イギリスでもっとも古いタブロイド紙The Daily Mail(デイリー・メール)に5月21日、超高層マンションを建てまくっているデベロッパーが喜びそうな記事が掲載されていた。
The secret to a long and healthy life? A HIGH-rise flat: People who live below the eighth floor are 22% more likely to die early
- People living above the 8th floor are 40% less likely to die from lung disease
- They are also 35% less likely to die from severe heart disease
- Could be because walking up and down the stairs means they are fitter
- They are also exposed to less pollution and noise than those at ground level
- But those living on the ground floor are 60% less likely to commit suicide by jumping
超訳すると次の通りだ。
高層マンションで8階未満に住む人は、死亡率が22%アップ
- 8階以上に住んでいる人(以下、彼ら)は、肺疾患で死亡する可能性が40%低い
- 彼らは、重度の心臓病で死亡する可能性が35%低い
- それらの理由としては、彼らが階段を上り下りすることが考えられる
- また、彼らは1階の住民よりも汚染や騒音に晒されていない
- 一方、1階に住む人は、飛び降り自殺をする可能性が60%低い
スイスのベルン大学の専門家による、150万人以上を対象とした疫学的な調査結果を踏まえた記事ということなのだが、念のため情報ソースを確認してみた。
European Journal of Epidemiology(疫学のヨーロッパジャーナル)のサイトで当該論文(High life in the sky? Mortality by floor of residence in Switzerland)を無料で閲覧することができた。
PDFで10ページ。
The Daily Mailの記事では気が付かなかった、しかも重要な情報として、調査対象となったマンションの階建てごとの世帯数の内訳が掲載されている。
- Ground floor144,839戸(14.4%)
- Floor 1:215,727戸(21.4%)
- Floor 2:222,057戸(22.0%)
- Floor 3:190,437戸(18.9%)
- Floor 4:108,493戸(10.8%)
- Floor 5:53,230戸(5.3%)
- Floor 6:28,500戸(2.8%)
- Floor 7:16,494戸(1.6%)
- Floor 8+:28,413戸(2.8%)
グラフにすると、こんな感じ。
このデータから、あらためて気付くことは2点。
1点目は、8階以上の世帯サンプルが、全体の2.8%しかないこと。
つまり、調査対象となったマンション(アパート)が日本で言うところの高層マンションではなく、低層マンションが中心となっていることだ。
だから、「高層マンションで8階未満に住む人は、死亡率が22%アップ」というThe Daily Mail記事に対しては、日本の超高層マンションの上層階の住民は死亡率が低くなると連想してはいけない。
2点目は、本質的な話ではないのだが、The Daily Mail記事の「8階(the 8th floor)」は、英国式の表現なので、日本式(米国式)でいえば、9階に相当するということ。
ということで、The Daily Mailの記事をもって「スイスのベルン大学の専門家の調査結果から、超高層マンションの高層階に住んだ方が健康的で長生きできますよ」なんてセールストークは使えない。残念!