大田区議会「20年第1回定例会」本会議の代表質問(2月21日)と一般質問(2月25日)で、それぞれ共産党の議員から羽田新ルートに関しての質疑応答があった。
議会中継(録画)をもとに、テキスト化(約7千文字)しておいた。
※以下長文。時間のない方は「質疑応答のポイント」と最後の「雑感」をお読みいただければと。
菅谷郁恵 議員(共産、代表質問)
菅谷郁恵 議員(共産党、区議6期、純心女子短大卒、元保育士、62歳)
羽田空港増便、新飛行ルートの問題です。
1月30日から始まった新飛行ルート、南風時の実機での飛行が終りました。本運用を本格的に実現するためと、管制官の手順確認を行うために乗客を乗せた実機飛行確認です。
地域の方々から「これまでに聞いたことがないほどの音の大きさだ」「バンバン飛んでる」「安全性は大丈夫なのか」「これからずっとこの音の大きさに苦しまなければならないのか」など、実際飛び始めて、中止を求めたい声が寄せられています。
計画によれば、南風運用の時は午後3時から7時の時間帯に、B滑走路から、羽田地区、川崎コンビナート上空へ1時間あたり20便が離陸します。
A・C滑走路への着陸は、都心上空から城南島、京浜島上空950メートル以下で飛行し、1時間あたり約44便になります。
また、着陸時の降下角度は3.0が3.5度に引き上げ、「世界のパイロットは3.5度の急降下をほとんど経験したことがなく、危険だ」と言われています。
また、人口密集地に近い空港は、世界にありませんし、川崎市の石油コンビナート上空を飛ぶのですから、事故が起きたら大災害になります。
旧羽田空港の沖合移転が決まった際、「航空機は海から入り、海に出る。内陸は6000フィート以下では飛ばない。京浜島上空は飛ばない。石油コンビナート上空は飛ばない」などが守られてきました。今回の増便、新飛行ルートは、このルールを一方的に破棄するもので、許されません。
問1:増便による環境変化を区は把握すべき
また、増便は大気汚染の問題からも深刻です。気候変動に直結するからです。
昨年9月の国連気候行動サミットで、16歳のスウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥンベリさんが、「人々は苦しみ、死にかけ、生態系全体が崩壊しかけている」と世界に訴えたことは大きな反響を呼びました。
2015年に採択されたパリ協定では、世界の平均気温上昇を1.5度に抑制する努力目標を設定し、そのために21世紀後半までに、人間活動による温室効果ガスの排出量を実質的にゼロにする方向性を打ち出しました。
この冬は、経験したことのない世界的暖冬とも言われ、「今年の夏はもっと凄い暑さになるではないのか」「15号、19号のような台風も必ず来る」などの声が出ています。
このような地球温暖化のなかで、さらに増便をすれば、飛行機から出る排気ガスやCO2が大量に増え、大気汚染と地球温暖化を促進します。
これまで羽田飛行場での全CO2発生量について、区に問い合わせても、国際民間航空機関ICAOが把握している、と区民の声に向き合おうとしていません。
地球温暖化の影響は、区民の生活に直結します。増便による環境変化を区は把握すべきです。お答えください。
問2:国に対して中止を求めること
また、増便と新飛行ルートについて、これまで区長は「国に対して、さらに安全対策を求める。区民に対して丁寧な説明をすることを求める」と表明してきました。しかし、区民が1番求めているのは危険性の問題、騒音の問題、落下物の問題です。
国は様々な対策を出していますが、抜本的な解決になっていません。最大の対策は、増便をしないことです。増便と新飛行ルートについて、今からでも国に対して中止を求めることです。お答えください。
松原忠義 大田区長(4期、早大法卒・明大院卒、77歳)
答1:数値の把握に努めてまいります。
次に、増便による環境変化を区が把握し、どのように対策を取るのかというご質問でございますが、航空機が排出する二酸化炭素削減については、「気候変動に関する国際連合枠組条約」の協定議定書において、世界的な枠組みが定められております。
それによりますと、国内航空の二酸化炭素は各国の排出量に計上し、各国の責任において削減に取り組むこととなっております。わが国におけます航空分野の二酸化炭素排出対策は新機材導入による燃料効率の改善、航空交通システムの高度化による運行方式の効率化、バイオ燃料など、代替航空燃料の普及促進に取り組むとされております。
さらに、経済的な手法として、国内排出量取引制度についても検討するとされております。このように航空機の二酸化炭素削減は、国およびICAO(国際民間航空機関)の責任のもとで取り組みが進められていくものと理解をしております。
なお、区は、新飛行経路の運用に係り、国に対し、航空機による大気汚染等の環境影響に関する情報を公開するよう要請し、その結果、国では大気汚染の状況について今年度中に測定するとともに、運用開始後も測定し、ホームページ等で公表する予定でございます。区といたしましては、区民の生活環境への影響について、これらの数値の把握に努めてまいります。
答2:国に対しさらなる対策の強化を強く求めてまいります
次に、新飛行ルートの運用についてのご質問でございますが、増便に伴う新飛行ルートの運用は、国の航空政策ではございますが、区は国に対し、騒音対策や安全対策等を強く要望し、各種の対策が図られております。
国際線着陸料の料金体系の見直しによる、低騒音機の導入促進、南風時のB滑走路からの出発機の便数削減や長距離国際線の制限、機材制限等が講じられております。
また、落下物対策を含む安全対策においては、部品欠落の報告制度拡充や落下物防止対策基準の義務付け、駐機中の機体チェックの強化などが取り組まれております。運用開始前にこれらの対策が図られてきましたが、今後も国に対しさらなる対策の強化を強く求めてまいります。
杉山公一 議員(共産、一般質問)
杉山公一 議員(共産党、区議1期、元全日空社員、私立自動車工業高校卒、64歳)
問1:国に増便中止を求めるべき
次に、区民の命と暮らしを脅かす羽田空港の機能強化、増便中止について質問します。
2020年3月29日より新飛行経路の運行を開始し、羽田空港において、国際線を年間39,000回増便する計画ですが、どうして羽田空港の増便が必要なのでしょうか。
地方創生、一極集中を解消すると言いながら、羽田に集中する増便が必要はないのではないでしょうか。地方空港を活用することが地方の再生につながります。航空会社からの要望、自社の使用勝手の良い時間帯、羽田空港の南風時、北風時の時間帯の増便はそこから来ています。
航空行政は国土交通大臣が許認可権を有しています。国際線の便を航空会社が申請して認める。安全が最優先としていますが、米国航空会社および本邦航空会社の申請を鵜呑みにしている計画となっています。安全より経済優先になっています。
羽田空港機能強化による増便の新ルート案は、南風時平均4割の着陸は、午後3時から7時の実質3時間について、1時間あたり80回を90回に増やす計画で、様々な問題点が指摘され、住民からの不安も広がっています。
この間、基本とする運航方式であった「海から入って、海に出る」が変更になり、都心上空を低空飛行することになり、騒音、落下物、環境破壊悪化が指摘されています。
国土交通省は、1月30日から3月11日の間で、北風運用時、南風運用時、それぞれ7日間程度、実機飛行による確認を実施しますと発表し、区はこの実機飛行による確認に際しましては、「国に対して、区民の騒音影響が把握できるよう、確実な騒音測定が可能な体制の構築と測定した騒音値の公表などとともに、運用開始後も引き続きそれらの対応をしっかりと図るよう求めてまいります。また、区としても騒音値について注視するとともに、騒音測定結果を踏まえ、必要に応じた対策を講じるよう国に要請してまいります」としています。
実際に1月30日から2月12日に行われた実機飛行確認では2月3日に、滑走路から側方距離1キロメートルの距離にある羽田小学校において、B滑走路西向き離陸により、大型機から85デシベル、中型機から77デシベル、小型機から78デシベルの最高値も実測しています。
これは国土交通省が高度500フィートで滑走路からの側方距離1キロメートルの穴守神社駅で大型機76デシベル、小型機72デシベルの予想値を上回り、机上の計算は崩れています。実際に区民からは「この爆音が毎日続くとノイローゼになってしまう」などの苦情も寄せられています。
今回の実機飛行確認による騒音は予想以上です。区民の生活を脅かすとの認識に立つべきです。この騒音問題に対して、対策を求めるべきです。この対策ができるまで、増便の延期を求めるべきです。対策ができないのであれば増便中止しかありません。
国に増便中止を求めるべきです。お答えください。
問2:降下角度3.5度は即中止を
国土交通省が追加対策で騒音を少しでも低減するとして、飛行機の着陸時の降下角度を現行の3度から3.5度に引き上げると打ち出しました。
これに対して、航空評論家で元JAL機長は「世界の大空港で降下角度は3度です。パイロットにとっては、降下角は0.1度変わるだけで外の景色、高さは全く違って見えます。かつて世界一着陸が難しいと言われた香港の啓徳空港でも降下角度は3度でした。降下角度3.5度は世界のほぼすべてのパイロットが経験したことのない急角度になる大問題です」と語っています。
今回の実機飛行確認では2月2日の南風時に、エア・カナダの001便は降下角度3.5度に設定したRNAV進入方式での新飛行経路での進入ができない旨を報告し、その後成田空港に目的地を変更しています。
この時点でカナダの航空当局から降下度角3.5度の承認が得られてなかったことが判明しています。
また、米国のデルタ航空が通常よりも急角度、と見合わせての理由を掲げています。
3月29日の都心ルートの正式運用までには社内の事前準備を終えたいとしています。
デルタ航空はこれまでの飛行確認では、都心ルートの運用時間外に着陸するなどして、欠航や目的地変更などの影響は出ていませんが、このことは国土交通省の対応が外国の航空当局と航空会社に実機飛行確認に対応できる状況を作り出せていないことが証明されたのではないでしょうか。
国土交通省は他の外国航空会社に対しても、準備状況の確認を進めると言うが、体制が取れてないなかでの実機確認は安全のリスクを大幅に高めるもので、危険極まりない行為です。
国土交通省が騒音対策として、降下角を3度から3.5度に引き上げましたが、実機飛行確認では騒音対策にはならなかったことが明らかになりました。危険極まりない降下角度3.5度は即中止を国に申し入れるべきではないでしょうか。お答えください。
問3:コンビナート火災、防災対策は必要
そして、南風運用時のB滑走路西向き離陸は、川崎の石油コンビナート上空を低空飛行で行う無謀なルートです。離陸直後に石油化学コンビナート地域の上空を通るようなルートを持つような空港は世界にほかにはありません。
発着回数、乗降客数、貨物取扱いで、上位の世界の主要41空港について調査したところ、付近にコンビナートがある空港は羽田空港のほかには、シンガポールのチャンギ国際空港しかなく、そのチャンギ空港も最寄りのベンガラ石油コンビナートまで東に約14キロメートル離れています。南北に走る滑走路の先はいずれも川と海の上で、石油化学コンビナートの上空を飛ぶものはありません。
2011年の東日本大震災の時に、千葉県のコスモ石油のタンクが炎上し、燃え尽きるまで消火できなかった事例から、お隣の川崎市ではコンビナートの被害想定を策定しており、大規模火災の場合には多摩川を越えて、南六郷、本羽田、羽田、羽田旭、萩中、東糀谷あたりまで被害が及ぶとされています。
航空機事故の場合はさらに拡大するので、新たな大規模災害の想定をしなければならないとしていますが、大田区では対岸の火事では済まされません。
もし、一旦事故が起これば、炎上し、有毒ガスが発生することも想定されます。想定外では済まされません。区民の命と財産を守るのが地方自治の使命です。
私たちは、羽田空港機能強化、増便の中止を求めていますが、厚木基地のある神奈川県大和市では、航空機事故に対応した防災対策と防災マニアルがあり、市民の生命と安全を守っています。
大田区としては航空機事故に対応した具体的な防災対策がないのは問題です。
現在でも南風時の運用時でB滑走路に着陸を試みて、何らかの不具合でゴーアラウンドが発生し、川崎のコンビナート上空を通過する事例も発生しています。
区として、コンビナート火災や有毒ガスの発生などに対応した防災対策は必要です。大田区に対して、早急に航空機事故に対応した防災対策とコンビナート火災に対応した防災対策を立てることです。お答えください。
羽田空港で働く人たちの声を聞くと、どの職場でも人員不足で長時間過密労働で働いています。疲弊しています。管制官やパイロット、整備士、グランドハンドリング、空港内外すべての機材・施設の準備、それを使えるように訓練された作業担当者の準備が整っているのでしょうか。
整っているとは思えません。むしろ、無理やり合わせているともいっても過言ではありません。
昨年の6月15日には神戸発羽田空港のスカイマーク機がランウェイ34レフトに着陸態勢に入っているところに、他滑走路に着陸した国際線ターミナルに向けタクシングしていたバンクーバー発羽田行きのANA機が、スカイマーク機が着陸予定の滑走路を横断しました。
着陸の際に別の飛行機が滑走路を横切る管制上の重大インシデントが起こりました。こうしたヒューマンエラーも起こり得るのです。
もし事故が起きてから、「あのとき認めなければよかった」と言っても遅いのです。
区民の財産・生命と安全を守るためにも、羽田空港機能強化・増便および新飛行ルートの撤回を政府に強く求めるよう要望して質問を終わります。
危機管理室長
答3:東京国際空港緊急計画が策定されております
私からは航空機による大規模事故への区の対応についてのご質問にお答えいたします。
航空機事故の発生はその被害が広範囲に及ぶことが想定されます。東京国際空港では航空法や空港保安管理規程等に基づき、空港及びその周辺の航空機事などに備えた東京国際空港緊急計画が策定されております。
この計画は、区や国、東京都、関係機関が連携し、緊急事態の際には迅速かつ適切に対応することを目的としております。
区は空港やその周辺で航空機事故が発生した際に、災害対策本部を速やかに設置して区民の安全を確保し、事故情報の収集や区内の医療機関などとの連絡調整、国の現地合同対策本部へ職員を派遣し、対応に当たります。
また、国が主催します航空機の大規模事故を想定した「航空機事故対処総合訓練」へ定期的に参加するなど、事故発生時の適切な対応が取れるよう努めております。
区といたしましては、この計画に基づき役割を果たしてまいります。
空港のまちづくり本部長
答1:さらなる対策の強化と徹底を国に要請
私からは2問。まず、実機飛行確認に伴う騒音と対策に関わるご質問ですが、私もB滑走路からの西向き離陸の実機飛行確認を視察してまいりましたが、大型か小型かなど、使用機材により騒音状況や上昇性能、旋回の位置等が大きく違うことを感じております。
区としましては、国が行った騒音測定の結果について、現在国に対し、検証・分析を実施するよう求めております。そのうえで必要に応じた対策を講じるよう国に要請してまいります。
新飛行経路の運用は国の航空政策ではありますが、運用開始後も引き続き、騒音などの環境対策や落下物を含む安全対策の確実な取り組みと最新技術、知見などの反映など、さらなる対策の強化と徹底を国に要請してまいります。
答2:引き続き国に対し安全確保の徹底を求めてまいります
次に、南風時の着陸の新飛行ルートにおける降下角3.5度に係る質問ですが、3.5度での着陸は、サンディエゴ国際空港やローマ空港、国内では稚内・広島空港などにおいて採用されております。
国は「3.5度の降下角度において、安全基準に則ったものであるとしており、今回の導入に際して、航空会社との間でシミュレーションによる確認が行われており、その結果を踏まえたものである」としています。
区としましては、航空の安全は何より重要と考えており、引き続き国に対し安全確保の徹底を求めてまいります。
雑感(原稿棒読み大会…)
今回の定例会本会議で質問に立ったのは、全部で16名(代表質問4名、一般質問12名)。そのうち羽田新ルート問題を取り上げたのは共産党(2名)だけだった。
再質問がないので、全く議論が深まらない。まさに”原稿棒読み大会”なのである。新型コロナウイルスの感染が広がるようであれば、次回の第2回定例会はもう書類開催でいいんじゃないか、と思ってしまうくらいだ。
大田区民はこのような区議会の現状を知っているのだろうか……。
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