横浜市の大型マンションの傾斜のニュースを見ていると、「マンション傾斜問題」という表現が多くなってきた。
事象として、マンションの「傾斜」が生じているのは確かだが、問題は、杭工事において施工不良があったこと、またそのデータが意図的改ざんされたことだ。
だから、「マンション傾斜問題」という柔らかい表現よりも、「マンション施工偽装事件」と呼んでもいいくらいだ。
マスメディアから問合せもあったので、筆者の思うところをザットとメモしておいた。
現場で何が起きたのか?
いくつか理解に苦しむことがある。関係者に訊いてみたいことがある。
- なぜ、杭工事担当者(旭化成建材社員。以下X)は、手抜き工事をしたのか?
- オペレーターは、本当にXの不正に気付いていなかったのか?
- コスト削減・工期短縮のプレッシャーが手抜き工事を誘発したのではないのか?
10月20日午後の記者会見での旭化成副社長の説明によれば、Xは、当時は(旭化成建材あるいは旭化成の)下請け会社から旭化成建材に出向していて、現在は旭化成建材の契約社員であるという。当時Xはかなり弱い立場に置かれていたことになる。
キャリア15年のベテランXにとって、杭工事の品質確保は技術的に特段難しいことではない。品質確保ができなかったのは職業倫理が欠けていたのが要因のひとつ。根っこは姉葉事件と同じ。責任の重さと処遇とのミスマッチである。
本人の間違った行為が社会に与える影響が大きい割には給与や待遇の面で恵まれていない。この点においては姉葉事件以後も全く変わっていない。
もう一つの重大な点は、Xの不正行為を見抜けなかった工事体制の機能不全だ。
責任の所在はどこにあるべきか?
マスコミ情報により知り得た範囲で判断するならば、最も責任を負うべきはX社員。X社員の行為は施工ミスや手抜き工事の範囲を超えた“犯罪”である。
実質的な責任は元請(三井建設)の現場代理人(建設所長)にあると思う。
現場代理人(建設所長)は、配属された部下のマネジメントも含め、施工管理責任を全うできていなかった。
現場に配属された三井建設の社員らは、なぜXの不正を見抜けなかったのか? 現場をシッカリ見ていたのか?
施主(工事の発注者)の三井不動産レジデンシャル(と明豊エンタープライズ?)には、工事監理品質等の検査責任があり、三井建設を監理検査すべき立場にあったが、現実的にはそれができていなかった。
「建設における全ての工程において、施工会社などの検査だけにたよることのない、社員自らによる徹底したチェックを行っている」という三井不動産レジデンシャルの「住まいづくりの思想」が空虚に響く。
今後他のマンションでも起こり得るのか?
責任の重さと処遇とのミスマッチが改善されないと、職業倫理を欠いた技術者が現れる可能性はゼロではない。
今後の事件の解明内容にもよるが、再発防止は難しそうだ(「杭データ偽装事件」の再発防止は可能か? )。