日経BP社が実施している「設計料に関するアンケート調査」。
自由記入欄には、悲痛とも言える設計者の声が上がっているという。
実質、設計料はデフレ
報酬を増やす努力はしているが、発注者からは「設計料を安くしてほしい」という要望が強く、請求できない。
消費税率がアップしたので、発注者からは設計報酬は増えてみえる。一定の仕事量を確保するためには、設計者側が目をつぶるしかない。実質、設計料はデフレだ。
マンションのコンセプトを提案
分譲マンションのプロジェクトコンセプトを提案し、他の設計事務所との違いを出す工夫をしている。
しかし、報酬増にはつながっていない。(以下略)
日経アーキテクチュアの記事を読む限り、設計事務所の台所は厳しそうだ。
医師や弁護士といえば高額所得者が多そうだが、同じように法律で独占的な業務を許されている建築士の所得水準はどの程度のものなのか?
厚労省が毎年7月に実施している「賃金構造基本統計調査」のデータをひも解いてみて、衝撃的な事実を発見!
ざっくり言うと
- 一級建築士の年収(企業規模10人以上)は645万円
- 同じ一級建築士でも女性の年収は男性の約7割(ただし女性の平均年齢のほうがやや低い)
- 一級建築士の年収は35~39歳が最も多い
- 東日本大震災翌年以降、一級建築士の年収が大幅増
一級建築士の年収(企業規模10人以上)は645万円
「平成27年 賃金構造基本統計調査」の職種別の平均年収(企業規模計10人以上)のうち、平均年収が550万円を超えている19の職種をグラフに整理してみた(次図)。
ダントツで高いのは航空機操縦士(いわゆるパイロット)の1,531万円(44.0歳)。
あとは、医師1,198万円(40.0歳)、弁護士1,095万円(35.6歳)、大学教授1,088万円(57.5歳)と1千万円プレーヤーが続く。
一級建築士のは14番目で645万円(49.7歳)。17番目のシステム・エンジニア592万円(38.0歳)よりも約50万円高いが、職種によって平均年齢が異なるので、単純には比較できない。
同じ一級建築士でも女性の年収は男性の約7割(ただし女性の平均年齢のほうがやや低い)
企業規模別、男女別にみると、一級建築士の年収はどうなるのか?
1,000人以上の「大企業」では、男性が908万円、女性が605万円(次図)。
10~99人の「小企業」となると、男性が575万円、女性が419万円。大企業と比べて、男性が333万円、女性が186万円低い。小企業の男性は11歳、女性は8歳も大企業より年齢が高いのに、年収が低いのである。
同じ一級建築士でも女性の年収は男性の約7割(ただし、平均年齢は女性のほうが若いので単純には比較できないが)。
日建設計(グループ全体の役員・職員数2,547名)や日本設計(社員数920名)といった大規模な設計事務所を例外とすれば、 1,000人以上の「大企業」の一級建築士の多くはゼネコンに属している社員である。
10~99人の「小企業」の1級建築士の多くは、設計事務所の所長や同事務所に勤める社員である。やりがいはあるかもしれないが、給与面、福利厚生面では恵まれているとは言えない。
やり甲斐や高邁な理想を見失うと救われない職場環境である。
第二の姉葉が生まれる土壌は改善されているいるのか?
一級建築士の年収は35~39歳が最も多い
年齢別に見ると、1,000人以上の「大企業」では、30代半ばから40代にかけて年収が多い。35~39歳が最も多くなるのは、残業代が多いためであろう。
10~99人の「小企業」も「大企業」と同様の傾向が見られる。
東日本大震災翌年以降、一級建築士の年収が大幅増
一級建築士の平均年収はどのように変化してきたのか?
全産業と並べてみると衝撃的な事実が浮かび上がってくる。
一級建築士の平均年収だけが、2012年を底に急激に増加しているのである(次図)。
平成21年国土交通省告示第15号(2009年1月7日)(PDF:376KB)により、建築設計・工事監理等の業務報酬が合理的かつ適正に算定されるように努力義務化された。
でも、翌2010年から2012年までは700万円程度(大企業の場合)で、一向に年収が増えていない。
東日本大震災が発生した2013年は年収が約600万円(同)まで落ち込んでいる。
ところが、翌2014年以降急激に年収が約900万円(同)にまで増えている。
なぜ2014年以降急激に年収が増えたのか?
東日本大震災の復興工事関連の設計業務や東京オリンピック関係の設計業務が激増し、その結果年収が激増したということなのだろうか。
「設計料はデフレ」であることに変わりはないだろうが、2014年以降、一級建築士の年収が大幅に増えたという事実はあまり知られていないのでは。
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