不動産ブログ「マンション・チラシの定点観測」

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機械式立体駐車場の安全対策よりも、同駐車場の是非を議論すべき

国土交通省が3月28日、「機械式立体駐車場の安全対策に関するガイドラインの策定等について」を公表。
43ページからなる「機械式立体駐車場の安全対策のあり方について(報告書)」が掲載されているので、ひも解いてみよう。


1980年代後半以降、マンションおいても急速に普及したこともあり、機械式駐車装置の累積設置台数は次図のように、約287万台に達している(平成25年3月末時点)。
機械式駐車装置の出荷・設置台数の推移(C)国土交通省


「平成19年度〜平成24年度の設置台数(パレット数)」の内訳を見ると、次図のように「住宅用・自家用」の「二段・多段方式」が圧倒的に多いことが分かる。
機械式駐車装置の用途・種類別設置状況


平成19年度から平成25年度(2月末時点)の間に26件の重大事故の内訳は次図のとおり。
重大事故の発生場所(駐車場用途別)(C)国土交通省
で、気になるのは「重大事故(重症・死亡)」の5割(13件)が「マンション駐車場」で発生していることだ。


「発生状況別の事故概要」が表形式で整理されていたので、「マンション駐車場」で発生した「重大事故(重症・死亡)」13件につき、大人と子供の数を拾って、図化したのが次のグラフ。
マンション駐車場で発生した重大事故の内訳
これまでに子供が亡くなる痛ましい事故が3件発生している。


報告書には「利用者において特に留意すべき事項」として、「ひとたび事故が生じた場合には重大事故等に繋がることを再認識した上で、利用を行うこと」といった精神論や、「装置内に人がいないことの確認を自ら徹底して行うこと」とか「保護責任者は、子供が装置に悪戯に近づかないように細心の注意を払うこと」といったヒューマンエラーがあり得ることを前提にしていないような記述が列挙されている。


そもそも論として「機械式立体駐車場の安全対策」を論じる前に、「機械式立体駐車場の是非」を議論してほしいものだ。
「IV. 関係業界ヒアリング結果」を見ると次のように、最近は機械式立体駐車場の利用率が低下しているというから、使い勝手も悪い機械式立体駐車場は設置させない方向で規制してはどうか。

  • 日本マンション管理士会連合会
    • 都心部や駅近のマンションでは自動車の保有率が低下しており、機械式立体駐車場も利用率が低下している。


  • マンション管理センター
    • マンション居住者の高齢化や若年層の車離れに伴い、駐車場の利用率が低下している。

こういうことを言うと、「自動車が凶器になるからといって、作ってはいけないということにはならないように、機械式立体駐車場も効用あるから設置されるのだ」と反論を頂戴しそうだ。


「マンション駐車場」で発生した「重大事故(重症・死亡)」13件の概要を以下に列挙しておくので、このような悲惨な事故をどうすれば無くすことができるのか、皆さんにもよく考えていただければと。


「マンション駐車場」で発生した「重大事故(重症・死亡)」13件の概要

装置内に人がいる状態で機械が作動

  • 発生日(発生場所)被災者【危害区分】操作者/装置区分/設置年月


  • 平成22年3月25日(大阪市)侵入者【死亡】不明/エレベータ方式/平成19年2月
    • 侵入者が協力者の車に同乗して暗証番号を使って入庫。協力者は駐車場外に退出したが、侵入者は車が最上段付近に格納されてから車を降り、物色していたところ、次の利用者の出庫操作により上昇したカウンターウェイトにぶつかり転落した。


  • 平成23年5月31日(福岡市)同乗者(子供)【死亡】運転者/エレベータ方式/平成16年3月
    • 運転者は子供を乗せて入庫後、駐車装置の出入口扉を閉める操作を行った。その後、子供が駐車装置内に残っていることに気づき、出入口扉を開けたが、子供は機械に挟まれ被害にあった。


  • 平成23年11月19日(千葉市)運転者A【重傷】運転者B/昇降・横行式/平成20年12月
    • 運転者は子供を乗せて入庫後、駐車装置の出入口扉を閉める操作を行った。その後、子供が駐車装置内に残っていることに気づき、出入口扉を開けたが、子供は機械に挟まれ被害にあった。利用者が鍵を操作盤に挿した状態で車を入庫後、助手席で荷物を取り出していたところ、次の利用者が操作を行ったため装置が動きはじめ、開口部から転落し被害にあった。


  • 平成24年7月23日(花巻市)同乗者(子供)【死亡】運転者/エレベータ方式/平成19年3月
    • 運転者は子供を乗せて入庫後、駐車装置の出入口扉を閉める操作を行った。その後、駐車装置内から悲鳴が聞こえたため緊急停止ボタンを押したが、子供は機械に挟まれ被害にあった。


  • 平成25年6月1日(川崎市)同乗者【死亡】運転者/エレベータ方式/平成21年1月
    • 運転者が駐車装置内に入庫後、駐車装置外に出て装置を操作したところ、駐車装置内に残されていた同乗者が機械に挟まれ被害にあった。駐車装置内には人感センサーは設置されていたが、動きがない人の検知はできないものであった。出庫完了を確認できていなかった。また、駐車装置内の人感センサーが故障したまま放置されていた。


  • 平成26年2月12日(名古屋市)運転者A【重傷】運転者B/昇降・横行式/平成16年5月
    • 利用者(運転者 A)は子供と共に入庫し、鍵を操作盤に挿した状態で、後部座席から子供を降ろしていたところ、次の利用者(運転者B)が操作を行い、装置が動いて運転者Aは被害にあった。



人の乗降・歩行時の転倒・落下

  • 平成22年9月13日(兵庫県加古川市)運転者【重傷 】―/昇降・横行式/平成3年1月
    • 利用者が車を入庫し、移動操作が完了しない状況で操作盤から鍵を抜いて立ち去ったため、装置が途中停止し、地上部に開口部が生じた。その後、次の利用者がゲートの上昇操作を行って駐車装置内に入った際、開口部に転落し被害にあった。


  • 平成25年1月7日(広島市)運転者【重傷 】―/昇降・横行式/平成1年2月
    • 居住者が車のトランクの荷物を取り出すために駐車装置の後部に行った際、開口部に気付かず約2m下のピットに転落した。



作動中の装置に侵入・接触

  • 平成20年8月2日(名古屋市)運転者【死亡】不明/昇降・横行式/平成19年3月
    • 利用者自身の操作により装置を作動させている際、何らかの理由によりゲートを越えて装置内に入り込んだものと推定され、機械に挟まり被害にあった。


  • 平成21年2月19日(千葉市)同乗者(子供)【重傷】運転者/昇降・横行式/平成20年6月
    • 利用者の操作によって、前面ゲートを上昇させるためのチェーンが駆動したところ、子供の手指がチェーンの稼動部に挟まれ、被害にあった。


  • 平成24年4月2日(大阪府茨木市)同乗者(子供)【死亡】運転者/昇降・ピット式/平成15年10月
    • 子供が駐車装置内に立ち入り、空車であった隣のパレットから動作中の自車パレットに飛び移った際に転倒し、パレットと歩廊の間に挟まれ被害にあった。なお、操作盤には、ボタン押し補助器具が使用されていた。


  • 平成24年5月20日(大阪府堺市)同乗者(子供)【重傷】運転者/昇降・横行式/昭和63年8月
    • 運転者が入庫のため操作を行ったところ、同乗していた子供が前面柵に近づき、下部隙間から足が機械に挟まれ被害にあった。



車両の入出庫時の衝突

  • 平成25年2月10日(福津市)運転者【死亡】―/昇降・横行式/平成3年10月
    • 運転者が運転席ドアを開けて後進入庫していたところ、機械装置の支柱に身体を挟まれ被害にあった。



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