2月に入って羽田増便枠の半数が日米路線に決まり、米航空4社が増便枠の獲得に走り出した。ずいぶんと急な話である。
横田空域通過と引き換えに米国航空枠の増加をディールした可能性はないのか。
増便目的がアジアからの訪日外国人受け入れではなく、米国航空の利益確保に変わっていないだろうか。
米航空各社、羽田の増便枠に相次ぎ申請
日経は2月23日、米航空各社が増便申請を米運輸局に提出したことを伝えている。
米航空各社、羽田の増便相次ぎ申請 新ルート開設で
羽田空港の国際線発着枠の増加に伴い、デルタ航空など米航空各社は22日までに増便申請を米運輸局に提出した。2020年の東京五輪前に運用が始まる見込み。米国には1日あたり12便の増加が割り当てられており、各航空会社への配分が今後の焦点となりそうだ。(以下略)
(日経新聞 2月23日)
国交省が増便枠の半数を日米路線とする方針に「決めた」ことをNHKが報じたのは2月12日。その11日後に、NHKは米航空各社が羽田の増便を相次ぎ申請していることを報じているのだ。
ずいぶんとスピーディーな手続きが米国内で進められているのだが、石井国交大臣は「米国当局の判断」であると2月12日の記者会見で答えている。
※詳しくは、「羽田新ルート|既成事実化が着々と進んでいる」参照。
米航空4社の動き
米航空各社は、羽田増便枠(12枠)の獲得に向けて、どのように動いているのか?
羽田増便枠を差配している米国運輸省のHP(US Department of Transportation)を調べてみたが、羽田増便枠の申請に係る文書は見当たらなかった。
いろいろ調べていくと、米国連邦政府の官報「連邦官報」が閲覧できるRegulations.govサイトの「DOT-OST-2019-0014」フォルダーに、2月7日付で発行された文書「2019 HANEDA COMBINATION SERVICES ALLOCATION PROCEEDING」(2019年羽田増便枠の配分手続き)(2019-2-5 Order)として公開されていることが分かった(次図)。
同文書のP4には、増便枠選定の日程表が掲載されている(次図)。
- 審査請願〆切:19年2月14日
- 請願への回答:19年2月19日
- 認可申請〆切:19年2月21日
- 申請への回答:19年2月28日
- 返信:2019年3月7日
この日程表を踏まえ、米航空4社は、2月21日までに増便申請を米運輸局に提出したのである。
各社のHPなどに掲載されている増便申請枠は次のとおりである。
増便12枠に対して、4社合計で19枠の申請がされている。米国運輸省が12枠に収まるよう調整していくこととされている。
横田空域とのディールで大義名分が失われた!?
なぜ、2月に入って羽田増便枠の半数が日米路線に決まり、米航空4社が増便枠の獲得に走り出したのか。横田空域の管制権問題とリンクしているのではないのか。
NHKは昨年10月4日、日米の調整難航で羽田新ルートが運用できないおそれがあることを報じた。国交大臣は11月2日、衆院予算委員会で「2020年東京オリンピック・パラリンピックに間に合うように米側と調整を行っているところ」と答弁。NHKは1月29日、「日本とアメリカ両政府は近く署名を交わし、正式に新たな飛行ルートの設定について合意を交わす見通し」であることを伝えた。
※詳しくは、「羽田新ルート|横田空域の管制権、日米交渉推移(まとめ)」参照。
主なイベントを時系列で整理すると、日米路線枠の増加と横田空域管制権の問題との関係性が見えてくる。
- 18年10月4日:日米の調整難航
- 18年11月4日:横田空域の管制権、一部日本移譲…米軍と合意へ
- 18年12月18日:羽田新ルート「米国との調整が最終段階」
- 19年1月29日:羽田新飛行ルート 日米合意へ
- 19年2月7日:米国運輸省「2019年羽田増便枠の配分手続き」文書発行
- 19年2月21日:認可申請〆切
羽田新飛行ルートが横田空域を通過する日米合意の見通しが得られた1月29日から、わずか9日後(2月7日)に米航空各社4社宛に「2019年羽田増便枠の配分手続き」文書が発行されているのである。
羽田新ルートが米軍の管制下にあった横田空域を通過することと引き換えに、羽田増便枠を米国に差し出したのではないのか。
羽田増便は、アジア地域を中心に航空需要が伸びるから実施するのではなかったのか。
国交省が公開しているFAQ冊子v5.1.1には、「世界的な航空需要は、アジア地域を中心に更に伸びる・・・更なる国際線の増便のための方策を考えていく必要があります」と記されている。北米便には全く触れられていない。
なぜ羽田空港の国際線を増便する必要があるのですか。
(前略)今後、世界的な航空需要は、アジア地域を中心に更に伸びると言われています。このような中で、羽田空港は、深夜・早朝の時間帯を除き、現在フル稼働しています。(中略)
成田空港と羽田空港の両方について、更なる国際線の増便のための方策を考えていく必要があります。(FAQ冊子v5.1.1_P10)
横田空域通過と引き換えに米国航空枠の増加をディールした可能性はないのか。増便目的がアジアからの訪日外国人受け入れではなく、米国航空の利益確保に変わっていないだろうか。
羽田増便の大義名分が失われていないか……。