不動産ブログ「マンション・チラシの定点観測」

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大田区「民泊条例」のパブコメ結果を読み解く

大田区のホームページで「民泊条例」案に対するパブリックコメントの実施結果が公表されている。

同公表資料から、民泊に対する大田区の考え方を読み解いてみた。

もくじ
  • 宿泊税について
  • 有料のホームステイの扱いについて
  • テロ対策について
  • 民泊施設への外国人労働者が流入について
  • 納税について
  • 罰則規定について
  • 非居住者・外国法人の排除について
  • 民泊施設内での宗教的儀式の禁止について
  • 管理組合の同意について
  • 条例の厳格適用について
  • 対象地域について
  • まとめ

※以下長文。時間のない方は、最後の「まとめ」をご覧ください。

「事業の実施」「周辺環境への影響」に係る意見が多かった

2週間(10月13日~26日)で集まった区民からの意見は全部で60件。
その内訳は次図のとおり。
「事業の実施」と「周辺環境への影響」に係る意見が多い。

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区民からの60件の意見に対して、「区の考え方(PDF:242KB)」が表形式で整理されている(次表)。

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区の考え方がよく表れていると、筆者が感じたところを中心に拾ってみよう。

 

宿泊税は東京都の所掌なので、区は判断しないというスタンス。

【 No.14:宿泊税について

<意見>
ゲスト(宿泊者)は一時的にせよ地域のインフラを利用するのであるから、応益負担をすべきである。よって東京都で施行されている宿泊税の適用対象事業に民泊事業を加え、納税義務者と規定するべきである。

<区の考え方>

宿泊税については、東京都宿泊税条例に定めがあり、都税となっております。宿泊税の取り扱いは東京都が判断するものと考えます

 

有料のホームステイについては、区が個別に判断するという。

【 No.18:有料のホームステイの扱いについて

<意見>

有料のホームステイは認めないということでしょうか?

 

<区の考え方>

本事業は、外国人旅客の滞在に適した施設を賃貸借契約に基づき一定期間以上使用させるとともに外国人旅客の滞在に必要な役務を提供する事業で、区の認定を受けることで旅館業法の適用が除外されるというものです。

ホームステイの概念は多様なので旅館業法の該当判断は個別に行っていきます。

 筆者の独自調査によれば、大田区のAirbnb登録物件146件のうち、ホームステイ型民泊(自宅の一部を開放し、海外からの旅行者とのコミュニケーションを図ることを意識した民泊)は30件(10月29日現在)あった(大田区Airbnb 投資型7割、ホームステイ型2割)。区は公平かつ的確に判断できるか――。

 

テロ対策は警視庁マターというスタンス。

区は、民泊条例により民泊施設への立ち入り調査権は持つことになるが、旅館業法違反施設への取り締まり権限は有していないからだ。

【 No.20:テロ対策について
<意見>

テロ対策のため、効果的な宿泊者管理をしてほしい。

 

<区の考え方>

事業実施に当たっては、施設における違法な行為の防止の観点から、滞在者名簿を備え旅券を確認すること、滞在者の挙動に不審な点が見られる場合や法令に違反する行為が疑われる場合には最寄りの警察署に通報すること等を、認定事業者に対し 指導してまいります。

 

違法外国人労働者の取り締まりは、入国管理事務所や警察マター。区の所掌ではないというスタンス。

【 No.23:民泊施設への外国人労働者が流入について
<意見>
今回の条例制定によって、外国人滞在施設に外国人労働者が流入し治安が悪化することのないようにしてください。

 

<区の考え方>
違法外国人労働者の取り締まりは、入国管理事務所や警察などにより行われ、治安の悪化には直接的につながるものではないと考えます。
法令に違反している場合は、施設に立ち入ることができる権限を条例に盛り込むなど、安全・安心面を確保してまいります。

 

認定事業者がキチンと納税しているかどうかについては、ホスト(事業者)まかせというのが区のスタンス。

【 No.33:納税について
<意見>
ホスト(事業者)についても、物品販売で消費税の納税義務者となりうるので、税務署への届出を明文で義務付けるべきである。

 

<区の考え方>
納税に関しては、認定事業者において適切な対応をとることが望ましいと考えます。

 

民泊条例に罰則規定を設けない代わりに、悪質な者に対しては旅館業法で「罰せられる可能性がある」というのが区のスタンス。

【 No.34:罰則規定について
<意見>
違反した場合の罰則条項も条文化して頂き、区民並びに利用者が共に安心安全に生活出来る条例にして頂きたいと思います。

 

<区の考え方>
認定を取り消されてもなお、同様の事業を継続する場合は旅館業法等の罰則を受ける可能性があります

「可能性がある」という表現がなんとも微妙。

前述したとおり、旅館業法違反施設への取り締まり権限は警察マター。区の所掌ではないのだ。だから「可能性がある」というような中途半端な表現に留まっているのであろう。

 

特区法で決められたこと(国が決めたこと)に、区はモノが言えないというスタンス。

【 No.37:非居住者・外国法人の排除について
<意見>
また貸しによって責任の所在が不明確になる事態を予め防ぐために、非居住者および外国法人による経営を排除し、裁判の管轄は物件所在地である日本国内にあることを文書において明示することを義務づけるべきである。

 

<区の考え方>
特区法上、非居住者や外国法人を経営から排除することは出来ないこととなっております。

 

政令の認定要件(国が決めたこと)を越えて、区が規制を強化することはしないというスタンス。

【 No.39:民泊施設内での宗教的儀式の禁止について
<意見>
地域住民の平穏な生活を保護するため、施設内においても宗教的儀式を禁止すべきである。

 

<区の考え方>
政令の認定要件を越えた規制は難しいと考えます。

 

「管理組合の同意の取得」の義務化はできないので、「管理組合と事業者はよく話し合ってね、区は関与しないよ」というスタンス。

【 No.46:管理組合の同意について
<意見>
民泊を区分所有建物(分譲マンション)で許可する場合は、「管理組合の同意の取得」を前提とするよう、お願いいたします。

 

<区の考え方>
条例では近隣住民への計画の周知を規定する予定ですが、特区法の趣旨から、同意の取得を義務付けることまでは難しいと考えています。

周知された計画を元に、管理組合と事業予定者間で話し合っていただくことになります。

マンションの住人にとっては、「民泊の活用」よりも「民泊排除」が重要だと思う(実録!Airbnbとタワーマンション住民との攻防)。

「管理組合と事業予定者間で話し合っていただく(区は関与せず)」というスタンスはなんとかならないものか。

本日締め切りの国交省「マンション標準管理規約」の改正(案)パブリックコメントにも、民泊の取り扱いについては何の言及もなされていないし。

 

条例が適切に運用されるよう、区は事業者を指導するという。

【 No.49:条例の厳格適用について
<意見>
マンション管理組合や地域住民への調整なしに民泊事業を行っている事業者が存在する現状を考慮して、条例が、厳格に運用されるようにすべきである。

 

<区の考え方>
条例が適切に運用されるよう事業者に対し指導してまいります。

「民泊条例」を審議していた大阪府議会でも、条例の実効性を担保することが再三求められていた(あっさり可決!大阪府「民泊条例」)。

条例の厳格適用は、ほんとうに可能なのだろうか(金沢市Airbnb物件 「モグラたたき」のその後)。

 

まとめ

パブコメ実施結果に記された「区の考え方」を、筆者なりに読み解いた結果は次の通りである。

  • 宿泊税(東京都の所掌)、テロ対策(警察所掌)、違法外国人労働者(入国管理事務所・警察の所掌)などは、区の所掌外というスタンス。

  • 有料のホームステイについては、区が個別に判断する。

  • 認定事業者がキチンと納税しているかどうかについては、ホスト(事業者)まかせというのが区のスタンス。

  • 民泊条例に罰則規定を設けない代わりに、悪質な者は旅館業法で「罰せられる可能性がある(警察所掌)」というのが区のスタンス。

  • 国が決めたことを越えて、区が規制を強化することはしないというのがスタンス。

  • 管理組合の同意の取得」の義務化はできないので、「管理組合と事業者はよく話し合ってね、区は関与しないよ」というスタンス。

 

パブコメに記された「区の考え方」を読んだ限りでは、極端な言い方をすれば、民泊の在り様に対して、区は決められた以上の役割は果たさない(果たせない)という印象だ。

 

民泊がよりよく機能するためには、東京都や警察など、大田区を超えた対応が必要になる。

現状では、大田区の民泊全体に責任をもって対応するようなカタチができていないのではなのか(大田区の民泊条例に対して全責任を負っているのはもちろん大田区長ではあるが)。

全体の責任が曖昧なままに、安倍総理の一声で白紙に戻ってしまった新国立競技場のことが頭をよぎる(新国立競技場総工費2,520億円への対案は1,000億円)。

縦割り組織の限界か――。

(本日、マンション広告なし)

2023年6月1日、このブログ開設から19周年を迎えました (^_^)/
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