江東区議会の「平成30年第2回定例会」本会議の一般質問(6月14日)で、そえや良夫議員(日本共産党)から「羽田新ルート」関連の質疑があった。
ネット中継のビデオライブラリ(録画)をもとに、全文テキスト化(約3千文字)しておいた。
※マスメディアが取り上げなければ、羽田新飛行ルート問題は区民には届かない。区議会議事録の肥しとなるだけだ。弱小なこのブログメディアによる区議会質疑の全文書き起こし情報が少しでもお役に立てば幸甚。
そえや議員の質問
そえや良夫議員(共産党、区議5期、65歳)
質問1:安全面でも環境面でも新たな危険と負担をもたらす
羽田新飛行ルートについてです。
国は国際競争力を高めるために、羽田空港の機能強化が必要として、新たに都心上空に低空の飛行ルートを設定しようとしています。
羽田空港発着便はこれまで、騒音影響や落下物対策のため、「高度1,800m以下は陸地を飛ばない。海から入り海から出る」という大原則が確立されてきました。この大原則を覆す新ルートは、住民に墜落や落下物の危険、騒音など、安全面でも環境面でも新たな危険と負担をもたらすものです。
5月24日熊本空港を離陸した日航機からのエンジン部品落下事故は、本区上空に羽田空港出発機の低空ルートを設定することの危険性を改めて浮き彫りにしました。認識を伺います。質問2:新たな対策でも落下物をゼロにできる保証はない
次に、落下物対策についてです。
国は昨年、飛行機からの部品落下が相次いだことを受けて11月、「落下物総合対策推進会議(落下物防止等に係る総合対策推進会議)」を設置。今年3月にまとめを発表しました。
その柱は、航空会社による点検整備の強化と部品脱落を見つけた場合の国交省への報告義務付け、事故に対する損害補償から成っています。
しかし、この騒音対策についてのレクチャーで、「落下物をゼロにできるか?」との質問に、国交省は「ゼロを目指す」と繰り返すだけで、「ゼロにする」とは遂に答えませんでした。
また、羽田空港の検査体制の弱さも浮き彫りになりました。航空会社による胴体周りの点検は、検査員が1人で行う目視検査だけ。国交省の検査員はわずか9人で、1日に検査できるのは10機程度。「とても十分な対策とはいえない」との指摘に、国交省からの明確な答えはありませんでした。区は、落下物対策について、国に整備体制の強化を求めるとしてきましたが、新たな対策でも落下物をゼロにできる保証はないと思いますが、区の見解を伺います。
質問3:国の対応が・・・あまりに誠意がありません
次に、国の対応についてです。
国交省は、「羽田新飛行ルート設定は、地元の理解を得て進める」と国会で答えています。また、新ルート設定に関する最新の広報紙では、「環境対策や安全対策などについて丁寧に説明してきた」と強調しています。
しかし、区内で過去4度開かれた説明会は、いずれも「オープンハウス型」で、国の取り組みについての情報提供が中心。住民の質問に対する、適切かつ正面からの答えはありません。
一方、参加者が共通の理解を得るのに有効として求めている「教室型」の説明会は未だに開かれておりません。
区も28年11月に「教室型説明会」の開催を申し入れましたが、国交省は、その後2度の説明を行いながら、いまだに実施しておりません。
国の対応が区に対しても、区民に対しても、あまりに誠意がありません。認識を伺います。質問4:航空会社の利益のために住民の安全を犠牲にする、新飛行ルートの撤回を国に求めるべき
わが党が先日行ったアンケートの中間集計でも、「反対」51%、「よくわからない」23%、「計画を知らない」が26%となっています。とても区民の理解が得られたといえる状態ではありません。
住民の合意はないまま新飛行ルートでの運用は行わないよう、国に求めるべきです。伺います。
区は「羽田空港の機能強化は国際競争力の強化のために必要」との立場ですが、国が当面新飛行ルートで運用を目指すとしている午後3時から7時の時間帯は、アジア便と北東便(北米便?)が集中する時間帯です。羽田で乗り継げば、乗客はアジアと北米との移動が効率よくでき、航空会社は乗客が増えて収益性を向上させることができます。
つまり、午後3時から7までの時間帯で羽田発着便を増やしても、乗り継ぎ客が増えるだけで、日本への観光客の増加などによる経済効果はほとんど期待できません。
航空会社の利益のために住民の安全を犠牲にする、新飛行ルートの撤回を国に求めるべきです。以上伺い、質問を終わります。
山﨑区長の回答
山﨑孝明区長(無所属、3期、元都議・都会自民党幹事長、早大商卒、74歳)
そえや良夫議員のご質問にお答えいたします。羽田新ルートについてであります。
回答1:生活環境に重大な影響を与えるものは少ない
まず、新飛行ルートの危険性について、このルートが生活環境と安全に重大な影響を及ぼすとのことですが、飛行経路は、荒川河口部付近を900mから1,800mで進入し、荒川上空をさらに高度を上げて飛行いたします。
飛行経路直下における騒音は進入時に70㏈前後と想定しておりますが、飛行機の距離が遠くなるにつれて小さくなります。
また、飛行機からの排ガスについては、国際民間航空機関の基準を踏まえ規制をしております。
航空機の環境対策は進んでおり、生活環境に重大な影響を与えるものは少ないと言われております。回答2:落下物ゼロの実現を国に要請
次に、落下物対策についてであります。
現在国が検討している「落下物対策等に係る総合対策推進会議」の構成員は、有識者やメーカーをはじめ、関係団体や空港会社が参加し、関係者は一丸となって成案の策定に取り組んでおります。
未然防止の徹底や、補償の充実などは、これまでにない新しい対策であり、こうした国の対策は現時点で考える得る最善の方法を提示しており、その成果に期待するものであります。
区としては、これらの対策を着実に行い、落下物ゼロの実現を国に要請してまいります。回答3:より多くの区民の合意を得るよう国に求めてまいります
次に、国の対応についてであります。
国は教室型の説明会を行わない見解でありますが、これまでも専門家等で構成する「羽田空港機能強化に関するアドバイザリー会議(羽田空港機能強化に関するコミュニケーションのあり方アドバイザリー会議)」で検討した結果、参加者個人にきめ細やかな対応が可能であり、メリットが大きい「オープンハウス型」の説明会を選択し、「教室型」は採用しませんでした。住民に対する説明会については、国は責任を持って対応すべきであり、区としては引き続き教室型説明会の開催を要望してまいります。
また、区民の合意が得られない新ルートの運用はしないよう求めることについてですが、国はこれまでも様々な手法で情報提供を行っており、区においては4回の住民説明会をはじめ、国の情報を区民に周知してまいりました。
その中で区民の声や要望は国に伝えており、一定の情報共有は達成していると考えております。
今後も、より多くの区民の合意を得るよう国に求めてまいります。回答4:引き続き関係自治会とともに、適切な対応を求めてまいります
次に、新飛行ルートの撤回を求めることについてであります。
羽田空港の機能強化は、東京2020オリンピック・パラリンピックや、その後を見すえ、首都圏の国際競争力を向上させていくためには、区として必要不可欠と考えておりますので、国に撤回を求める考えはありません。
しかし、国には新飛行経路に関する環境影響や安全性確保について、区民に丁寧に説明する責務がありますので、引き続き関係自治会とともに、適切な対応を求めてまいります。
議長「(残り)14秒ですよ」
佐藤信夫議長(自民、6期、福島県立川俣高卒、58歳)
そえや議員、(残り)14秒ですよ。
そえや議員の質問:(落下物を)ゼロにできる確信があるのか?
航空機からの落下物対策です。
落下物が落ちれば、それだけで区民の命に関わります。ゼロにできるというふうな確信があるのかどうか、そこのところを是非示していただきたいと思います。以上です。
環境清掃部長の回答:落下物ゼロの実現を要請してまいります
3.質問(羽田新飛行ルートについて)についてお答えいたします。落下物対策について、でございます。
「落下物対策がゼロにならないか」とのことですが、先ほどご答弁で申し上げたとおり、区は国が策定する落下物対策に期待をしており、それらを着実に行うことで落下物ゼロの実現を要請してまいります。
雑感
”論点ずらし”になっていないか
ビデオを視聴しているときには気がつかなかったのだが、テキスト化して気がついたことがある。
質問1に係る質疑応答である。
そえや議員は「新ルートは、住民に墜落や落下物の危険、騒音など、安全面でも環境面でも新たな危険と負担をもたらす」として、低空ルートを設定することの危険性について、区の認識を問うている。
それに対して区長は、「まず、新飛行ルートの危険性について、このルートが生活環境と安全に重大な影響を及ぼすとのことですが」とわざわざ前置きしているにも係わらず、騒音70dbと想定していることや排ガスは基準を踏まえ規制されていること、航空機の環境対策は進んでいるから「生活環境に重大な影響を与えるものは少ない」と答弁しているのだ。
そえや議員が「新飛行ルートの危険性について」問うているのに、区長は生活環境への影響を答えるだけで、危険性について答えていないのである。
某首相が得意とする”論点ずらし”になっていないか……。
増便による観光客の増加は期待できない!?
そえや議員の4番目の質問によれば、新ルートの運用が予定されている午後3時から7時の時間帯はアジアと北米の乗り継ぎ客が多いので、航空会社の収益性は向上するが観光客の増加などによる経済効果はほとんど期待できないということになる。
どこかで聞いたことのある話だと思ったら、今年の4月3日、国会参議院「国土交通委員会」において山添拓議員(共産党)が石井国交大臣に同様の内容を問うているのだ。
15時台から18時台にかけては北米便ですとかアジア便の発着が重なります。ですから、アジア各地、中国なども含めてそこから東京で乗り継いで北米に向かう、あるいはその逆の経由客を取り込むことができれば座席の利用率が上がり航空会社の収益性が高くなるというわけです。(略)
しかし乗り継ぎ客のためでしたら、これインバウンドでも何でもないんですね。国際線同士の乗り継ぎ客でしたら出国税の課税対象にもなりません。ですから「そもそも誰のための機能強化なのか?」ということが改めて問われてくると私は思います。
※詳しくは、「羽田新ルート|参院「国土交通委員会」質疑全文-誰のための機能強化なのか?」 参照。
午後3時から7時の時間帯の増便に占める、乗り継ぎでない訪日外国人は何人くらいと想定されているのか?
ここは、参議院なり衆議院なり、質問主意書で確認してほしいところだ。
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