今年の筑波大学附属駒場中学校の入試問題に羽田新ルートが登場したことをご存じだろうか。
問題文は、杉江弘・山口宏弥著『羽田増便・都心低空飛行が危険なこれだけの理由』を参考にしたとされている。
「社会」の問題3問のうち最初の1問目が羽田新ルートの問題。3枚のうち、1枚半が問題文章、あとの1枚半が問い。
問題文
1 つぎの文を読んで、あとの1から7までの各問いに答えなさい。
2020年1月末頃から、東京で航空機の音を大きく感じるようになった人がいるのではないでしょうか。それはこの時期から、「羽田新ルート」と呼ばれる航路が実験的に使われるようになったからです。そのうちの一つである「都心低空飛行ルート」では、航空機が地上に近い高さで飛行するようになったため、以前より大きな騒音がもたらされるようになりました。このルートは羽田空港への着陸時において、南風が吹いていて、航空機が多く離発着する時間帯に、さらに学校の終業後である15時~19時の間にかぎり採用されます。試行期間を終えて、3月29日からは通常の運行経路として、実際に使われるようになりました。それではなぜ、新たにこのようなルートが採用されるようになったのでしようか。(中略)
(羽田新ルートの図)
さらに、「都心低空飛行ルート」で求められる着陸時の進入角度の問題もあります。2014年の新ルート発表以来、進入角度は3.0度で説明されてきましたが、2019年になって3.45度の進入が発表されました。この3.45度は世界の規模の大きな空港では例のない急角度で、通常は3.0度の進入が適当とされています。3.0度を超える空港はドイツのフランクフルト空港で3.2度、かつて存在し、山側からの進入時に世界一着陸が難しいといわれていた香港の啓徳空港は3.1度でした。羽田新ルートの3.45度の進入について、100カ国以上の10万人を超えるパイロツトが加入するIFALPA(国際定期航空操縦士協会連合会)や、世界の約300の航空会社が加盟するIATA(国際航空運送協会)は、安全上の懸念を表明しています。しかも気温が35度を超えるような条件下では航空機の高度が高くなるため。進入角度が3.7度を超えるものになると予想されています。
(中略)
「新ルート」のこのような問題が知られるようになり、品川区、港区.目黒区、新宿区、板橋区、豊島区、大田区、江戸川区、江東区、川崎市、さいたま市などで住民による反対運動が起こっています。新型コロナウイルス感染収束後の東京の玄関口をどのように形づくるのかについて、住民もふくめて広く国民的な議論や検討をする必要があるでしょう。
問い
問いは、次の7つ。
1 一年の中で最も都心低空飛行ルートが採用される可能性が高い時期を、つぎのアからオまでの中から一つ選び、その記号を書きなさい。
- ア 春 イ 梅雨 ウ 夏 エ 秋 オ 冬
2 日本の観光に関連してのべた文として正しいものを、つぎのアからオまでの中から二つ選び、その記号を書きなさい。
- ア 2019年に日本を訪れた旅行者を国別に見ると、中国からの旅行者が最も多い。
- イ 日系の外国人旅行者は、パスポートを見せることなく日本への入国ができるようになった。
- ウ 増加する外国人観光客の宿泊施設の不足を補うため、民泊に関する条例がつくられた。
- エ 新型コロナウイルス感染症の拡大で海外旅行が避けられたため、2020年の国内旅行者数は前年に比べて増加した。
- オ 新型コロナウイルス感染症の拡大にともない、外国人観光客を誘致するため、GoToトラベルキャンペーンが実施された。
(3~5省略)
6 地図中の区間において新ルートを使った飛行機に乗ったとき、日中の晴天時に窓から見える景色として正しくないものを、つぎのアからカまでの中から二つ選び、その記号を書きなさい。
- ア 南風時の離陸の後、右手に横浜ベイブリッジが見える。
- イ 北風時の離陸の後、右手に東京ディズニーランドが見える。
- ウ 南風時の着陸の前、右手に東京スカイツリーが見える。
- エ 南風時の着陸の前、左手に東京湾が見える。
- オ 南風時の離陸の後、左手に富士山が見える。
- カ 北風時の離陸の後、左手に東京タワーが見える。
7 本文の内容についてのべた文として正しくないものを、つぎのアからオまでの中から二つ選び、その記号を書きなさい。
- ア 都心低空飛行ルートでは、新宿駅上空で東京スカイツリーよりも低い位置を飛んでいる。
- イ 外国では、首都上空に飛行ルートが設定されていない。
- ウ 都心低空飛行ルートが上空を通らない自治体においても、反対運動が起こっている。
- エ 気温が高くなるとエンジンの出力を上げる必要があるため、騒音が大きくなる。
- オ 東京湾に落下物が落ちて沈んだ場合は、落下物発生件数に数えられていない。
雑感
これは大学入試問題でもなければ、高校入試問題でもない。中学入試問題ということに驚かされる。問題文に必ずしも回答のヒントが含まれているわけではないので、小学生にとっては幅広い知識を要する難問ではないのか。
ただ、最難関中学受験専門塾の講評によれば、「どれも平易なレベル」だとか。
昨年 3 月から運用が開始されたいわゆる「羽田新ルート」(下図)について、その解説と問題点を指摘した文章を読んで、各設問に答える形式でした。
(略)幅広く出題されていますが、どれも平易なレベルです。したがって、羽田新ルートを使った場合に飛行機の窓から見える景色(6)、本文の内容理解(7)、この2題でミスしないことが最も重要だったと言えます。
このような問題をクリアできる小学生は、日ごろから社会に深い関心をもって勉強に励んでいるに違いない。今の小学生は大変だなぁ……。
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