地球科学の第一人者である鎌田浩毅氏の新著『首都直下地震と南海トラフ』MdN新書(2021/2/4)を読了。
京大教授の定年を迎えた鎌田浩毅氏が「科学の伝道師」としての総決算というだけあって、幅広い内容がとても分かりやすく書かれている。しかも、各章とも俳優の室井滋との対談で始まっているので取っ付きやすい。
#首都直下地震
富士山のマグマはいつでもスタンバイ状態
山頂の北東部、小御嶽神社があるあたりからの噴火が予測されている。
「富士山が噴火するって本当ですか?」
(前略)
室井 実際、富士山で危ないのはどのあたりとお考えなんですか?
鎌田 僕たちが警戒しているのは山頂の北東部、小御嶽神社があるあたりです。この10年ほど、地下15キロメートル付近で「低周波地震」が断続的に起きています。富士山のマグマはいつでもスタンバイ状態と言っていいのです。
もう1つ、大事な特徴があります。富士山は「割れ目」噴火をする火山です。フィリピン海プレートがずっと押していて、地下に弱線ができるんです。マグマが地表へ向けて上がってくるときには、上昇しやすい弱線を選んで伝わってくるので、噴出地点を予測するのが難しいのですね。
東日本大震災のあと、富士山の地下では地面がわずかだけ開いています。マグマがどこで上がりやすくなったのか、これから注意が必要です。(P126/第4章 富士山噴火の可能性も高まった)
※富士山噴火に警鐘を鳴らしているおススメの本:
- 鎌田浩毅著『富士山噴火と南海トラフ』20XX年、国家存亡の危機 (ブルーバックス)
- 磯田道史著『天災から日本史を読みなおす』(中公新書)
すべて円に換算してみる
地球の誕生46億円、宇宙の歴史137億円といったように、すべて円に換算してみると、地球科学者の「長尺の目」が身近になるのではないかという提案。
プレートのゴール、日本
(前略)我々は100万年、1000万年という時間単位でものを考えます。ちなみに火山の寿命は100万年くらいですが、ハワイのオアフ島は500万年前にできた火山です。また、ヒマラヤ山脈をつくるために、4000万年間ほどインド大陸がアジアを押してきました。
こういう長さで地域を見ていると、100年や1000年に1回地震を起こすプレートの動きなど、地球科学的にはあっという間の出来事です。よって、地震や噴火を起こす「ツメが伸びるくらいの速さ」のプレートはすどく速い、と私には思えるのです。
ここで何10万年、何100万年がイメージしにくいときには、「年」を「円」にしてみると感覚的につかめます。たとえば、火山の寿命は100万円。オアフ島は500万円。ヒマラヤは4000万円。
ほら、こうしてみると100円や1000円の地震はどく小さな値でしょう。ついでに地球の誕生は46億円で、宇宙の歴史は137億円です。すべて円に換算してみると、地球科学者の「長尺の目」が身近になるのではないかと思います。(P213-214/第6章 「長尺の目」で世界を見る)
※時間スケールの大きさを円に換算するという発想はとてもユニーク。さすが「科学の伝道師」である。
本書の構成
全10章、311頁。
- 序章 東日本大震災から10年、いつ来てもおかしくない大災害
- 第1章 地震の活動期に入った日本列島
- 第2章 首都直下地震という新しいリスク
- 第3章 M9レベルになる「西日本大震災」と南海トラフ
- 第4章 富士山噴火の可能性も高まった
- 第5章 なぜ世界で自然災害が増えているのか
- 第6章 「長尺の目」で世界を見る
- 第7章 科学にできること、自分にしかできないこと
- 第8章 地球や自然とどうつきあうか
- 終章 私たちはどう生きるべきか
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