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羽田新ルート|「航空環境研究」No.25をひも解く

一般財団法人空港振興・環境整備支援機構の附属研究機関である航空環境研究センターは11月2日、機関紙「航空環境研究」No.25を発刊。
羽田新ルートに若干触れている部分があったので(下記の目次のうち朱書き3件)、整理しておいた。

焦点

  • 航空機騒音のアノイアンス反応の時代による変化…山田一郎

研究報告

  • 航空機騒音測定における音源識別の利用と様々な周辺環境への適応…大島俊也
  • 海外空港における航空機騒音苦情の現状と対策に関する考察…武田修
  • 航空機騒音の短期測定に基づく長期間評価値の信頼性〜滑走路運用方向割合からの分析〜…篠原直明
  • 航空機騒音の離陸滑走開始時の後方指向性…中澤宗康
  • 航空機騒音の住宅内外レベル差に関する簡便な測定方法の提案…下山晃司
  • 騒音予測計算における飛行経路条件設定のための平均期間長の検討―複数空港における高度を含む考察―…菅原政之
  • 海外事例にみる騒音軽減のための到着経路と可能性…深野賢治

解説

  • 航空機騒音測定で用いる測定器の基本と保守管理…大島俊也

国際学会参加報告

  • Inter-Noise 2021参加報告…篠原直明・武田 修・中澤宗康

活動報告

  • 研究センターの動き

もくじ

「航空機騒音のアノイアンス反応の時代による変化」

http://aerc.jp/_public/202110/aerc-2021-2-01.pdf(1.6MB)

航空機の低騒音化や運航方式の変化がアノイアンス(annoyance:音にかかわる不快感の総称)反応に及ぼす影響に係る論考。著者は航空支援機構理事・リオン株式会社顧問。

固定化回避検討会の議論では、「どの程度騒音軽減が見込めるか試算しているかは明確でない」という指摘。「新ルートの運用は千葉市側の騒音被害の軽減にも有効に寄与しているといえるか分からない」というのが航空支援機構の理事の認識。

3.1 わが国の首都圏空港の最近の状況

(前略)新ルートは南風好天時の午後にしか使われず、COVID-19パンデミックによる減便が続く中でのスタートとなったが、都心上空を通過して次第に高度を下げ新宿や品川を飛行するため、経路下に住む住民から落下物や騒音を懸念する声が上がり、昨年6月にルート下の住民らが集団訴訟を起こす事態となっている。

しかし、訴状では「離発着に伴う騒音による各種生活被害」といっているが、航空機騒音の影響や被害の内容、騒音頻度の考慮方法、騒音対策基準の妥当性などへの疑問は出ておらず、「最短では東側ルートだと2分間隔、西側ルートだと4分間隔で飛ぶ」という頻度の言及があった程度である。

新ルートの訴訟の動きと関係するかは不明だが、国交省はルート固定化回避の議論を行う検討会の設置を決め、今年8月までに4回の検討会を開催し、騒音軽減等の観点から、見直し可能な方策がないか検討を重ねている。だが、資料を見る限り、様々なRNPの方式を調べているが、どの程度騒音軽減が見込めるか試算しているかは明確でない

なお、新ルートの運用は南風好天時での午後だけと限定的であり、従来ルートの千葉市側の経路下住民の騒音被害を訴える発信がネット上で続いているのをみれば、新ルートの運用は千葉市側の騒音被害の軽減にも有効に寄与しているといえるか分からない。(以下略)
(P5)

 

著者は日本の航空機騒音に係る環境基準や評価方法の見直しを求めている。

6. おわりに

(前略)時代の変化につれ社会経済の発展や生活水準の向上があり、音環境の質に関する見方も変化している。パンデミックも生活様式や価値観に大きな変化をもたらす可能性がある。そんな状況に鑑み、確立から長年月の経つわが国の航空機騒音に係る環境基準や騒音評価方法の妥当性を検証してこれからの時代にもふさわしいかを見直す良い機会にできないだろうか

「海外空港における航空機騒音苦情の現状と対策に関する考察」

http://aerc.jp/_public/202110/aerc-2021-3-02.pdf(4.1MB)

欧米10か国(英、独、仏、蘭、ベルギー、スイス、オーストリア、スペイン、米、豪)、20空港を中心に苦情処理に関する法的な建付けの有無、処理ツールや受付窓口、また、苦情の実態とその報告・公開などといった点についての横断的な調査結果報告。著者は航空環境研究センター主任研究員。

主任研究員は海外についてはシッカリ調査しているのかもしれないが、羽田新ルートについて「きめ細かな住民説明が行われた」と断言してしまった点で、論文の質が問われる事態になってしまっているのではないか。

6. 日本における苦情処理に関する考察
(前略)空港の運用は設置ののち内外の環境の変化により、その形状、運用方法等様々な観点で変革がおきる。一方で、日本においては、空港の課題に関する恒常的な住民参加型の協議スキームが少なく、どちらかと言えば短期的な住民意見の収集方法が主に思える。

2020年の羽旧空港の都心上空を飛行する運用に当たっては、きめ細かな住民説明が行われたが、これも一つの方法であろう。

しかし、空港の運用は日々変化するし、さまざまな状況の変化が想定される中での今後の空港運営の在り方を考えれば、課題や運用方式の変更等について協議できる法定の常設の協議スキームが検討されても良いのではないか。(以下略)

(P10)

「海外事例にみる騒音軽減のための到着経路と可能性」

http://aerc.jp/_public/202110/aerc-2021-3-07.pdf(2.5MB)

航空機騒音対策を3つに分類し(①音源を遠ざける、②飛行経路を振り分ける、③住宅密集地を避ける)、海外での適用事例が整理されている。著者は航空環境研究センター調査役。

羽田新ルートの降下角は3.45度であるが、それよりも大きい降下角空港が存在しているという情報(ロンドンシティ空港5.5度、フランクフルト空港3.2度)。

(1)高降下角進入方式

(前略)イギリスのロンドンシティ空港で最終進入経路がロンドン市街上空を通過することもあり、ILS進入を含めたすべての進入方式の降下角が5.5度で設定されている。視認進入も最終進人の進入角度を5.5度とするプロファイルがVISUAL APPROACH PROFILEという名称で公示されている。

ドイツのフランクフルト空港において3.2度の降下角によるILS進入やGLS(GBAS Landing System)進入が設定されている。

日本では、羽田空港で南風運用の好天時に騒音軽減を目的として3.45度のRNAV進入方式が滑走路16L/Rへの着陸で実施されている。
(P1~2)

 

住宅密集地を避けるために、北風好天時には羽田空港への着陸ルートは東京湾上を飛行する進入方式が採用されているとしている。

3.3 住宅密集地を避ける

騒音軽減を目的とした着陸経路の国内例として羽田空港で最終進入経路を東京湾上を飛行するHIGHWAY VISUAL RWAY34Rという名称のCVA(Charted Visual Approach)とほとんどの経路を東京湾上空を飛行し着陸するILS X RWAY34Lという名称の進入方式がセットで深夜時間帯を除く北風運用の好天時に実施されている

深夜時問帯は極力東京湾上空を飛行し着陸する経路が設定されている
(P4)

北風好天時には着陸ルートは確かに都心を通過しないが、離陸ルートのほうは荒川沿いを北上するという問題(江戸川区民などへの騒音被害)には触れられていない。

 

「降下角3.45度のRNAV進入も騒音対策として効果を発揮している」という航空環境研究センター調査役の残念な認識。

5. まとめ

(前略)羽田空港の南風運用時に実施されている滑走路22へのCDA及び滑走路16L/Rへの降下角3.45度のRNAV進入も騒音対策として効果を発揮している。(以下略)(P9)

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