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『新築がお好きですか?』ミネルヴァ書房

砂原庸介神戸大学教授の単行本『新築がお好きですか?』ミネルヴァ書房(2018/7/17)を読了。

タイトルは柔らかいが、中身は固い。日本ではなぜ「持家社会」が形成されてきたのか。経済面だけでなく、政治の側面からも分かりやすく解説されている良書。 

ブログ読者の興味を引きそうなところ、3か所抜粋しょう。


もくじ

砂原庸介神戸大学教授が書かれた『新築がお好きですか?』ミネルヴァ書房

持家か賃貸か、「取引費用」という概念

持家住宅か賃貸住宅か。標準的な経済学の議論では、金利の低下でどちらが有利とは言えないという。

直感的には、金利か下がることで住宅ローンのために支払う費用が減るとか、将来土地が値上がりして売ったときの利益が生まれると期待することで、人々は住宅を取得しやすくなるように思われる。しかし、標準的な経済学の議論では、このような要因は持家と賃貸のどちらかを有利にするものではない
 この議論のポイントは、金利の低下や将来の土地の値上がりが、住宅を借りたり買ったりしようとする特定の個人に影響をもたらすのではなく、社会全体に影響するという点である。金利が下がると資金調達が容易になるのは誰もが同じであり、高いときと比べてより多くの人々が住宅を建設しようとするだろう。その結果、市場により多くの住宅が供給され、家賃が低下することになる。そうすると、住宅を借りる人にとってもメリットが生まれているのである。つまり、金利の低下は持家取得と同様に、賃貸を選択する人々にとっても得になり、どちらが有利とは言えなくなるのである。これは土地の値上がり期待についても同じようなことが言える。
 とはいえ、このような標準的な経済学の議論は、日常生活の感覚に反しているようにも思われるではなぜそのような乖離が生じるのか。その理由は「取引費用」という概念にあると考えられる。取引費用とは、経済的な取引が行われるための情報収集や、取引の履行、権利の保護などにかかる費用のことである。

(P19-20/第1章 住宅をめぐる選択)

「取引費用」という概念にポイントがあるらしい。本書には持ち家、賃貸のいろいろな場合の取引費用が記されている。

タワマン、ステータス・シンボルから「廃墟」へ

タワーマンションへの居住は、「住宅双六」の新たな「上がり」として位置付けられつつあるという。

新たな類型として無視できないのは超高層のタワーマンションであろう。2000年代の規制緩和によって、タワーマンションの供給が本格化し、東京湾岸の江東区・港区を中心に大量の建設が進められた。タワーマンション居住はステイタス・シンボルとして捉えられ、居住者用のジムやプール、コンシェルジュサービスや子育てルームなどの充実した共用設備が用意される傾向にある。高度経済成長期のステイタス・シンボル、「住宅双六」の「上がり」は郊外の一戸建てであったが、タワーマンションへの居住は新たな「上がり」として位置付けられつつあると考えられる。

(P154/第4章 集合住宅による都市空間の拡大)

タワマンをステータス・シンボルと持ち上げる一方で、合意形成の難度が高いことから将来「廃墟」となる可能性も否定できないとしている。

さらに深刻なのは、2000年代に入って増加したタワーマンションだろう。都心に立地する建物が多いとはいえ、建て替えてさらに大規模化するのは今のところ現実的と言えないし、何より大量の区分所有者と居住者が――場合によっては小さな町村ほどある――存在する。合意に至る困難を考えると、極めて多額の費用がかかることになる建て替えは、ほとんど不可能と言うべきだろう。建て替えができず共有部分が劣化していくことだけが明らかになると、先ほどの図4-3のような資産価値劣化のサイクルに陥って空き家が発生し、「廃墟」となる可能性も否定できない

(P169/第4章 集合住宅による都市空間の拡大)

タワマン問題については、砂原先生だけでなく、他の識者も指摘している。たとえば、富士通総研の主席研究員 米山秀隆氏(限界マンション問題!より深刻なタワーマンション)。

住宅政策のゆくえ

新たな「制度」として、短期的には今よりも新築住宅を購入する費用を高める一方で、中古住宅や賃貸住宅にかかる費用をより低くする政策が求められているという。

本書の議論を踏まえれば、都市の持続可能性を重視して「制度」を変化させようとするときに求められる政策は、一方で少なくとも短期的には今よりも新築住宅を購入する費用を高めて、他方で中古住宅や賃貸住宅にかかる費用をより低くするものになるだろう。新築住宅を大量に供給することを防ぐとともに、それ以外の選択肢を充実させるということになる。そのような政策が実現されれば、新築の住宅が一世代限りで使い捨てられるようなことを防ぎ、人々が生涯で住宅サービスにかける費用を低下させることにもつながる。

(P225/終章 「制度」は変わるか)

住宅の野放図な増加を抑え、既存の住宅資産の利用を促すことは、政府に求められる重要な役割であるというのはもっともな指摘ではあるが、実現への道のりは長そうだ。

本書の構成

7つの章から構成されている。全255頁。

序章 本書の課題
第1章 住宅をめぐる選択
第2章 住宅への公的介入
第3章 広がる都市
第4章 集合住宅による都市空間の拡大
第5章 「負の資産」をどう扱うか
終章 「制度」は変わるか

新築がお好きですか?』ミネルヴァ書房

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2018年6月1日、このブログ開設から14周年を迎えました (^_^)/
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