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大阪府の民泊条例でマンションの資産価値は守れるか

大阪府が全国初の「大阪府国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業条例(仮称)案」(いわゆる民泊条例案)について、パブコメを受け付けている(2015年9月8日〆切)。

この条例案をひも解いてみよう。


もくじ

大阪府「民泊条例(案)」の概要

条例(案)の概要として、「滞在期間」「立入調査等」「手数料」といった3つの項目が掲げられている。

【条例(案)の概要】

(1)事業の用に供する施設を使用させる期間

  • 期間は、公衆衛生等を踏まえ、地域のホテル旅館との役割分担、主として外国人の1施設における滞在期間から総合的に考慮して7日とします。

(2)立入調査等

  • 知事は、職員に、認定事業者の事務所又は外国人滞在施設に立ち入り、又は関係者に質問させることができることとします。

(3)手数料

  • 本事業は、法第 13 条に基づく認定により旅館業法の適用除外がなされるものですが、事務については、旅館業法の許可との類似性があるため、当該の許可の事務を参考に手数料を定め、同条第1項による「特定認定」及び第5項による「変更認定」の各々について所要の手数料を定めます。

 

これら3つの項目について以下、確認していこう。

説明不足の「7日」の意味を読み解く

滞在期間が「7日」とされているのだが、7日以上なのか、7日未満なのか、上記文章だけでは読み取れない。

 

「大阪府国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業条例(仮称)案の概要(PDF:96KB)」の「条例制定の背景等」の文章をじっくり読むと分かってくる。

施行令第12条第2号の規定により、最低滞在期間について、7~10 日までの範囲において施設の所在地を管轄する都道府県(保健所設置市にあってはその市)の条例で定める必要があります。

国家戦略特別区域法の施行令第12条第2号で「7~10 日までの範囲において」条例で定めることができるので、「特区の効果を最大に発揮できる7日(←後述の資料1より)」を外国人滞在施設の「最低滞在期間」として定められているのだ。

 

この「最低滞在期間7日」は「地域のホテル旅館との役割分担、主として外国人の1施設における滞在期間から総合的に考慮」したことになっているのだが、どう総合的に考慮したのか、この文章だけではよく分からない。

 

国家戦略特区ワーキンググループが平成26年1月21日に開催した厚生労働省へのヒアリング配布資料「滞在施設の旅館業法の適用除外、歴史的建築物に関する旅館業法の特例についてPDF:621KB)」にその答えが記されている。

  • 国家戦略特区においては、国際的な経済活動の拠点にふさわしい外国人の滞在に適した施設の事業の促進に資するため、外国人滞在施設について、旅館業法の特例措置を講じるものであるが、公衆衛生や善良な風俗の保持の要請や、ホテル・旅館との役割分担等も考慮し、特区法においては、外国人滞在施設経営事業の要件として一定期間以上の滞在期間を求めており、その期間としては10日とすることを考えている。

  • これは、滞在の期間が長くなれば、短期間に宿泊者が入れ替わるホテルや旅館の場合よりも、定住性が強まり、公衆衛生上のリスクが減じられるとともに、宿泊施設の立地に懸念を有する周辺住民との関係でも受容しやすいといった点を考慮したものであり、さらに、新型インフルエンザ等の感染症対策との整合性や、滞在施設として、旅館業法の規制の対象となっているホテル・旅館との役割分担も踏まえ、設定するものである。

上の文章を意訳すると「最低滞在期間7日」は、ホテル・旅館業との競合を避けられることや、定住性が高まることで周辺住民が受容しやすいことなどを総合的に考慮したということになっているのだ(平成26年1月21日の段階ではまだ「7日」という数字は出てきていないが)。

 

さらに、平成27年8月4日に開催された「平成27年度 第1回大阪府戦略本部会議」の「資料1:外国人滞在施設経営事業について(PDF:273KB)」の「参考(P6)」をひも解くと、特区法が規定する「7~10 日までの範囲」に対して、大阪府が「7日」を採用した根拠らしきもの分かる(次図)。

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上図のように、詳しい解説文章がないので、想像するしかないのだが――

上図の表を可視化していくと、こういうことではないか。

すなわち、民泊の最低滞在期間を7日と定めておけば、多くの外国人観光客はホテルや旅館を使わざるを得なくなる(ある程度業界を保護できる)という考え方だ。

  • (1)大阪府における観光客は、日本人も外国人も1施設あたりの平均宿泊日数は2日間にも満たない(次図)。
    したがって、民泊の最低滞在期間を7日と定めておけば、多くの外国人観光客はホテルや旅館を使わざるを得なくなる(ある程度業界を保護できる)。

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  • (2)大阪府訪問外国人の平均滞在日数が「7日以上」なのは約4割。6割は7日未満(次図)。
    したがって、民泊の最低滞在期間を7日と定めておけば、6割の訪問者はホテルや旅館を使わざるを得なくなる(ある程度業界を保護できる)。

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  • (3)近畿地方を訪れる日本人旅行者で、観光・リクレーションや出張で7日以上滞在(宿泊日数としては6泊)する人は少ない(次表)。
    したがって、民泊の最低滞在期間を7日と定めておけば、ホテルや旅館業界への影響は少ない。

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大阪府の「最低7日ルール」はガラパゴス

今回のパブコメでは、「(2)立入調査等」以外は意見募集の対象外となっている。つまり、この「最低滞在期間7日」については聞く耳を持たないということのようだ。

 

でも、この「最低7日ルール」は、海外事例に照らし合わせてみると、ややガラパゴス的なルールであることが分かる。

 

筆者が調査した範囲によれば、全米で日数を規定しているのはマイアミ(フロリダ州)の「1日以上6カ月未満」くらいであろうか(全米で最もAirbnb規制が厳しいのはサンタモニカの「不在ホストの禁止」)。

 

ヨーロッパでは、ロンドンが「年間90日以下」、アムステルダム(オランダ)が「年間60日以下」、カタルーニャ(スペイン)が「連続30日以下、年間の合計日数は4カ月以下」と日数を規定しているが、いずれも下限ではなく、上限を規定している(Airbnbへの対応が分かれる!ロンドン容認・ベルリン禁止)。

下限を規定している大阪府の条例案とは逆なのだ。

 

筆者が調査した範囲で、大阪府のように下限を規定しているのは、バンクーバー(カナダ)の「1カ月未満のレンタルは禁止」くらい。

 

まあ、そもそも、国が「国家戦略特別区域法」の段階で、最低滞在期間を「7~10日までの範囲」と定めているので(施行令第12条第2号)、大阪府の条例がというよりも、内閣府地方創生推進室の滞在期間設定の考え方がそのものがガラパゴスなのだ。

 

あえて罰則規定を盛り込んでいない?

今回のパブコメの対象範囲である「立入調査等」についても、論点を整理しておこう。

 

知事は、職員に、認定事業者の事務所又は外国人滞在施設に立ち入り、又は関係者に質問させることができることとします。

条例では、行政サイドに立入調査権は付与するものの、罰則規定が設けられていない。

 

立入調査の結果、認定要件が守られていない場合には、事業認定を取り消す」としているが、そもそも立入調査を拒否されたら、認定要件が守られているかどうか判断できないではないか。

罰則規定を伴わない立入調査権では、民泊の健全性は担保されていないことになる。

 

穿った見方をすれば、大阪府は、罰則規定付きの立入調査権を取り込みたいがゆえに、あえて罰則規定を条例案に盛り込まず、「民間からの声を踏まえ、罰則規定を盛り込んだ」というカタチにしたかったということなのか――。

 

宿泊税をどうするのか?

パブコメでは意見を求められていない範囲だが、宿泊税の扱いをどうするのか?

海外で条例化された多くの事例では、既存のホテルと同様の宿泊税を課している都市が多い。

 

これではマンションの資産価値を守れない

外国人によるごみ出し、騒音問題による住民トラブルなど、近隣住民への影響については、内閣府・厚生労働省通知PDF:216KB)を踏まえたうえで、新たに「周辺住民の居住環境に配慮した紛争防止措置」や「遵守されない場合の認定取消」といったを講じるとしている(次表)。

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(「平成27年度 第1回大阪府戦略本部会議」の「資料1 外国人滞在施設経営事業について」より)

内閣府・厚生労働省通知の内容については、「「民泊」特例では旅館と同等の水準が求められている!」を参照。

 

大阪府の条例案では、サンタモニカ(カリフォルニア州)のように、「ホストは宿泊者がいる間中、その宿泊施設にいなければならない」という「不在ホストの禁止」が義務付けられていないので、最低7日間、不特定多数の外国人が何をやっていても分からない世界が展開される

 

不特定多数の外国人が大型のスーツケースを引きずりながら、大声で我が物顔にエントランスを出入りする状況や、温水プールやジムを勝手気ままに利用しているといった状況が思い浮かぶ。

 

大阪府の民泊条例で、マンションの資産価値は守られるのか?

大阪府のマンション住民にとって悪夢のような日々が来ないことを祈るばかりだ。

(本日、マンション広告なし)

2023年6月1日、このブログ開設から19周年を迎えました (^_^)/
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