた。
免震を売りにしているタワマンは大丈夫か――。
長周期パルスは、活断層が動いて、地表面に断層が現れた場合、その周辺数キロの範囲で発生する可能性があるとされている。
首都直下地震を引き起こす活断層は埼玉県北部の「関東平野北西縁断層帯」、多摩地区の「立川断層帯」、神奈川県中部の「伊勢原断層帯」、神奈川県の三浦半島付近の「三浦半島断層群主部」とされているが、これが全てではない。都心部にはそれ以外に活断層がないのではなく、都市化が進んでいて確認できないのだ。
いつどこで長周期パルスを伴うような直下型地震が発生するかは誰にも分からない。
タワマン供給者らにとって、「長周期パルス」はタブーだろうから、世間的にはそれほど広まらないのかもしれない。実際にどこかの地域で、長周期パルスを伴う直下地震が発生し、超高層建物が深刻な被害を受けて初めて、世の中に周知されるのか……。
筑波大学 境有紀教授の次のコメントをどう受け止めるか。あるいは見なかったことにするのか。
「もし(高層ビルのなかった)100年前なら、長期間の揺れがきても何事もなかった。ある意味最悪の巡り合わせというか。そういうものが起こったときに何が起こるか。それが想定を超えるのであれば、想定外ではなく想定内にして対策をしておくべき」
(追記)熊本地震データねつ造
- 19年3月18日
阪大は3月15日、熊本地震データ捏造につき、元准教授の単独で行われたと発表。
⇒「熊本地震データ捏造|阪大元准教授の死因非公開」 - 17年10月5日
熊本地震の益城町臨時観測点データに「不自然な点がある」と匿名の指摘。文科省の調査結果が待たれる。
⇒「ねつ造!? 熊本地震の益城町臨時観測点データ」