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東京における航空機能に関する調査報告書(21年度 シオ政策経営研究所)をひも解く

東京都は2012年以降、羽田空港機能強化に関する調査を実施していて、これまでに2.5億円投じてきたことが確認されている(羽田空港の機能強化に関する調査費用(決算額)の推移)。

情報開示請求によって、21~23年度の調査報告書(全9件)を入手した。全ての調査項目が羽田新ルートに係るわけではないが、これまで知られていなかった情報が含まれているようだ。

本日は9件のうち、21年度に(株)シオ政策経営研究所が提出した報告書のなかから、羽田新ルートに関係しそうな個所を整理する。

※以下長文。時間のない方は、目次と文末の雑感をお読みいただければと。


もくじ

21年度(シオ政策経営研究所)報告書の目次など

報告書は全107頁、5章からなる。

  • 1.業務概要
  • 2.ビジネス航空に関する調査
  • 3.空域や航空路の再編に関する調査
    • 3-1 首都圏空域や航空路の現状と課題の整理
      • (1)首都圈空域や航空路に関する基本的事項
      • (2)学識経験者等へのヒアリング
      • (3)空域再編が更なる機能強化に寄与する可能性の整理
  • 4.ビジネス航空に関する統計データの収集
  • 5.説明資料の作成

特に、注目したいのは、「3.空域や航空路の再編に関する調査」のうち、「(2)学識経験者等へのヒアリング」と「(3)空域再編が更なる機能強化に寄与する可能性の整理」の部分だ。

以下、順にひも解いていく。

学識経験者等へのヒアリング

21年8月3日にweb会議方式にて、学識経験者(匿名)に対して、90分間の質問が行われている。

学識経験者等へのヒアリング(報告書P87より)

以下、「ヒアリング結果」(P87~93)を抜粋する。

1. 羽田空港周辺の空域再編の効果について

(1) 東京進入管制区拡大の目的と効果

質問

  • 2019年7月、2020年3月に東京進入管制区が拡大されましたが、拡大した目的と管制業務や空港の容量にどのような効果があったのでしょうか?

    東京進入管制区が拡大

  • 2019年7月以前は「中間セクター」で到着機の順番調整が行われていたと聞きますが、上記の空域再編で、中間セクターは東京進入管制区に統合され、東京ターミナル管制所に管制業務が一元化され、そのことで効率が上がったという理解でよろしいでしょうか?
  • 国資料によれば、その効果について「管制処理の効率性向上」とありますが、管制業務のみに効果があり、空港の容量拡大等には作用していないということなのでしょうか?

学識経験者(不開示)

  • 羽田空港に限らず、空港周辺の管制(空港への着陸や離陸の処理)のための進入管制区は拡大する方向である。ボトルネックは、滑走路容量であることが通常なので、そこのリアルタイムの状況が判り、直接処理にも関わっている進入管制区(ターミナルレーダー)のエリアをなるべく大きくし、状況にあわせて到着間隔などを柔軟にコントロールできるようにするのが主目的だと理解している。使っているレーダーの精度(測位の更新頻度や精度)は、広域レーダーよりもターミナルレーダ一の方が高いので、最低の管制間隔も小さく、管制もやりやすいはずである。
  • その結果、空域の処理容量(空域に航空機をためておける容量)は上がる傾向だと思うが、さらにポイントマージとの組み合わせで空域容量が上がる、という側面もあるかもしれない。
  • 滑走路容量については、航空機の間隔設定の精度が上がれば、より短い間隔で安定して着陸ができるようになり(その程度は分からないが)、その結果として処理容
    量(処理機数)は上がる傾向にあると思う。ポイントマージで順序の入れ替え+最
    適化をすれば、もう少し容量は上がるかもしれないが、そのための手間や飛行距離延伸などのデメリットとの比較考量になるかもしれない。

    ポイントマージ

(2) 上下分離方式の導入目的と効果

質問

  • 2025年を目標に東日本の空域において上下分離方式が採用される見通しが示されていますが、その目的と管制業務や空港の容量にどのような効果があると考えられているのでしょうか?
  • 上下分離方式の採用は、東京進入管制区の管制業務、或いは、羽田空港の容量拡大にどのような影響があるのでしょうか?

    上下分離方式の再編イメージ

学識経験者(不開示)

  • 正確に理解はできていないが、交通流の特徴(短距離、長距離、上空通過)ごとに、なるべく個別の航空機について、なんども異なる管制機関の間でハンドオフする状況を少なくする発想だと思う。
  • 羽田空港の容量には直接影響はないと思うが、前述の進入管制区との関連やそこへの接続の状況は間接的に影響することはあると思う。

2. 羽田空港の発着回数容量に制約を与える条件について

(1) 空港施設(滑走路等)に関する制約

質問

  • 2017年12月に、先生より「羽田空港のボトルネックは、滑走路の処理能力と滑走路直近の航空路の容量で、30機/時が容量最大に近い値である。」とご教示いただいたところですが、現状においても、その状況に変わりはないのでしょうか?
  • 近年、空港施設の整備・改良等で、容量拡大につながった事例はあるのでしょうか?

回答(学識経験者名は不開示)

  • 羽田空港のボトルネックの状況は、おそらく変わっていないと思う。
  • 空港施設の整備・改良等で、容量拡大につながった事例は、もちろんあると思うが、具体的な事例は、わからない
(2) 空港運用(方面別滑走路運用等)に関する制約

質問

  • 2017年12月に、先生より「羽田空港は、容量を高めるために、方面別の滑走路運用が行われている」とご教示いただいたところですが、方面別滑走路運用には、北側からの発着回数が少ないことによる非効率も指摘されており、空域が拡大された現状でも、方面別滑走路運用が空港容量を確保するために望ましい運用なのでしょうか?

回答(学識経験者名は不開示)

  • 方面別滑走路は、進入管制区の中で経路の合流をさせないための運用で、どちらかというと複数の滑走路の容量の使用効率が落ちる(つまり実質的な容量が落ちる)という理解だと思う。つまり「制約」である。
  • 進入管制区を大きくし、さらにポイントマージにより、経路合流をシステマティックにできるようにしたので、今後は方面別滑走路の「制約」が緩和され、容量は増える方向(滑走路の使用効率を上げる方向)だと思う
(3) 羽田空港周辺での航空路設定に関する制約

質問

  • 都心上空ルートの運用により、羽田空港の発着回数が拡大(80回/時→90回/時)したところですが、羽田空港の他の飛行ルートにおいて、空港容量の制約となっているルートはあるのでしょうか?

回答(学識経験者名は不開示)

  • 都心上空ルート以外の時間帯のボトルネックは、やはり、D滑走路の到着が、A、C滑走路の出発に制約を与える問題が大きい

質問(東京都

  • 都心上空ルートの運用時間を拡大すれば、発着回数は拡大し、運用時間を縮小すれば、遅延時間が増えるという考えでよいか

回答(学識経験者名は不開示)

  • 都心上空ルートの運用時間を拡大すれば、発着回数は拡大するが、環境基準を満たすことができない。都心上空ルートの運用時間を縮小すれば、需要が容量を超えるので、遅延時間が増える方向に働く。
(4) 羽田空港における航空管制に関する制約

質問

  • ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■(←不開示)において、「離着陸の順序付けにより滑走路全体の処理効率が「変化する」とされていますが、現状において、どのような順序付けが行われ、空港容量の制約となっているのでしょうか?

回答(学識経験者名は不開示)

  • 現状の順序付けは、先着順で、順序変更は基本的に行っていないと思う
  • 関連するものとしては、南風時にC滑走路からの離陸機について、D滑走路着陸機が近づきすぎている場合には、B737型のような小型機(Medium)しか離陸させることができないので、そのような場合には離陸順序を入れ替えることは実施していると思う。
(5) 東京進入管制区等の空域に関する制約

質問

  • 2017年12月に、先生より「羽田空港においては、ターミナル空域を拡大することが望ましい」とご教示いただいたところですが、東京進入管制区が拡大された現状において、空域が空港容量の制約となっていることはあるのでしょうか?

回答(学識経験者名は不開示)

  • もっと大きい方がよいかもしれないが、成田の空域との取り合いなので、北から来る航空機の処理のための空域はこれ以上増やせないかもしれない。それが制約になっているかもしれない
(6) その他の制約

質問

  • 上記(1)~(5)以外に、羽田空港の容量に影響を与えている制約としては、どのようなものがあるのでしょうか?

回答

※なし

3. 羽田空港の容量拡大に向けた方策について

(1) 空域再編・航空管制に関する方策

質問

  • 2017年12月に、先生がご指摘された「ポイントマージ」は、実運用により、空港容量拡大につながった(或いは、つながる可能性がある)のでしょうか?
  • 先生が論文で示された「離着陸機の順序付け」について、理論的に空港容量を最大限確保できる運用は、どのようなものでしょうか?
  • 羽田空港で試行運用されたGBAS(地上型衛星航法補強システム)により実現が見込まれる「曲線精密進入方式」は、羽田空港の容量拡大につながるのでしょうか?

回答(学識経験者名は不開示)

  • 厳密に最適化計算を実施しないとわからないが、ポイントマージが理想的に実施できれば、1割程度の増加が見込めるのではないか
  • GBAS曲線進入により直接的に滑走路容量が増えることはないと思う。技術の初期段階では逆に減る可能性もゼロではないと思う。陸域を避けて飛べるようになれば、騒音が緩和され、環境基準や住環境への影響を気にしなくてよくなるため、結果として容量が増えることはあり得ると思う
(2) 航空路に関する方策

質問

  • 都心部上空ルート以外で、空港容量を拡大できる航空路設定には、どのようなものがあるのでしょうか?
  • 国が主催の「羽田新経路の固定化回避に係る技術的方策検討会」において、技術的選択肢のメリット・デメリットにより、6つの飛行方式に絞って整理されたところですが、検討会の主旨とは異なりますが、容量拡大に繋がる飛行方式はあるのでしょうか?

回答(学識経験者名は不開示)

  • まだ使用していないルートをあげれば、「A滑走路からの北側離陸」「C滑走路からの北側直線離陸」「D滑走路からの西側離陸」ではないか。
  • 本検討会は、容量拡大を目的にしたものではなく、環境基準に配慮しつつ、現状の容量を維持できる飛行方式を検討しているものである
(3) 空港施設整備・運用に関する方策

質問

  • 高速離脱誘導路整備等、空港容量を拡大できる施設整備には、どのようなものがあるのでしょうか?
  • 方面別滑走路運用以外で、空港容量を最大限確保できる滑走路運用は、どのような運用が考えられるのでしょうか?

回答(学識経験者名は不開示)

  • 滑走路容量は、滑走路占有時間に左右される。滑走路からすぐに誘導路へ離脱できれば、容量があげられるが、羽田空港では、十分誘導路が整備されている。羽田空港は、そもそも面積が狭く、誘導路以外の場面も混雑しており、滑走路占有時間を減少させることには限界がある。


4. その他

質問

  • その他、羽田空港の容量拡大につながる施策のお考えがあれば、ご教示ください。

回答

※なし

空域再編が更なる機能強化に寄与する可能性の整理

「空域再編が更なる機能強化に寄与する可能性」について、下記内容にて1枚に整理されている。

1) 首都圏空域の拡大後(現状)における空港機能強化の可能性

①到着機の柔軟なコントロールによる容量拡大の可能性

  • 首都圏空域が拡大されたことで、到着機に対する管制がより遠方から行えることになり、到着間隔などの調整時間が確保されることで、より効率的なコントロールが可能になり、空域の処理容量が拡大する可能性はある。
  • また、ポイントマージシステムの運用により、到着機の到着順番調整が行いやすくなり、柔軟な滑走路運用(方面別滑走路運用の柔軟化)により、羽田空港の容量拡大に寄与する可能性はある。

②到着機と出発機の効率的な離着陸誘導による容量拡大の可能性

  • 羽田空港は、井桁型の滑走路となっていることから、到着機と出発機が干渉される状況にある。(例えばC滑走路からの出発機がD滑走路への到着機の影響を受ける)
  • 上記のポイントマージ等の運用により、到着機の到着時間が正確にコントロールできれば、到着間隔に合わせた出発機の離陸を効率的にコントロールできることから、羽田空港の容量拡大に寄与する可能性はある。

2) 今後の空域再編(上下分離方式の採用)における空港機能強化の可能性

  • 将来的な首都圏空域における上下分離方式の採用は、航空機への交信回数の増加が懸念されることや、管制区を上下分離されることで、上下の境界となる高度によっては、東京進入管制区側からみると、到着機との交信開始高度が低くなり、空港側に近づくことから、羽田空港の容量に間接的に影響する可能性があると考えられる。

雑感

「学識経験者等へのヒアリング」これまで知られていなかった多くの情報が掲載されている

「学識経験者等へのヒアリング」では、これまで知られていなかった多くの情報が掲載されている。

以下、3つ例示する。

1つ目は、質問者がシオ政策経営研究所の担当者からでなく、わざわざ東京都と明記したうえで、「都心上空ルートの運用時間を拡大すれば、発着回数は拡大し、運用時間を縮小すれば、遅延時間が増えるという考えでよいか」と、都民感情を逆なでするような質問をしている。

2つめは、「曲線精密進入方式」は、羽田空港の容量拡大につながるのでしょうか、という固定化回避検討会の検討内容と関連しそうな質問。これに対して、学識経験者は「陸域を避けて飛べるようになれば、騒音が緩和され、環境基準や住環境への影響を気にしなくてよくなるため、結果として容量が増えることはあり得ると思う」と回答。

3つ目は、ズバリ固定回避検討会に関連した質問。「容量拡大に繋がる飛行方式はあるのでしょうか?」。学識経験者は「本検討会は、容量拡大を目的にしたものではなく、環境基準に配慮しつつ、現状の容量を維持できる飛行方式を検討しているものである」と、はぐらかしている。

学識経験者の名前が不開示

都のヒアリングに応じた学識経験者は不開示になっている。

一部開示決定通知書によれば、不開示にした理由として、「今後当人から情報提供の協力を得ることが困難」となる可能性が掲げられている。

左記の情報は、学識経験者の氏名情報であって、当該情報を公にすることにより、今後当人から情報提供の協力を得ることが困難となり、ビジネスジェットの受入体制強化に向けた検討の円滑な遂行に支障を来すおそれがあるため。

 

ヒアリングに対応した学識経験者は、いったい誰なのか?

2017年12月に、先生より「羽田空港のボトルネックは、滑走路の処理能力と滑走路直近の航空路の容量で、30機/時が容量最大に近い値である。」とご教示いただいた

このように、質疑応答文章には「2017年12月に、先生より(略)とご教示いただいた」の記載が3か所あるから、羽田新ルート関連の検討会のメンバの一人であることは間違ないだろう

でも、都主催検討会や国交省主催の検討会を調べたのだが、2017年12月に開催された検討会は見あたらなかった。ひょっとすると、「先生より(略)ご教示いただいた」のは、検討会の場ではなく、メールかZoom打合せだったのかもしれない……。

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2024年6月1日、このブログ開設から20周年を迎えました (^_^)/
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