羽田新ルートは不動産価格にどれほどの影響を及ぼしているのか。
国交省が2025年5月7日に公表した「羽田空港周辺地域における地価動向分析調査の結果」は、「新飛行経路運用に伴う不動産価格への影響は確認できませんでした」と、あっさりと結論づけている。
- ※詳しくは、「報告書が語らない、5つの違和感?」参照。
調査報告書を読み進めるなかで、違和感が募った。筆者はその違和感を解消すべく、国交省の担当者に電話で確認した。しかし、違和感は最後まで解消しなかった。
- ※詳しくは、「国交省に電話取材した結果」参照。
とはいえ、ここでは違和感の話は一度脇に置く。
今回の国交省の調査は、地価公示データに基づいている。では、建物の実際の取引データで分析したらどうなるのか。残念ながら、国交省の担当者によれば、「建物で分析する予定はない」という。
ならば、自分でやるしかない――。筆者は、国交省が公開している「不動産取引価格情報」を用い、羽田新ルートの影響が大きいとされる品川区を対象に、中古マンションの取引データを独自に分析した。
結論から先に言えば、「まったく影響がなかった」とは言い切れない。むしろ、新ルート直下の一部地区で“沈んだ価格”が“再び上がる”痕跡すら見えた。
その理由とは――?
- 調査対象データ
- 新ルートまでの最短距離の計測方法
- 新ルートまでの最短距離と中古マンション単価の関係
- 新ルートまでの最短距離と中古マンション単価変動率の関係
- 中古マンション単価の変動率の経年変化(新ルートまでの最短距離別)
- 中古マンション単価の経年変化(新ルート直下の3地区)
- まとめ
調査対象データ
調査に用いたのは、国交省の「不動産取引価格情報」を用いて、品川区に関して調査する。
具体的には、国交省が運営しているサイト「不動産取引価格情報」データベースである。
対象は、2016年第1四半期から2024年第4四半期までに品川区内で取引された中古マンション等の価格と面積。そこから㎡単価を算出した。
集計対象は、品川区内の25地区・10,767件(2025年5月14日現在)に及ぶ(次図)。

※25地区:荏原、旗の台、戸越、勝島、小山、小山台、上大崎、西五反田、西大井、西中延、西品川、大井、大崎、中延、東五反田、東大井、東中延、東品川、南大井、南品川、二葉、八潮、平塚、豊町、北品川
なお、取引時期は四半期単位であるため、便宜的に以下の通り「中間月」に読み替えて分析した。
- 第1四半期(1~3月)⇒2月
- 第2四半期(4~6月⇒5月
- 第3四半期(7~9月⇒8月
- 第4四半期(10~12月⇒11月
新ルートまでの最短距離の計測方法
「不動産取引価格情報」は、取引物件の詳細な住所を非公開にしている。判明するのは「地区名」までだ。
したがって、分析にあたっては、各地区のおおよそ中心部を代表地点とし、そこから新ルートまでの最短距離を計測する方法を採った(次図、荏原地区の例)。

距離の計測には、筆者が作成したGoogleマップ(南風時の着陸ルート)を使用した。
新ルートまでの最短距離と中古マンション単価の関係
「新ルートまでの最短距離」と中古マンション単価(各地区の平均値)との関係を次図に示す。
中古マンション単価は、概ね50~200万円/m2の範囲に分布しており、直感的に理解できる大きな傾向までは確認できなかった。

だが、それは“静的な価格”の話に過ぎない。問題は、運用開始後にどう“動いたか”である。
新ルートまでの最短距離と中古マンション単価変動率の関係
次に、中古マンション単価の「変動率」を分析した。
まず、2016年2月の各地区の平均㎡単価を「100」と設定し、その後の各年月の単価(平均値)を指数化。
さらに、それを品川区全体の同時点における指数で補正した。これにより、品川区内における相対的な変化が明らかになる。
そして、新ルート運用が始まった2020年3月29日直後(2月時点)のデータを見ると、明らかに新ルートに近い地区ほど、単価変動率が小さい傾向があった(次図、ピンク色破線)。
つまり、相対的に価格の伸びが抑制された可能性がある。

中古マンション単価の変動率の経年変化(新ルートまでの最短距離別)
新ルートまでの最短距離ごとに中古マンション単価の平均変動率の経年変化を次図に示す。
「新ルートまでの最短距離が200m以下の地点」(全6地区。赤色線)に注目してほしい。
これらの地区では、運用開始前後で平均変動率がマイナス圏に沈んでいた。ごく短期的ではあるが、新ルートが価格に影響を与えた可能性がある。
一方、距離がある地域では変動は限定的。つまり「距離が近いほど影響を受けた」構図が浮かび上がる。

中古マンション単価の経年変化(新ルート直下の3地区)
最後に、特に新ルート直下に位置する3地区の中古マンション単価の変化を確認した(次図)。
全品川の単価が漸増するなか、新ルート直下3地区のうちの2地区(大崎、上大崎)は、運用開始(2020年3月29日)の前後に一時的な下落が見られた(図中ピンク色楕円)。

ただし、その後は急回復。特に2020年10月に都市計画決定された「大崎・五反田再開発」が、価格上昇を後押しした可能性がある。つまり、下がった価格は、周辺の都市計画によって持ち直したわけだ。
いずれにせよ、新ルート直下の地区であっても、中古マンション価格への影響は一時的であった可能性が考えられる。
新ルートの運用が始まって、年月の経過とともに、騒音や落下物への懸念が薄れた可能性もある。「ゆでガエル効果」と言ったら少し意地悪かもしれないが、それでも“慣れ”というものの存在は無視できない。
まとめ
国交省が公開している「不動産取引価格情報」を用いて、品川区内の2016~2024年の中古マンション取引データを対象に、筆者が独自に調査から言えるのは、以下の3点である。
- 新ルート運用開始(2020年3月29日)後、新ルートに近い地区ほど中古マンション単価変動率が小さくなった(中古マンション単価が影響を受けている可能性あり)。
- 特に新ルート直下の大崎・上大崎では、運用前後で一時的に、中古マンション単価が落ち込んだ。
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ただしその下落は一時的であり、都市再開発等の影響もあって回復傾向が見られる。
新ルート直下の地区であっても、中古マンション価格への影響は一時的であった可能性が考えられる。
新ルートの運用が始まって、年月の経過とともに、騒音や落下物への懸念が薄れた可能性もある。「ゆでガエル効果」と言ったら少し意地悪かもしれないが、それでも“慣れ”というものの存在は無視できない。
新ルートによって中古マンションの価格は下がったのか? それとも、下がらなかったのか?
ひとつだけ確かなのは、「影響はゼロ」と言い切るには、あまりにも情報が足りなさすぎる、ということだ。
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