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KYB免震・制振データ改ざん|交換・補償費用は?

東証一部上場のKYB(株)は10月16日、建物の免震・制振装置で性能検査記録データを改ざんしていたと発表。

免震・制振ダンパーを取り換えるとなると、どれくらいの費用が掛かるのか?


もくじ

免震装置、KYBが不正 データ改ざん(日経記事)

一部上場のKYB(株)は10月16日、建物の免震・制振装置で性能検査記録データを改ざんしていたと発表。

免震装置、KYBが不正 データ改ざん、986件に設置

油圧機器メーカーのKYBは16日、建物の免震・制振装置で性能検査記録データを改ざんしていたと発表した。国土交通省の認定に適合しない製品などを、全国のマンションや病院、事務所、庁舎など調査中を含め986物件に設置していた。国交省によると、震度7程度の地震での倒壊の恐れはない。日本のものづくりで相次ぎ発覚している品質不正問題は、収束の兆しが見えない。
(中略)
18年8月、子会社従業員からの指摘を受け、社内調査を進めていた。

15年に表面化した東洋ゴム工業の免震偽装を規模で上回り、事態を重く見た国交省は免震装置メーカー88社を対象に、改ざんの有無の一斉調査を行う。

(日経新聞 10月16日)

内部告発(≒子会社従業員からの指摘)を受けて2か月経って、公になったこの事件。国交省が同日発表した資料を確認してみよう。

データ改ざん986件を可視化

KYB(株)及びカヤバシステムマシナリー(株)が製造した免震・制振オイルダンパーの国土交通大臣認定への不適合

  • KYB(株)及びカヤバシステムマシナリー(株)より、同社が製造した大臣認定等の内容に適合しない免震・制振オイルダンパーが986件の共同住宅、事務所、病院、庁舎等に設置されているとの報告がありました。
  • 国土交通省は、同社から、大臣認定等の内容に不適合な製品について、早急に交換を行う方針であると報告を受けています。

(以下略)

国交省が発表した資料には、データ改ざんのあった986件につき、内容別、都道府県別、建物用途別に表形式で掲載されているので可視化してみよう。

内容別内訳

データ改ざん986件のうち免震ダンパーが903件と大半を占めている。免震ダンパー903件のうち6割近くが調査中(次図)。

検査データ書き換えによる大臣認定等に不適合な製品に係る物件数 免震・制振ダンパー(内容別)

都道府県別内訳

免震・制振ダンパー合わせた件数は東京都が250件でダントツ。以下、大阪府(107件)、愛知県(93件)、神奈川県(71件)と続く(次図)。 

検査データ書き換えによる大臣認定等に不適合な製品に係る物件数 免震・制振ダンパー(都道府県別)

建物用途別内訳
免震・制振ダンパー合わせた件数は住宅が265件でダントツ。以下、事務所(175件)、医療・福祉施設 (159件)、庁舎(109件)と続く(次図)。

検査データ書き換えによる大臣認定等に不適合な製品に係る物件数 免震・制振ダンパー(建物用途別)

「カヤバシステムマシナリー 納入実績」でググると…

KYB(株)のHPにアクセスすると、トップページに「今回の不適切行為に関するお詫び」が表示されている(次図)。

KYB(株)のトップページ

子会社のカヤバシステムマシナリー(株)(http://www.kyb-ksm.co.jp/)にアクセスしようとしても、自動的にKYB(株)のHPに転送されるので、カヤバシステムマシナリー(株)の情報を見ることはできない。

「カヤバシステムマシナリー 納入実績」でググると、「製品案内 › 免震・制振装置 › 納入実績」がヒットするが、キャッシュを開こうとすると「404. That’s an error」となり、すでにグーグルのキャッシュからは削除されている。

その代わり、ヒットしたそれぞれの記事の概要をみていくと、各記事から具体的な物件名を拾うことができる。たとえば、オフィスと住宅を備えた某複合タワービルにもカヤバシステムマシナリーの製品が納入されていることが確認できる(10月17日現在)。

免震・制振ダンパーの交換・補償費用は?

免震・制振ダンパーを取り換えるとなると、どれくらいの費用が掛かるのか? もちろん、自動車の不良部品をチャチャと変えるようにはいかない。ただでさえアップアップのゼネコンが工事計画を立てて、職人を手配。マンションであれば住民への事前説明に時間も要するであろう。

地下空間に設置されている免震ダンパーはともかく、壁の中やエレベータの後ろに設置された制振ダンパーの取り換えは、利用者への成約を伴う。

また、可能性としては低いのだが、免震・制震ダンパー交換中に大地震が発生しても大丈夫なように、耐震性能を確保しながら工事を行う必要があるので、時間と費用が掛かる。

3年前に免震ゴムのデータ改ざんをした東洋ゴムは、いまだ3割近くの物件が着工に至っていない。補償額を含め、建物所有者らとの調整に時間を要していることもあるのだろうが、免震ゴムの交換工事を請け負うゼネコンの人手不足にも一因があるのではないだろうか。

10月16日の国交省の発表を受けて、翌10月17日のKYBの株価は、制限値幅の下限(ストップ安水準)となる前日比700円(18.0%)安の3195円まで下落。

EDINET(金融商品取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システム)に掲載されたKYBの「臨時報告書」(提出日10月16日)には、「報告内容」として、損益に与える影響額を見積もることは困難であるとしている

当該事象の損益及び連結損益に与える影響額

  • 現時点で当該事象に伴う影響額を合理的に見積もることは困難であります。
  • 当該事象の損益及び連結損益に与える影響額については、確定次第公表をいたします。


3年前に免震ゴムデータの改ざんを行った東洋ゴムの事例を確認してみよう。

15年3月に免震ゴムデータ改ざん(同年10月に防振ゴムデータ改ざん)を犯した東洋ゴムの場合、17年2月15日に公表した決算の段階で、免震ゴム性能偽装関連の特別損失の累計額が1134億円日経記事)。東洋ゴムの場合、免震ゴムの交換対象は154棟だった。

東洋ゴムが18年8月10日に公表した「18年年度第2四半期 決算説明資料」によれば、6月30日現在で交換・改修が完了したのは154棟のうち88棟。「現時点で合理的に金額を見積もることが困難なもので、今後発生する費用がある場合には、対処進行状況等によって追加計上する可能性あり」としている。

KYB(986件)と東洋ゴム(154棟)とでは内容が違うので単純に比較はできないが、完全に交換を終えるまでにはかなりの時間と費用が掛かるのは間違いなさそうだ。

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2023年6月1日、このブログ開設から19周年を迎えました (^_^)/
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