都議会議員に交付されている政務活動費は適切に使われているのか。
都議会議員の多い5会派(自民・都ファ・公明・共産・立憲)のなかで、共産党の「政務活動費」に占める「広報紙(誌)発行費」の割合は5割程度であることを既にこのブログで紹介した(都議会|5会派の「政務活動費」)。
本日は、都議会がHPで公開している「収支報告書・会計帳簿・領収書等」を元に共産党の23年度の「政務活動費」につき、さらに深掘りする。
※以下、敬称略
「政務活動費」支出内訳
共通・議員合計「政務活動費」の支出内訳(23年度)を次図に示す。
共産党に交付された23年度の「政務活動費」は1億1,400万円(=19人×600万円)。執行残約527万円、執行率95%。
共産党の政務活動費の「会計帳簿」は、自民党や公明党と異なり、「都議会共産党」(≒議員共通)と19名の各議員が明確に区分された形で整理されていない。「摘要」欄に( )で議員の氏名が記されているだけ(次図、例示)。
そこで、以下の分析では、( )に記された議員名のある金額は同議員が支出したものとして、またそれ以外は「共産党都議団」(≒議員共通)が支出したものとした。
条例で規定された全14項目のうち、最も多いのは「広報紙(誌)発行費」。次いで「人件費」「資料購入・作成費」「事務費」「交通費」。
自民党や公明党と異なり、「事務所費」は全く計上されていない。「事務所費」とは、「会派又は議員が政務活動のため設置する事務所の設置及び維持に要する経費」のこと。各議員の事務所(自宅?)の賃料はどこで確保しているのか……。
「政務活動費」月次変化
共通・議員合計「政務活動費」の月次変化(23年度)を次図に示す。
自民党や公明党と異なり、年度末に激増するような様子は見られない。
※各月の棒グラフの左側が共通、右側が議員合計を示している。
議員ランキング
共産党に交付された23年度の「政務活動費」(1億1,400万円)のうち、「都議会共産党」(≒議員共通)分(約9,850万円)と執行残(約527万円)を除いた約1,023万円につき、19名の各議員の支出内訳を次図に示す。
自民党や公明党と異なるのは、各議員が支出した金額が少ないことと、議員による差が大きいこと。
当選回数が少ないほど政務活動費が多いように見えなくもない(次図)。
政務活動費
「政務活動費」が最も多いのはアオヤギ有希子 445万円(1期、八王子)、最も少ないのはとくとめ道信 0円(3期、板橋)。その差445万円。
多い議員:アオヤギ有希子 445万円(1期、八王子)
「政務活動費」が多い議員上位10名を以下に示す。
※千円以下は四捨五入
- 1位:アオヤギ有希子 445万円(1期、八王子)
- 2位:斉藤まりこ 440万円(2期、足立)
- 3位:藤田りょうこ 439万円(2期、大田)
- 4位:米倉春奈 438万円(3期、豊島)
- 5位:原純子 437万円(1期、江戸川)
- 6位:尾崎あや子 436万円(3期、北多摩第一)
- 7位:清水とし子 434万円(1期、日野)
- 8位:原のり子 433万円(2期、北多摩第四)
- 9位:池川友一 427万円(2期、町田)
- 10位:大山とも子 427万円(8期、新宿)
少ない議員:とくとめ道信 0円(3期、板橋)
「政務活動費」が少ない議員上位5名を以下に示す。
※千円以下は四捨五入
- 1位:とくとめ道信 0円(3期、板橋)
- 2位:曽根はじめ 1万円(7期、北)
- 3位:原田あきら 2万円(2期、杉並)
- 4位:福手ゆう子 2万円(1期、文京)
- 5位:あぜ上三和子 6万円(4期、江東)
広報紙(誌)発行費
「広報紙(誌)発行費」が最も多いのはアオヤギ有希子 198万円(1期、八王子)、最も少ないのはゼロ円(10名) 。
多い議員:アオヤギ有希子 198万円(1期、八王子)
「広報紙(誌)発行費」が多い議員上位12名を以下に示す。
※千円以下は四捨五入
- 1位:アオヤギ有希子 198万円(1期、八王子)
- 2位:斉藤まりこ 141万円(2期、足立)
- 3位:米倉春奈 89万円(3期、豊島)
- 4位:原純子 84万円(1期、江戸川)
- 5位:尾崎あや子 76万円(3期、北多摩第一)
- 6位:清水とし子 69万円(1期、日野)
- 7位:原のり子 42万円(2期、北多摩第四)
- 8位:藤田りょうこ 33万円(2期、大田)
- 9位:大山とも子 16万円(8期、新宿)
- 10位:里吉ゆみ 6万円(3期、世田谷)
- 10位:とや英津子 6万円(2期、練馬)
- 12位:和泉なおみ 1万円(3期、葛飾)
「政務活動費」に対して「広報紙(誌)発行費」の占める割合が9割を超える議員は以下の3名。
- とや英津子 100%(2期、練馬)
- 斉藤まりこ 99%(2期、足立)
- 米倉春奈 91%(3期、豊島)
ゼロ議員:10名
「広報紙(誌)発行費」がゼロの議員は、以下の7名。
- とくとめ道信(3期、板橋)
- 曽根はじめ(7期、北)
- 原田あきら(2期、杉並)
- 福手ゆう子(1期、文京)
- あぜ上三和子(4期、江東)
- 白石たみお(3期、品川)
- 池川友一 (2期、町田)
交通費
「交通費」が最も多いのは池川友一 35万円(2期、町田)、最も少ないのはゼロ(3名)。
多い議員:池川友一 35万円(2期、町田)
「交通費」が多い議員上位10名を以下に示す。
※千円以下は四捨五入
- 1位:池川友一 35万円(2期、町田)
- 2位:藤田りょうこ 32万円(2期、大田)
- 3位:原のり子 26万円(2期、北多摩第四)
- 4位:アオヤギ有希子 24万円(1期、八王子)
- 5位:尾崎あや子 16万円(3期、北多摩第一)
- 6位:清水とし子 12万円(1期、日野)
- 7位:米倉春奈 9万円(3期、豊島)
- 8位:白石たみお 8万円(3期、品川)
- 9位:里吉ゆみ 6万円(3期、世田谷)
- 10位:あぜ上三和子 6万円(4期、江東)
「政務活動費」に対して「交通費」が100%占める議員は以下の5名。
- 池川友一 (2期、町田)
- 白石たみお (3期、品川)
- あぜ上三和子 (4期、江東)
- 福手ゆう子 (1期、文京)
- 曽根はじめ (7期、北)
ゼロ議員:3名
「事務所費」がゼロの議員は、以下の3名。
- とくとめ道信 (3期、板橋)
- とや英津子 (2期、練馬)
- 大山とも子 (8期、新宿)
事務費
「事務費」が最も多いのは藤田りょうこ 42万円(2期、大田)、最も少ないのはゼロ(8名)。
多い議員:藤田りょうこ 42万円(2期、大田)
「事務費」が多い議員上位4名を以下に示す。
※千円以下は四捨五入
- 1位:藤田りょうこ 42万円(2期、大田)
- 2位:大山とも子 14万円(8期、新宿)
- 3位:原純子 10万円(1期、江戸川)
- 4位:和泉なおみ 6万円(3期、葛飾)
ゼロ議員:14名
「事務費」がゼロの議員は、以下の14名
- とくとめ道信(3期、板橋)
- とや英津子(2期、練馬)
- 曽根はじめ(7期、北)
- 斉藤まりこ(2期、足立)
- 原田あきら(2期、杉並)
- 福手ゆう子(1期、文京)
- あぜ上三和子(4期、江東)
- 白石たみお(3期、品川)
- 米倉春奈(3期、豊島)
- 清水とし子(1期、日野)
- 尾崎あや子(3期、北多摩第一)
- アオヤギ有希子(1期、八王子)
- 原のり子(2期、北多摩第四)
- 池川友一(2期、町田)
【参考】政務活動費について
政務活動費とは、議員が行う調査研究、情報収集、政策立案、広報・広聴活動等に要する経費に対して交付されるもの。政務活動費の使途基準は、東京都政務活動費の交付に関する条例「別表」により次表のように定められている。
政務活動費の交付対象は、会派(所属議員が1人の場合を含む)。交付額は、議員1人につき月額50万円×所属議員数(政務活動費の概要 | 東京都議会)。
東京都議会の「政務活動費関係規程」を以下に列挙しておく。
- 地方自治法(抄)
- 東京都政務活動費の交付に関する条例
- 東京都政務活動費の交付に関する条例施行規則
- 東京都政務活動費の交付に関する条例施行規程
- 東京都政務活動費調査等協議会要綱
- 東京都政務活動費に係る領収書等の写しの閲覧に関する要綱
雑感
自公と異なる4つの点
共産党の政務活動費の「会計帳簿」をひも解いて、特に気になったの以下の4点。
- 自民党や公明党と異なり、「都議会共産党」(≒議員共通)と19名の各議員が明確に区分された形で整理されていない。また、各議員が個別に支出した金額は極めて少ない(次図、再掲)。
- 自民党や公明党と異なり、「事務所費」は全く計上されていない。各議員の事務所(自宅?)の賃料はどこで確保しているのか。
- 自民党や公明党と異なり、年度末に予算消化のために激増するような様子は見られない(次図、再掲)。
- 共産党の「政務活動費」は、自民党や公明党と異なり、本来の目的に沿った、適切な使われ方がされているのではないか。「政務活動費」は、かつて「政務調査費」と呼ばれ「議員の調査研究」のために交付されていたのである(後述)。
かつては「政務調査費」と呼ばれ、交付目的は「議員の調査研究」
そもそも「政務活動費」は、かつて「政務調査費」と呼ばれ「議員の調査研究」のために交付されていた。ところが、自治法の一部改正(2012年8月29日)のタイミングで議員修正によって「政務調査費」から「政務活動費」に改称された。そのときに交付目的が「議員の調査研究」から「議員の調査研究その他の活動に資するため」と変更され、使途が拡大されたのである。
その使途に関して住民から批判が絶えない一方で、議員の間には、「調査」に関わらせていることが使途を窮屈にしているという不満が少なくなかったといいます。地方議会議長会三団体からは、この政務調査費については、①支出と調査研究活動の厳格な関連性が要求され、政務調査活勣が自己抑制的になる傾向がある、②住民への議員活動の成果の報告が政務調査費の対象となるかが微妙である、との理由から、「現行地方自治法上、調査研究活動に特化されている政務調査費制度を見直し、幅広い議員活動等に充てることができることを明確にするよう法改正を行うこと」という要望が自民党等に寄せられていました。
そこで、「政務調査費」を「政務活動費」に改称し、交付の目的について100条14項に「その他の活動」の6文字を付加して「議員の調査研究その他の活動に資するため」とする改正が行われたのです。(大森 彌「自治体議員入門」第一法規 2021/11/24,p75-76)
政務活動費は、議員報酬とは異なり、「交付することができる」となっていて、支給可否も額も任意。すでに政務活動費が既得権益視されているなか、政務活動費を2016年に廃止した自治体がある。大阪市泉南市(人口6.5万人、定数18人)だ。それまで1か月あたり5万円支給されていた政務活動費を廃止した理由は次のとおり。
廃止理由は、①条例や法によって、あるいは制度で規制されたものを、政務活動費と称して費用を支弁されていることが議員活動そのものに規制を加えることになり、議員の自主的活動の中で、自律的な政策提言を行うことのほうが、より柔軟な政治活動を行えるのではないかと考えること、②政務活動費の支給などを受けずに、議員が、その自主的活動の中で、自律的な政策提言を行うことのほうが、より柔軟な政治活動を行えるのではないかと考えること、③議会議員は、個々の自己責任で自由に議員活動を行うべきであり、政務活動費の交付によって、その活動に制限が及ぶことがないよう、現下の社会情勢等も勘案し、条例廃止を提案するということでした。
(同上,p88)