国交省が運用している「羽田空港のこれから」というサイトに、FAQ冊子が掲載されている。最近、v6.1からv6.2に改訂されたことをご存じだろうか。
FAQ冊子、こっそり改訂(v6.1⇒v6.2)
国交省が運用している「羽田空港のこれから」というサイトに掲載されているFAQ冊子。最近「v6.1」から「v6.2」に改訂されたことをご存じだろうか(次図)。
Google Chromeを使ってデータ更新日を調べてみると、1月10日に更新されたことが確認できる(次図)。
1月10日にv6.2に改訂されたことは、どこにも公表されていない。また、FAQ冊子本文に、改訂履歴が記されていないので、どこがどう変わったのか分からない。
こっそりとデータを差し替える姿勢は、厚労省の勤労統計不正を想起させるようでいただけない。
v6.1からv6.2に改訂されたが、全体の枚数(144枚)は変わっていない。
両者を1ページずつ、根気よく見比べていくと、「不動産価値」(P64)と「降下角の引き上げ」(P73)のページで修正がなされていることが判明した。
それ以外の修正か所を発見された方はお知らせください、というか、そもそも旧版(v6.1)はすでに公開されていないので、一般の人は比較することさえできない。
以下、修正か所を解説する。
不動産価値:国交省の言い分を補強
v6.1では箇条書きが2つあったのに、v6.2では3つに増えている。しかも記載内容も一部修正されている(次図、ピンク囲み)。
改めてテキスト化したのが以下。
特に、朱書きの部分に着目してほしい。
改訂前(v6.1)
- このような中で、3空港(成田、伊丹、福岡)を対象に調査したところ、飛行経路が地価の下落につながることを示す因果関係を見出すことはできませんでした。
改訂後(v6.2)
- このような中で、航空機の飛行経路と不動産価値の変動との間に直接的な因果関係を見出すことは難しいと考えています。
- また、離着陸回数の多い3空港(成田、伊丹、福岡)を対象に調査したところ、飛行経路が地価の下落につながることを示す因果関係を見出すことはできませんでした。
改訂後(v6.2)に「直接的な」という表現が追記された。前々回の改訂版(v5.1.2)には「直接的な」という表現があったので、v6.1の改訂で書き落としてしまった表現を訂正したということなのであろう。
また、改訂後(v6.2)に「離着陸回数の多い」という表現が追記された。これは、「なぜ、3空港以外の空港の調査を実施しなかったのか?」という質問を排除するために追記したのではないか。
ちなみに、2018年の年間着陸回数(国際線+国内線)ランキングTOP10は以下のとおり。
※国交省が公表している「平成30年空港管理状況調書」をもとに筆者集計
- 1位:東京国際空港(226,747回)
- 2位:成田国際空港(128,100回)
- 3位:関西国際空港(93,559回)
- 4位:福岡空港(90,052回)
- 5位:那覇空港(81,803回)
- 6位:新千歳空港(76,919回)
- 7位:大阪国際空港(69,132回)
- 8位:中部国際空港(50,886回)
- 9位:鹿児島空港(34,579回)
- 10位:仙台空港(27,532回)
国交省が調査対象とした3空港よりも離着陸回数(≒着陸回数×2)が多い空港は、羽田を別とすれば、3つある(関空、那覇、新千歳)。いずれも住宅地とは離れているので、国交省が調査対象から除いているのは理にかなっている。
以上のように、不動産価値に関して追記された文言は、いずれも国交省の言い分を補強することに貢献している。なかなかやるな、国交省。
降下角の引き上げ:不都合な真実を削除
v6.1ではQAが2つあったのだが、v6.2では1つ削除されている。しかも残ったQAの記載内容も一部修正されている(次図)。
改めてテキスト化したのが以下。
特に、朱書きの部分に着目してほしい。
改訂前(v6.1)
Q1 さらなる高度の引き上げはできないのですか。
- 騒音の影響をできる限り軽減することが重要であることから、今回、国際基準上最大の3.5°の降下角への引き上げを実施することとしました。
Q2 海外を含めて、3.5°で運用している空港はあるのですか。
- 地形や障害物を避けるため、3.5°の降下角を採用をしている稚内空港や広島空港があります。
- また、海外空港での一例として、サンディエゴ空港(アメリカ)等があります。
※フランクフルト空港(ドイツ)3.2°で運用中、ヒースロー空港(イギリス)は、3.2°で試行を実施改訂後(v6.2)
Q1 海外を含めて、3.5°で運用している空港はあるのですか。
- 地形や障害物を避けるため、3.5°の降下角を採用している稚内空港や広島空港があります。また、海外空港の事例として、サンディエゴ空港(アメリカ)、ローマ空港(イタリア)等があります。
※騒音軽減のため、フランクルト空港(ドイツ)では3.2°で運用中
v6.1にあった「Q1 さらなる高度の引き上げはできないのですか」は、改訂後(v6.2)に削除された。国際基準上最大の3.5°まで高度を引き上げても1dB程度しか騒音低減効果が得られないことがバレたので削除したのではないのか。
v6.1では、3.5°で運用している「一例として」、サンディエゴ空港等が掲げられていた。v6.2では、「一例として」ではなく、「事例として」、サンディエゴ空港にローマ空港が追記された。3.5°運用海外事例としては、この2空港で打ち止めか。
v6.1に記されていたヒースロー空港の3.2°試行が、v6.2では削除された。
ヒースロー空港のホームーページに掲載されている「LHR 3.2 Slightly Steeper Approach Trial 2 Report Dec 2017」(ヒースロー空港 降下角3.2度アプローチ試験 第2回 報告書17年12月)(60頁、PDF:3.8MB)をひも解くと、なぜ、国交省がヒースロー空港の情報を削除したのか想像に難くない。
というのは、ヒースロー空港の試行結果は、降下角を3.2度に引き上げても騒音低減効果は地上では認識できないと結論付けているのである。
The noise analysis and modelling confirms that 3.2° approaches do provide a small noise benefit to local communities.
It should be noted that the magnitude of that average benefit is small (c.-0.5dBA) and unlikely to be perceptible on the ground.
(P5要約、P59本文)
騒音分析とモデル化により、3.2°アプローチは地域社会にわずかな騒音低減効果しかもたらさないことが確認されています。
その平均効果の大きさは小さく(マイナス0.5dB)、地上で認識される可能性は低いことに注意する必要があります。
以上のように、降下角度の引き上げに関して削除されたのは、いずれも国交省にとっては不都合な真実であったということが分かる。
過去の改訂履歴(一覧)
これまでの改訂履歴を以下にまとめておく。
- 19年12月5日:v5.1.2⇒v6.1
最大騒音レベルの表現や不動産価値への影響、新飛行経路図の一部が変更されていた。
※詳しくは「FAQ冊子改訂、どこが変わったのか 」参照。 - 19年5月10日:v5.1.1⇒v5.1.2
国内線・国際線の利用状況の人数と発着回数が増加する値に差し替えられていた。
※詳しくは「今回もFAQ冊子をこっそり差し替え」参照。 - 19年1月頃:v5.0⇒v5.1
飛行ルートの一部が拡がるかたちで図が修正(3枚)されていた。
※詳しくは「FAQ冊子こっそり差し替え!?」参照。 - 18年9月:v4.1⇒v5.0
フェーズ4の内容や騒音データグラフなど、新たな情報が追加された。 - 17年12月頃?:v3.0⇒v4.1
RNAV方式、パネル脱落などの不具合事案などが追加された。また、飛行経路案の地図上のルートが判別しやすく描かれるとともに冊子の最後に移動した。 - 17年1月:v2.1⇒v3.0
騒音の影響が及ぶ地域名が削除されていた。
※詳しくは「国交省の体質!? 国民に知らせず公表データ差し替え」参照。 - (改訂時期不明):v1.0⇒v2.1
※改訂内容不明。
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