「第6回 羽田新経路の固定化回避に係る技術的方策検討会」が12月24日午後、2年4か月ぶりに開催された。
同日18時、国交省HPに同会議の配布資料が公開されたことをご存じだろうか。
※投稿24年12月25日(追記25年1月20日)
配布資料をひも解く
12月24日に公開された資料(PDF形式)は次の4つ。
※議事概要は、まだ公開されていない(12月25日08時現在)。
- 議事次第
- 【資料1】飛行方式の検討について
- 【資料2】出発における騒音軽減方策について
- 【資料3】飛行方式(RNP-AR)に関する基準見直しについて
かなり専門的な内容なので、門外漢には分かりにくい。まだ議事概要が公開されていないので、配布資料から分かることを中心に一般の方にも理解できるよう、できるだけ分かりやすく説明しよう。
飛行方式の検討について
第4回検討会で選定された2方式に関して、4つの検討項目のうち「経路の設計・検証」が完了し、「関係者との調整」が今後実施予定とされている(次図)。
資料1、P2より
難しい内容を端折ると、二つの飛行方式(RNP AR方式、RNP+WPガイダンス付き方式)を検討した結果、A滑走路の既存進入方式と組み合わせた上で同時運用可能なC滑走路の飛行方式として、RNP AR方式が選定されたというのが結論(次図)。
資料1、P12より
「特定した飛行方式」として、A滑走路の既存進入方式とRNP AR方式を使ったC滑走路の同時運用可能な飛行ルートが示された(次図)。
資料1、P13に、筆者がピンク色加筆
出発における騒音軽減方策について
あまり認識されていないが、検討会では、北風時の荒川沿い北上ルートの騒音低減策も検討の対象となっている。
「出発における騒音軽減(高い航法精度等の指定)」として、「RFレグ」を用いた出発方式の検討がなされたが、残念ながら騒音軽減に資する経路設計とはならないという結論となった(次図)。
資料2、P1より
飛行方式(RNP-AR)に関する基準見直しについて
今回選定されたRNP-AR方式の導入促進に向けた訓練負担緩和に係る対応状況が示されている(次図)。
資料3、P4より
あと、「参考資料」として、「羽田空港における着陸機のRNP-AR対応率」が示されている。
問題は、本邦航空運送事業者においては、羽田空港への着陸機のうち2割強はRNP-ARに対応できていないということ。また、羽田空港の着陸機の約2割を占める外航機についてはRNP-ARへの対応状況が不明ということである。
資料3、「参考資料」より
雑感
これからは「固定化回避」というマジックワードが使えない!?
「固定化回避」とは、羽田新ルートによって現在騒音などの悪影響を受けている住民にとって、将来緩和されるかような幻想を抱かせる表現。選挙に挑む候補者とって都合のいい表現である。「関係者と協力・相談しつつ、しっかりと検討を進めていきたい」と言っておけば、当面の時間稼ぎにはなる。
ところが、今回の検討会で配布された資料によってその幻想は打ち砕かれることになった。「特定した飛行方式」として示された、A滑走路の既存進入方式とRNP AR方式を使ったC滑走路の同時運用可能な飛行ルートのことだ(下図、再掲)。
RNP AR方式が採用されたC滑走路着陸ルートは都心低空飛行を回避できる可能性があるが、A滑走路着陸ルート(既存進入方式)のほうは都心低空飛行を回避できないのである。
今後のスケジュールは?
今回公開された配布資料には「今後のスケジュール」が示されていない。
東京新聞デジタル(12月24日 21時07分)は次のように報じている。
国交省は2025年中に次の検討会を開く方針だが、代替ルートが決まるかは不明という。
また、共同通信(12月24日 19時30分)は次のように報じている。
現在、検討中の飛行方式導入に向けた課題が残っているため、来年中に開催する次回以降の検討会で結論を得る。
東京新聞は「代替ルートが決まるかは不明」、共同通信は「来年中に(略)結論を得る」といったように両紙の表現は微妙に違うが、問題が先送りされたことは一致している。
来年の7月に都議選と参院選が控えているから、まだまだ結論の先送り作戦は続くのではないだろうか……。
【追記1】「議事概要」について
※追記25年1月16日
国交省が運営しているHP「羽田空港のこれから」に1月15日17時、議事概要(A4判3枚)が公開された。
お墨付きを与える儀式「一同了承」
専門的な内容が議論されているが、議事概要を読む限り、活発な議論が行われたようには感じられない。事務局(国交省)の説明を受けて、多少の質疑を経て、「一同了承」に至っている。
( 議事1 飛行方式の検討について)
羽田空港における同時進入を考えた際の安全性検証の結果としては、RNP-AR 飛行方式が安全上の要件を満たした飛行方式であるという結論でよろしいか。
(一同了承。)
(議事2 出発経路の騒音軽減方策について)
提案された RF レグを用いた出発方式には技術的な課題は見当たらないものの、騒音軽減に資する経路設計にならないことが確認できたとのこと。これに検討会として了承いただけるか。
(一同了承。)
国交省が描いた筋書きに対して、有識者がお墨付きを与える儀式になっているのではないのか。
検討会の結論「いずれかの市街地上空を飛行せざるを得ない」
議事概要によって、今後の展開が明らかになった。
「議事4 今後について」、気になったのは3点。
1点目は、事務局(国交省)からの説明。いくら固定化回避の検討をしても、いずれかの市街地上空を飛行せざるを得ないという結論。
RNP-AR 方式を採用した場合であってもいずれかの市街地上空を飛行せざるを得ないこと。海上ルートを設定できない以上、住民の皆様のご理解を得るのが大変難しいと思われることから、慎重な対応が必要。
次回の検討会は来年中には開催できる方向で進めたい。
2点目は、航路下住民にとってはどうでもいいマニアックな意見が多いなかで、比較的住民に寄り添った次の意見。
今後の経路の見直しには長期的な課題があるかと思う。
一方、技術開発の分野でもこれから進む部分があり、全体として長期的な視点で考える必要もあると考える。長い時間がかかることを前提とした場合、段階的に進める必要がある。
海外事例もあるが、経路案を複数案としつつ、できるだけ早い段階から情報を出すことで理解を広げることも重要なのでご検討いただきたい。
3点目は、座長(?)からの中身のない、締めの意見。
事務局から次回検討会を来年中に開催するご提案もあったところ、本日の議論も踏まえ、固定化回避に向けて引き続き取組むべき課題について委員の皆様のご協力やご助言をいただきながら進めていただきたい。
【追記2】「議事録」を開示請求した結果⇒「不存在」
※追記25年1月20日
「議事概要」では詳細が不明なので、1月16日(木)に「議事録」を開示請求したところ、1月20日(月)午前中に国交省 航空局 交通管制部 管制課の担当者から確認の電話がきた。
10分ほどの電話のやり取りで明らかになった主な内容を以下に示す。
- 「議事概要」の元になるような「議事録」は作成していない。行政文書としては公開している「議事概要」が唯一の文書なので、開示請求の結果としては「不存在」というのが回答になる。
- 今回に限らず、担当者のメモを元に、「議事録」作成のプロセスを経ないで、「議事概要」を作成している。
- 各発言者の発言概要は、全て「議事概要」に記されている。
- 公表した資料に記された内容を超えて説明はしていない。議事4(今後について)については、公表資料がないので、事務局が説明した内容を「議事概要」に記した。
公開対象となるような「議事録」は作成していないということが徹底されているのであろう。ただ、これでは有識者の誰の発言だったのか、後日検証することができない。
※「不存在」を記した文書については、後日追記する予定。
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