外交・安全保障が専門のジャーナリスト、松竹伸幸氏による『〈全条項分析〉日米地位協定の真実』集英社新書(2021/2/17)読了。
日米地位協定の逐条解説が無味乾燥にならないように、1952年に合意された日米地位協定の前身の「行政協定」と1959年の日米両政府交渉で示された「行政協定改訂問題点」を比較する形で論じた労作。
羽田新ルートに係る日米地位協定第6条(航空交通等の協力)をピックアップしておいた。本書を読むと、日米地位協定により、航空管制は軍事・非軍事に係らず安全よりも安全保障が優先されている背景が理解できる。
※「行政協定改訂問題点」は、行政協定を日米地位協定に改定する交渉が開始されるにあたって、外務省がまとめた57項目からなる文書。当時は秘密指定され、民主党政権下の2010年に指定が解除され公開された。
- 日米地位協定:安全よりも安全保障を優先
- 行政協定:日米地位協定とほぼ同じ
- 行政協定改訂問題点:「安全保障の利益」だけでなく、「航空交通の安全」も
- 59年日米合同委員会:「安全」ではなく「安全保障」を優先
- 本書の構成
日米地位協定:安全よりも安全保障を優先
航空管制は、非軍用・軍用に係らず、安全よりも安全保障が優先されていることが分かる。
第6条(航空交通等の協力)
- 1 すべての非軍用及び軍用の航空交通管理及び通信の体系は、緊密に協調して発達を図るものとし、かつ、集団安全保障の利益を達成するため必要な程度に整合するものとする。この協調及び整合を図るため必要な手続及びそれに対するその後の変更は、両政府の当局間の取極によつて定める。
- 2 合衆国軍隊が使用している施設及び区域並びにそれらに隣接し又はそれらの近傍の領水に置かれ、又は設置される燈火その他の航行補助施設及び航空保安施設は、日本国で使用されている様式に合致しなければならない。これらの施設を設置した日本国及び合衆国の当局は、その位置及び特徴を相互に通告しなければならず、かつ、それらの施設を変更し、又は新たに設置する前に予告をしなければならない。
行政協定:日米地位協定とほぼ同じ
「行政協定」に記載された文言は、日米地位協定とほぼ同じ。つまり、52年に締結された「行政協定」は、第6条(航空交通等の協力)に関してはほどそのまま、60年に締結された日米地位協定に継承されたのである。
第6条(航空交通等の協力)
- 1 すべての非軍用及び軍用の航空交通管理及び通信の体系は、緊密に協調して発達を図るものとし、且つ、集団安全保障の利益を達成するため必要な程度に整合するものとする。この協調及び整合を図るため必要な手続及びそれに対するその後の変更は、相互の取極によつて定める。
- 2 合衆国軍隊が使用する施設及び区域並びにそれらに隣接する領水又はそれらの近傍に置かれ、又は設置される燈火その他の航行補助施設及び航空保安施設は、日本国で使用されている様式に合致しなければならない。これらの施設を設置した日本国及び合衆国の当局は、その位置及び特徴を相互に通告しなければならず、且つ、それらの施設を変更し、又は新たに設置する前に予告をしなければならない。
行政協定改訂問題点:「安全保障の利益」だけでなく、「航空交通の安全」も
航空管制は「安全保障の利益」だけでなく、「航空交通の安全」のためにも行われるべきことを指摘している。
18、全ての民間・軍用航空交通管理及び通信の体系は航空交通の安全及び安全保障の利益のため調整される(1項)。
59年日米合同委員会:「安全」ではなく「安全保障」を優先
59年6月の日米合同委員会によって、米車飛行場の管制だけではなく、その周辺は進入管制も引き続き米軍が行うということと、安全ではなく軍事優先も変わらないということが合意されている。
「安全」ではなく「安全保障」を優先させて
1959年6月、ようやく管制業務を日本が行えるようになります。しかし、その際、日米合同委員会によって、以下のように合意がされました。
- 1、米軍に提供している飛行場周辺の飛行場管制業務、進入管制業務を除き、すべて、日本側において運営する。
- 2、防空任務に従事する軍用機に対しては交通管制上、最優先権を与えることに同意している。……
「すべて、目本側において運営する」(1項)とされているので画期的な変化かと思いきや、「米車に提供している飛行場周辺の飛行場管制業務、進入管制業務を除き」ですから、米車飛行場の管制だけではなく、その周辺は進入管制も引き続き米軍が行うということです。
横田空域・岩国空域の根拠となっている「進入管制業務」でもアメリカの権利を認めたのです。実態に変化はなかった。また、2項にあるように、軍事優先も変わらないということです。(以下略)
(P88-89/第6条 航空交通等の協力)
本書の構成
全269頁。
- 前文 言葉の飾りを排して
- 第1条 軍隊構成員等の定義
- 第2条 基地の提供と返還
- 第3条 基地内外の管理
- 第4条 返還、原状回復、補償
- 第6条 航空交通等の協力
- 第7条 公益事業の利用
- 第9条 米軍人等の出入国
- 第17条 刑事裁判権
- 第18条~24条(省略)
- 第25条 合同委員会
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