2024年1月20日に放送のNHKスペシャル「まちづくりの未来 ~人口減少時代の再開発は~」を制作したNHK取材班による『人口減少時代の再開発』NHK出版(2024/7/10) を読了。
タワマンに係る論点をピックアップしておいた。
※朱書きは、私のメモ。
慢性的な救急医療のひっ迫の声も
多くの人が移り住むことによる交通渋滞や、保育園や放課後児童クラブの不足、医療資源の不足などについて想像力を働かせることが大切だという、筆者の考え。
慢性的な救急医療のひっ迫の声も
(前略)街の再開発やまちづくりは、地域の価値を高めたり、人を呼び込み活性化させたりするための起爆剤になりうる。その一方で、こうした再開発はデベロッパーや再開発組合が主体となって進められる場合が多く、行政などとの情報共有が必ずしも十分とは言いがたいのが現状だ。
大規模なタワーマンションが建設されることによる周辺への影響――例えば多くの人が移り住むことによる交通渋滞や、保育園や放課後児童クラブの不足、医療資源の不足などについて想像力を働かせることが大切だと感じる。
後追いではなく、事前に協議することで対策を講じることができれば、もともと住んでいる地域住民も、そして新たにタワーマンションに移住してきた人々もそれぞれの暮らしの満足度を高めることにつながるだろう。街は開発をして終わりではなく、人々の生活はそこから紡いでいかれる。学校も医療も生活に欠かせないインフラだ。だからこそ、まちづくりにおいては人が移り住んだ後についての想像力を十分に働かせること、まちづくりの情報共有や連携の仕組みづくりが必要だと言えるだろう。
(P145-146/第3章 再開発をしたけれど…)
※神戸市のタワマン規制が物議を醸している。
規制の元となった「タワーマンションと地域社会との関わりのあり方に関する有識者会議」(座長:上村敏之 関西学院大学経済学部教授)の委員5名のなかに、本書の終章(特別寄稿)を執筆した野澤千絵 明治大学政治経済学部教授が名を連ねている。
タワマンの落とし穴
公共貢献としてつくられた空間のおかげで容積率が割り増しされ、それで収益を得ているのは開発者側である。にもかかわらず、その後の維持管理はすべて購入した区分所有者になってしまうことはあまり知られていないかも。
タワマンの落とし穴
(前略)また、所有者にとって意外な落とし穴になるのが、公共貢献としてつくられた空間の管理費負担である。
例えばタワーマンションから駅につながる歩道や広場などは、容積率の割り増しをもらうための公共貢献としてデベロッパーが整備している場合も多い。当然、その歩道や広場は公共貢献のためにつくられたものなので、そのマンションの私有地内であっても、居佳者以外の人たちも通行可能な空間となる。多くの歩行者が使うために、一般的なマンションに比べて歩道や広場のタイルや設備が頻繁に破損する事態が生じても、区分所有者からの管理費で修繕しなくてはならない。実際に、こうした公共貢献としてつくられた部分の管理費負担の問題に直面しているタワーマンションも見られるようになっている。
公共貢献としてつくられた空間のおかげで容積率が割り増しされ、それで収益を得ているのは開発者側である。にもかかわらず、その後の維持管理はすべて購入した区分所有者になってしまうのは、受益と負担の関係としてあまりにもつりあいがとれていない。開発する時だけでなく、開発した「後」のことも視野に入れ、公共貢献でつくられた空間の長期的な維持管理負担のあり方について検討することが必要になっている。
(P223-224/終章 まちづくりのあるべき姿とは)
本書の構成
6章構成。全250頁。
- 序章 なぜ全国の都市で高層ビルによる再開発事業が進むのか
- 第1章 未曽有の再開発ラッシュから見える日本の“今”
- 第2章 全国各地で顕在化する“課題”
- 第3章 再開発をしたけれど…
- 第4章 ユニークなまちづくり 地域の取り組みとは
- 終章 まちづくりのあるべき姿とは
(特別寄稿 野澤千絵 明治大学政治経済学部教授)
Amazon⇒『人口減少時代の再開発』
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