経済評論家・山崎元先生の推薦本ということで、速攻でamazonをポチる。
バンガードを創立し、世界初のインデックスファンドを立ち上げたジョン・C・ボーグル著『人生のダイヤモンドは足元に埋まっている 強欲資本主義時代の処方箋』 文響社(2021/1/14)。
投資の要諦でも学べるかと思ったら、そうではなかった。いい意味で裏切られた。本書は哲学書である。資本主義社会を生き抜くための深い洞察が刻まれている。
※朱書きは、筆者コメント。
金融経済とは
金融経済とは、モノをつくるビジネスが生み出した価値を奪い取るものだという、辛辣な定義。
重要な問題が存在している
この2世紀のあいだに、先進国は農業経済から工業経済へ、そしてサービス経済へと移行し、いまでは金融経済が圧倒的な存在感をもつにいたった。だが本質的に金融経済とは、モノをつくるビジネスが生み出した価値を奪い取るものだ。(中略)
社会全体の資本形成システムを早急に改善するためには、教育、情報公開、規制、構造改革、法制改革などを組み合わせた方策を練る必要がある。もしも本書が、そのための行動を促すきっかけとなれば、私が執筆に費やした時間が有効活用されたことになる。とにかく、行動を起こすことが大切だ。そのときまで金融経済はずっと、モノを生産する企業がつくり出した価値を必要以上に奪い続けるだろう。私は、金融業界が試される時代がいつか来ると思っているが、そうなればそんな搾取は許されなくなるはずだ。(以下略)
(P47-48/第1章 「コスト」より「価値」を)
※生命保険も似たようなところがある。独身者に生命保険は不要。どうしても保険を掛けるなら掛け捨て。社会人になったばかりの若者は、保険会社の草刈り場になっていないだろうか……。
実利主義、専門分野における価値観を失わせている
実利主義によって、どの専門分野でも、昔からあった価値観が失われつつあるという指摘。
時代は変わった
「専門性のある職業」と言うと私たちはまず医師、弁護士、教師、エンジニア、建築家、会計士などを思い浮かべる。少なくとも理想を言えば、ジャーナリストと、他人の資産を預かる管財人もこのなかに入るだろう。だがどの専門分野でも、昔からあった価値観が失われつつある。この変化を含めてさまざまな問題を引き起こしているのが、まったく重要でないものを厳密に計算する能力に支えられた実利主義だ。市場の論理が野放しにされたため、専門性のある職業に対して社会が伝統的に抱いていた信頼が大きく揺らいでいる。そればかりか、何世紀にもわたって築き上げられた職業人としての行動規範が、完全に覆されているケースもある。(以下略)
(P104/第5章 「ビジネス」より「職業人の行動」を)
※職業人としての行動規範に異常をきたした事例として、建築分野でいえば、耐震偽装事件(姉歯事件)や免震データ偽装事件、杭工事データ改ざん事件(マンション傾斜問題)などがある。
「マネジャー」より「リーダー」を
リーダーシップ論の大家、ウォレン・ベニスの言葉が紹介されている。
「マネジャー」より「リーダー」を
(前略)マネジメントとリーダーシップの違いは大きい。マネジメントとは、何かを実行し、それを達成し、そこに生じる義務や責任を負うことだ。リーダーシップとは、方向性を示し、意義を与え、行動を起こし、意見を述べる過程で、従う者たちに影響を与えることだ。両者には決定的な違いがある。
(中略)
マネジャーは物事を管理し、リーダーは物事を革新する。
マネジャーはコピーで、リーダーはオリジナルである。
マネジャーは組織や構造を重視し、リーダーは人間を重視する。
マネジャーは支配力に頼り、リーダーは信頼をもたらす。
マネジャーは短期的な視野をもち、リーダーは長期的な展望をもつ。
マネジャーはつねにボトムライン(利益)を気にするが、リーダーは地平線を見つめる。
マネジャーは模倣し、リーダーは創造する。
マネジャーは現状を受け入れ、リーダーは現状に挑む。
(以下略)(P142-143/第7章 「マネジャー」より「リーダー」を)
※菅義偉総理は恐ろしいほど「マネジャー」に当てはまっている。
本書の構成
10章構成。全238頁。
第一部 マネー
第二部 ビジネス
- 第1章 「コスト」より「価値」を
- 第2章 「投機」より「投資」を
- 第3章 「複雑さ」より「シンプルさ」を
第三部 人生
- 第4章 「計算」より「信頼」を
- 第5章 「ビジネス」より「職業人の行動」を
- 第6章 「販売精神」より「受託責任」を
- 第7章 「マネジャー」より「リーダー」を
- 第8章 「モノへの執着」より「責任ある関与」を
- 第9章 「21世紀的価値」より「18世紀的価値」
- 第10章 「成功」より「人格」を
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