川崎市議会の「18年第4回定例会」本会議代表質問(12月6日)で、羽田新ルートに関して、片柳進議員(共産党)の質疑応答があった。
議会中継(録画)をもとに、全文テキスト化(約3千300文字)しておいた。
※以下長文なので、時間のない方は「質疑応答のポイント」をお読みください。
- 片柳:国と県の責任で航空機や落下物による被害想定調査、強く求めるべき
- 市長:航空機の事故や落下物の事故、本調査の対象となっておりません
- 片柳:新ルート案を撤回することを国や県に求めるべき
- 市長:羽田空港の機能強化の必要性、本市といたしましても認識
- 片柳:市長はこの通知(コンビナート上空での飛行をさせない)を反故?
- 市長:今後の取り扱い、国から示されるものと認識
- 雑感(騒音よりもコンビナート事故)
片柳進議員(共産、区議1期、くらしの相談センター所長代理、明治学院大学卒、41歳)
片柳:国と県の責任で航空機や落下物による被害想定調査、強く求めるべき
羽田空港新飛行ルート案についてです。
政府が2020年までに実施を狙う羽田空港の新飛行ルート案はB滑走路から川崎臨海部、コンビナート方面に南風時の午後3時から7時までの間に3分間隔で80便ほどが離陸するというものです。
私たちが川崎区民を対象に行った市民アンケートには526人が回答し、「このルート案を知らない」と答えた方が60%に上りました。
「今回のアンケートをいただくまで飛行ルートの変更等について知らなかった」「説明会等、該当地区以外の住民にも知ってもらう必要があると思う」「もっと住民へ詳細を届ける手段が必要」「昭和45年に市長が国に対して止めるよう要望して回答を得たのに、現市長はどのように考えているのか、甘く考えているのか」などの声が寄せられています。
また、74%の方が「ルート案に反対」と答えており、騒音、振動、墜落事故、落下物事故の影響を心配する回答が多く寄せられています。国土交通省が示しているルート案では、離陸直後にキングスカイフロント、日本冶金、旭化成、日本ゼオン、JXTGエネルギーなど、危険な化学物質を扱う高圧ガスタンクやプラントなどの真上を通ることになっています。
世界の空港の中に同じように石油コンビナートに向かって離陸する空港はあるのか。あるとすればどのような安全対策をしているのか、伺います。
日本全国で起きた落下物事故はこの8年間で451件が記録されています。飛行機の世界では「魔の11分間」と言われ、着陸直前の8分間、離陸直後の3分間に事故の7割が集中しています。
今年5月には、キューバで離陸直後の飛行機が人為的ミスで墜落し112人が死亡。7月にもメキシコで離陸直後の墜落事故が起きています。国は「落下物対策を行う」といいますが、落下物事故も航空機事故も完全にゼロにすることは不可能であり、起こり得るものとして対策を講じなければなりません。
「県石油コンビナート等防災アセスメント調査報告書」は、東日本大震災時の市原市のLPガスタンクの爆発火災を理由に、「評価上の発生確率は極めて小さい災害であったとしても、発生したときの影響が甚大な災害については想定災害として取り上げ、影響評価を行う」(P354)として、大規模災害に発展する恐れのある危険源を把握しリスクアセスメントを行うべきだと述べています。
羽田新飛行ルートを実施した場合の落下物や飛行機の事故、こうしたリスクアセスメントの対象となり得る危険源だと認識してないのか、市長に伺います。
「川崎市臨海部防災対策計画」はこの県の「石油コンビナート防災アセスメント調査」を前提としているのですから、国と県の責任で航空機や落下物による被害想定調査を行うよう強く求めるべきですが、市長に伺います。
国がコンビナートで落下物、飛行機事故が起きた際の被害想定を明らかにすることもなく、その上空を飛行するルートを強行するなど言語道断であり、認めるべきではありません。市長に伺います。
1970年に当時の金刺市長が住民からの不安の声を受け、また市議会からも飛行制限強化の声が上がっていることに鑑み、市民の安全を考慮して東京航空局長に要望し、「東京国際空港に離着陸する航空機は原則として川崎石油コンビナート地域上空を避け、適切な飛行コースを取らせる」という通知を出させています。
同じ川崎市の市長として、この通知の立場を堅持して、新飛行ルート案の撤回・中止を国に求めるべきですが、市長に伺います。
福田紀彦川崎市長(無所属、2期、米国ファーマン大学卒、46歳)
市長:航空機の事故や落下物の事故、本調査の対象となっておりません
羽田空港新飛行ルート案についてのご質問でございますが、「神奈川県石油コンビナート等防災アセスメント調査」の対象となる災害といたしましては、地震、津波などの事象による被害を想定しており、航空機の事故や落下物の事故につきましては、本調査の対象となっておりません。
一方で、落下物等の安全性に対する市民の懸念も踏まえ、コンビナート上空の低高度飛行の具体的な内容や落下物等に係る対応など、早期に示すよう国に求めているところでございます。国からは「安全管理の徹底やコンビナート周辺地域の防災対応力の確保・向上に協力していくこと等」の回答を得ているところでございますが、本市といたしましては、引き続き国の責任により新飛行経路の必要な対応とともに地元の不安を解消すべく、丁寧な説明を求めてまいります。
こうしたなかで国際競争力の強化に向けて羽田空港の機能強化につきましては、本市といたしましてもその必要性を認識しているところでございます。
片柳:新ルート案を撤回することを国や県に求めるべき
羽田空港新飛行ルート案についてです。
「落下物や航空機の事故は県の防災アセスメント調査の対象となっていない」との答弁でしたが、この県の調査は「1千年に1度」と言われる東日本大震災で、これまで想定していなかったコンビナート火災が起きたことを契機に行われたもので、その被害想定を受けて、川崎市も「臨海部防災対策計画」を策定したものです。
国土交通省によると、航空機からの部品脱落は全国の主要7空港だけでも昨年11月5日から今年10月末までの間に397件起きており、この中には氷の塊などは含まれていません。
「1千年に1度」どころか、これだけの部品脱落などがあります。ある日本ゼオンで働いていた方は、「毎週2時間安全対策を行っていたが、落下物を想定した訓練など一度もしたことがない」と話していました。
従来、コンビナートの工場では上空からの落下物を想定していません。それは1970年の通知があったからこそ、落下物の対策が不要だったわけですが、「コンビナート上空で落下物や航空機事故が起きたら大規模な災害につながる可能性がある」という認識はないのか、市長に再度伺います。「地元の不安や市民の懸念に対し丁寧な説明を求める」との答弁でしたが、安全だという客観的な根拠がないのに不安や懸念をどのように解消するというのか、市長に伺います。
落下物によりどんな事故が起こり得るか、被害想定もなく説明だけされても市民が納得できるはずがありません。
48年前は金刺市長が、先頭に立って国にコンビナート上空の飛行を制限する通知を出させました。
市長も先頭に立って被害想定行うこと、新ルート案を撤回することを国や県に求めるべきです。市長に伺います。
市長:羽田空港の機能強化の必要性、本市といたしましても認識
羽田空港新ルート案についてのご質問でございますが、航空機の飛行につきましては国からは「土地利用の状況にかかわらず十分な安全を確保することを前提としており、そのうえで住民の不安を払拭すべく、落下物対策の総合パッケージにより未然防止策の徹底など、さらなる対策の強化に取り組んでいる」と伺っております。
羽田空港の機能強化の必要性につきましては、本市といたしましても認識しているところでございますが、引き続き新飛行経路の必要な対応について、国の責任により確実に実施していくことをしっかりと求めてまいります。
片柳:市長はこの通知(コンビナート上空での飛行をさせない)を反故?
羽田空港新飛行ルート案についてです。1970年から48年間、4代の市長は「川崎臨海部コンビナート上空での飛行をさせない」との通知を堅持してきました。
市長は当然この立場を堅持するものと思いますが、それとも市長はこの通知を反故にして捨て去ろうとしているのか、伺います。
市長:今後の取り扱い、国から示されるものと認識
羽田空港新飛行ルート案についてのご質問でございますが、川崎石油コンビナート地域につきましては、現在国の運用として飛行が制限されており、今後の取り扱いにつきましては国から示されるものと認識しております。
本市といたしましては、その取り扱いを含め引き続き新飛行経路の必要な対応を求めてまいります。
こうしたなかで国際競争力の強化に向けて羽田空港の機能強化につきましては本市といたしましてもその必要性を認識しているところでございます。
雑感(騒音よりもコンビナート事故)
羽田空港へ着陸するために都心上空を通過する地域の23区議会での質疑応答との大きな違いは、川崎市では羽田空港を離陸した飛行機はコンビナート上空を通過することだ。
筆者の独自調査によれば、羽田新ルートの騒音の影響を受ける可能性があるのは川崎市民の0.1%(約2千人)。川崎市における羽田新ルートの問題は、騒音よりもコンビナート事故。「魔の11分間」(着陸直前の8分間、離陸直後の3分間に事故の7割が集中)を勘案すると、川崎市民でなくとも大事故による甚大な被害リスクが気になるところだろう。
過去4代の市長が「川崎臨海部コンビナート上空での飛行をさせない」との通知を堅持してきたことに対して、市長の答弁は「現在国の運用として飛行が制限されており、今後の取り扱いにつきましては国から示されるものと認識」と、問題を先送り。
「新ルート案を撤回することを国や県に求めるべき」と迫る片柳市議に対して、市長は「羽田空港の機能強化の必要性につきましては、本市といたしましても認識」とあくまでも羽田新ルートを容認。
将来、コンビナート事故が発生した場合、福田市長はあくまでも県や国の責任だと言い逃れるのだろうか……。
※マスメディアが取り上げなければ、羽田新ルート問題は区民には届かない。区議会議事録の肥しとなるだけだ。弱小なこのブログメディアによる区議会質疑応答の全文書き起こし情報が少しでもお役に立てば幸甚。
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