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KYB免震・制振データ改ざん|費用・期間(東洋ゴムの事例)

油圧機器大手KYBと子会社のカヤバシステムマシナリーによる免震・制振ダンパーの検査データ改ざん問題。

KYBは不正の疑いがある装置を原則全て交換する方針だが、交換用部品の生産が追いつかないため、不正の疑いのある装置の交換は最短でも2020年9月までかかるとされている。

KYBが10月16日に公表したデータ改ざん件数は986件。3年前に免震ゴムデータの改ざんを行った東洋ゴムの場合は、交換対象は154棟。いまだ収束していない。

KYBの免震・制振オイルダンパーと東洋ゴムの免震ゴムとでは、交換の手間が異なるので(免震ゴムの交換工事は建物をジャッキアップし、新しい免震材料と入れ替える大がかりな作業を伴う)、単純に比較することはできないが、参考とすべく東洋ゴムの事例を整理しておいた。


もくじ

免震ゴム対策の財務的影響(東洋ゴム)

東洋ゴムが18年8月10日に公表した「決算説明資料」(2018年12月期 第2四半期)(PDF:632KB)のP5に「免震ゴム対策の影響」が記されている(次図)。

交換対象となっている免震ゴムが設置されている154棟のうち、交換が完了したのは88棟(6月30日現在)。特別損失額は15年度467億円、16年度668億円、17年度186億円であることが確認できる。

2018年12月期第2四半期に対する免震ゴム対策の影響
東洋ゴム「決算説明資料」

 

東洋ゴムの不正が発覚した15年度以降の「決算説明資料」をひも解き、直近18年度第2四半期までの特別損失額の推移を可視化してみた(次図)。

特別損失額は、16年度の668億円をピークに減少しているが、18年度(第2四半期)時点でまだ108億円計上されている。特別損失額の累計は1,400億円を超えている

免震ゴム対策の影響(東洋ゴム)特別損失額の推移


特別損失額の累計額1,429億円の内訳を次図に示す。

製品代・改修工事費は、1,023億円で全体の72%を占めている。

諸費用は、290億円(主として、免震ゴム製品交換工事に係る保険料、免震ゴム対策統括本部人件費等、免震ゴムの交換用設備に係る費用等)で全体の20%。

補償費用等は、117億円で全体の8%。

免震ゴム対策の影響(東洋ゴム) 15年度~18年度第2四半期までの特別損失額の累計

免震ゴム交換実績(東洋ゴム)

東洋ゴムの不正が発覚した15年度以降の「決算説明資料」をひも解き、直近18年度第2四半期までの免震ゴムの交換実績を可視化してみた(次図)。

18年度(第2四半期)時点でまだ着工に至っていない物件が41棟ある。まだ3割近くの物件が着工に至っていないのである(未着工率28%)。

免震ゴム交換実績(東洋ゴム)

人手不足の影響

東洋ゴムのデータ改ざんが公表されてから3年以上も経つのに、まだ3割近くの物件が免震ゴムの交換工事の着工に至っていないのは、なぜなのか?

補償額を含め、建物所有者らとの調整に時間を要していることもあるのだろうが、免震ゴムの交換工事を請け負うゼネコンの人手不足にも一因があるのではないだろうか

東洋ゴムがこれまで免震ゴムの交換工事を実施してきた3年間と、KYBがこれから実施する免震・制振ダンパーの交換工事とでは、2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けて、ゼネコンの人手不足の状況がさらに悪化していくのは明らか。

KYBは不正の疑いのある装置の交換は最短でも2020年9月までかかるとしているが、楽観的すぎないか……。

ちなみに、関東地域の「建設技能労働者過不足率」の推移は次図の通り、上昇傾向にある

建設技能労働者過不足率の推移(関東)

【参考メモ】
過不足率は、建設業法上の許可を受けた法人企業(資本金300万円以上)で、調査対象職種の労働者を直用する建設業者のうち約3,000社を対象とし、次式により算出されている(「建設労働需給調査」より)。

  • 過不足率=[(確保したかったが出来なかった労働者数-確保したが過剰となった労働者数 )÷(確保している労働者数+確保したかったが出来なかった労働者数)]×100

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2023年6月1日、このブログ開設から19周年を迎えました (^_^)/
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