昨日のブログ記事「息切れ感が漂う!東京・大阪・仙台のマンション防災性能評価制度」では、東京都が東日本大震災が発生した翌年度から始めたマンションの防災性能評価制度(東京都LCP住宅情報登録・閲覧制度)がまったく機能していないことを紹介した。
本日は「東京都優良マンション登録表示制度」を紹介しよう。
こちらの制度もかなりヒドイことになっている。
- 東京都優良マンション登録表示制度とは
- 07年度をピークに登録件数は減少
- 登録件数がデベロッパー3社に偏っている!
- 天下り先(認定・登録機関)の誤算?
- 「東京都優良マンション登録表示制度」はデベロッパー3社のための制度か
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まずは、「東京都優良マンション登録表示制度」のおさらいから。
同制度の中身に関心のない方は読み飛ばして、「07年度をピークに登録件数は減少」からお読みください。
東京都優良マンション登録表示制度とは
同制度の目的
「東京都優良マンション登録表示制度」は、「購入時の判断材料を提供」「建物性能や管理の状況が適切に評価される流通市場の形成促進」「マンションの良好な維持管理への誘導」の3つを目的として、2003年4月1日に施行された。
- 分譲マンションが備えることが望ましい建物(共用部分)性能と管理のソフト面の水準を確保したマンションを公表することで、購入時の判断材料を提供します。
- これら、建物性能や管理の状況が適切に評価される流通市場の形成を促します。
- 登録後も、認定機関が一定期間毎の更新時に建物の検査や、管理規約等の管理に重要な事項の審査をすることで、管理組合の管理に関する意識の向上が図られ、長期に渡ってマンションが良好に維持管理されるよう誘導します。
(東京都優良マンション登録表示制度/東京都都市整備局)
登録するにはハードルの高い制度である
本制度の対象は、都内の新築と中古の分譲マンション。
新築マンションが「優良マンション」として認定されるためには、少なくもと品格法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)の「建設住宅性能評価書」を取得しなければなければならない。
「建設住宅性能評価書」を取得するにしても、その中身も問われる。
次の5つの項目に対して、必要な等級を備えていなければならないので、けっこうハードルが高い。
構造の安定
- 耐震等級1 ⇒建築基準法のレベルを満たしていればよい
- 耐風等級2 ⇒建築基準法レベルの約1.9倍の風力に対して倒壊・崩壊しない
火災時の安全性
- 延焼の恐れのある開口部:耐火等級2(=耐火時間20分以上)
- 延焼の恐れのある開口部以外:耐火等級4(=耐火時間60分以上)
劣化の軽減
- 劣化対策等級2 ⇒概ね50から60年の対策が講じられていること
維持管理への配慮
- 維持管理等級2 ⇒共用の配管をコンクリートに埋め込まないなど、維持管理が容易に実施できる基本的な措置が施されていること
高齢者等への配慮
- 高齢者等対策等級3 ⇒マンションの出入り口から住戸の玄関まで、高齢者や自走式車椅子使用者などが安全に移動できる基本的な措置が施されていること
「東京都優良マンション登録表示制度」が施行されたのは、耐震偽装事件が発覚する2年と8ヶ月前(2003年4月1日施行)だから、「構造の安定」に対する扱いが現在の消費者のニーズに合致しているか否かは微妙。
どちらかといえば、高齢者社会に向けた良質なストックの比重が高い。
修繕積立金月額6,000円未満の物件を排除するなど消費者にとって安心できる内容ではあるのだが・・・
「東京都優良マンション登録表示制度」の理念が優れているのは、ハード面(建物の性能)だけでなく、次のように、ソフト面(管理規約等)にまで踏み込んでいる点だ。
【管理組合】
- 区分所有者による集会を開き、管理規約及び管理者を定めているものであること。
【管理規約】
- (1) 管理規約が、中高層共同住宅標準管理規約(平成9年2月7日付けの住宅宅地審議会答申)に準じたものであること。
- (2) (省略)
【長期修繕計画】次に掲げるすべてを定めた長期修繕計画を有していること。
- 一 原則として、対象とする期間が20年以上
- 二 原則として、外壁、屋根、給水管及び排水管の補修工事が予定され、かつ、当該工事に係る予定時期及び予定費用を明記
【修繕積立金】次に掲げるすべてに適合したものであること。
- 一 修繕積立金が、管理費と区分して経理されていること。
- 二 住宅に係る修繕積立金の1戸当たりの平均月額が、当該マンションの平均専有面積に応じて、次に定める金額以上である旨を定めていること。
平均専有面積が55m2以上 ⇒6,000円以上
平均専有面積が55m2未満 ⇒5,700円以上
20年以上の長期修繕計画の策定を義務付けていることや、修繕積立金が月額6,000円(平均専有面積が55m2以上の場合)未満の物件を排除していることなど、消費者にとって安心できる内容となっているのだが・・・・・・。
このようにハード、ソフトの両面にわたる「優良マンション登録表示制度」のハードルの高さが、裏目に出ていないだろうか。
これまでに認定・登録された物件を確認してみよう。
07年度をピークに登録件数は減少
登録されたマンションは、「公益財団法人 東京都 防災・建築まちづくりセンター」のホームページで調べることができる(次図)。
登録されているのは全部で212件。内訳は「新築(本認定)」187 件、「新築(仮認定)」14 件、「中古」11 件(2016年3月6日現在)。
「検索」ボタンを押すと、「認定年月日」とともに具体的な「マンション名」などが表示される(次図)。
全登録物件212件の「認定年月日」を調べて、グラフにしてみた(次図)。
07年度をピークに登録件数は減少している。
07年度から09年度にかけて登録件数が多いのは、耐震偽装事件(05年11月発覚)の影響が大きい。
また、12年度だけ急増したのは、東日本大震災が起きた翌年であることの影響が考えられる。
登録件数ではなく、登録住戸数のほうはどうなのか?
各マンション名をクリックすると、当該マンションの「総戸数」が表示される(次図)。
全212件のマンションの総戸数をせっせと調べて、グラフにしてみた(次図)。
14年度の登録戸数が多いのは、Brillia多摩ニュータウン(総戸数1,249戸、14階建て、2013年10月竣工)の影響が大きい。
登録戸数の多寡を見極めるために、都内の新築マンションの発売戸数に占める「東京都優良マンション(新築のみ)」の割合を計算し、グラフ化してみた(次図)。
08年度(14.8%)をピークに減少傾向にあることが分かる。
登録件数がデベロッパー3社に偏っている!
全212件のマンション名を眺めていて、気が付いたことがある。
同じマンションブランド名が多いことだ。
グラフにしてみると一目瞭然。
ほどんど3つのデベロッパーに限られているのだ。
一番多いのが大京のライオンズマンションで6割近い。
第4位のレクセル(09年3月1日 大京に簡易吸収合併された)を含めると61%に達する。
- ライオンズ:123件(58%)⇒大京
- グローベル:34件(16%)⇒プロスペクト
- グローリオ:29件(14%)⇒セコムホームライフ
- レクセル:7件(3%)⇒09年3月1日 大京に簡易吸収合併された
- その他:26件(12%)
認定基準が高いので、他のデベロッパーは認定を諦めたのか?
あるいは、他のデベロッパーは、認定が販促につながらないと同制度を見限ったのか?
ちなみに、優良マンション登録表示にかかる費用(認定料+登録料)は、新築で45,360円(税込み)だから、申請手数料高さゆえの認定件数の少なさではなさそうだ。
「東京都優良マンション登録表示制度/東京都都市整備局」より
天下り先(認定・登録機関)の誤算?
優良マンション登録表示制度の仕組みは次図のとおりだ。
「東京都優良マンション登録表示制度」パンフレット(PDF6.7MB)より
認定機関と登録機関は、上図に表記されている次の2つの機関。
- 認定機関
― (公財)東京都防災・建築まちづくりセンター
― ビューローベリタスジャパン(株) - 登録機関
― (公財)東京都防災・建築まちづくりセンター
ビューローベリタスジャパン(株)は、140カ国で試験・検査・認証サービスを展開しているビューローベリタスの日本法人。
東京都防災・建築まちづくりセンターは、1998年に設立された都所掌の公益財団法人。理事長 には、2015年3月31日付で都を退職した元財務局建築保全部長がしっかり天下っている。
都の天下り先を「東京都優良マンション登録表示制度」の認定・登録機関に指定したところまではよかったが、思ったほど認定・登録件数が伸びていないのは誤算だったか(という見方は穿ちすぎか)。
「東京都優良マンション登録表示制度」はデベロッパー3社のための制度か
本制度が機能していないことについて、筆者は9年ほど前(2006年12月17日)、都の担当部署にメール照会したことがある。
「必要な改善などを図っていく予定」である旨の回答を頂戴したが、現状は上述のとおり惨憺たる状況である。
そのときのメール応答は「東京都優良マンション登録表示制度(その6)」参照。
現在の「東京都優良マンション登録表示制度」は、実質的にデベロッパー3社(大京、プロスペクト、セコムホームライフ)のための制度になってしまっている。
3社のために都民税が使われている現状を見直す必要があるだろう。