「狭小邸宅」で第36回すばる文学賞を受賞した新庄耕氏の力作『地面師たち』集英社(2019/12/5)を読了。
騙すほうも騙されるほうも、かなり尖がったキャラクターが設定されているにも拘らずリアリティがあるのは、全宅ツイ・メンバーへの取材の成果か……。
コロナ自粛で時間を持って余している方にはおススメ。
地面師(ハリソン山中)
不動産取引や法律の豊富な知識をもつ元やくざ。小指の義指に気づかなければ紳士にしか見えない。
銀座の一流テーラーでフルオーダーするというダブルのスーツは英国製の高級生地でしたてられ、唐紅が鮮やかなハンドロールのシルクタイと調和をなしている。黒々とした髪とあごひげは品よくととのえられ、富豪にふさわしい格調と威厳をハリソン山中に与えつつ、前科二犯におよぶ地面師としての素顔と実年齢を隠すのに役立っていた。
「麗子ちゃん、そんなとこでごちゃごちゃ言わんと、はよここおいで」
後藤がそう言って、右手に空いた肘掛け椅子に腕をまわした。
間もなく運ばれてきたドンペリのボトルが抜栓され、グラスにそそがれていく。ハリソン山 中が小指に義指をはめた右手でグラスをかかげると、皆もそれにならった。
(中略)
ハリソン山中の、百八十センチを超える体には似つかわしくない澄ました声をうけ、皆一斉に歓声をあげながらグラスの酒を口にふくんだ。(P29-30)
被害者代表(石洋ハウス役員 青柳隆史)
大手ハウスメーカーの役員にこんなやくざみたいな人はいるのだろうか。地面師に嵌めれらたことに気づいて部下に暴力を振るう場面。
かたわらで警察官に事情を説明しているエリア担当の部下をつかまえ、胸ぐらをつかむ。その細い眼が見開かれ、無言のままなにかを叫んでいるように見えた。
「問題ねえっつったじゃねえかよ。この野郎」
力まかせに拳を頬にたたきこむと、部下は顔をひしゃげさせながら無造作にならべられたパイロンの上に吹っ飛んでいった。(P259-260)
謝辞:全宅ツイのメンバー5名
この小説にリアリティを与えている要因が全宅ツイのメンバー5名であることが謝辞で確認できる。
謝辞
本作品の執筆に際し、多くの人々がご協力してくださった。
ソーシヤルーネットワーク経由で縁にめぐまれた、あくのふどうさん氏、かずお君氏、全宅ツイのグル氏、テツクル氏、哲戸次郎氏、また、水楢昂裕氏には、不動産売買の流れや実情を当事者の立場から助言していただいた。(以下略)(P284)
『地面師たち』
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