東京オリンピックに向けて、羽田空港の国際線発着回数を増やすため、東京都心上空を飛行するルートが新たに設定されていることを知る人はそんなに多くないのではないか。
都議選では、築地市場の豊洲移転問題が争点になることはあっても、羽田の新飛行ルートによる騒音問題が争点になることはなかった。
マスメディアの勉強不足なのか、国交省などに忖度しているからなのか――。
新飛行ルートに設定されているエリアの住人にとって、落下物事故や墜落事故に巻き込まれる可能性は極めて低いが、騒音の影響は避けては通れない。
- 国交省のスタンス:直接的な因果関係を⾒出すことは難しい
- 空港騒音がなければ資産価値が18.6%高い(ロサンジェルス国際空港)
- 飛行ルート直下から4分の1マイル離れるごとに3.4%資産価値が上がる(シアトル・タコマ国際空港)
- 空港が原因で平均27.4%資産価値が減少(カリフォルニア州)
国交省のスタンス:直接的な因果関係を⾒出すことは難しい
特に不動産価値への影響が気になるところだが、国交省は「航空機の⾶⾏と不動産価値の変動との間に直接的な因果関係を⾒出すことは難しい」としている(次図)。
(よくあるご質問 P49|羽田空港のこれから)
航空機騒音が不動産価値にどのくらい影響するのか?
ネットをググっても、国内の文献は、ほとんど見当たらない。そのような調査をしてメリットが得られる組織や研究者がいないからなのであろうか。
そこで海外の文献を調べてみたところ、数多くあった。沢山ありすぎて整理しきれない。
そこで、手始めに「Airport Noise Law(空港騒音法)」というサイトに掲載されている情報を手掛かりに整理することにした。同サイトは、オークランド国際空港(カリフォルニア州)の貨物輸送の拡大に反対して97年に開設された。現在もサイト掲載情報が更新され続けている。
具体的には、同サイトに掲載されている「Airport Noise and Residential Property Valu」(空港騒音と不動産価値)」を手掛かりに、飛行機騒音と不動産価値について、以下にまとめておいた。
空港騒音がなければ資産価値が18.6%高い(ロサンジェルス国際空港)
コンサルティング会社が1994年に連邦航空局に提出した「住宅価値の空港騒音の影響」という報告書。
航空機の騒音レベルの違い以外は似たような地域で、住宅の市場価格を比べると、中・高価格帯の地域において、航空機騒音の影響が大きいことが分かった。
ロサンジェルス国際空港北部の中価格帯地域で、2地点を比較すると静かな地点のほうが18.6%不動産価値が高い、1デシベル当たりに換算すると1.33%不動産価値が高いという結果となった。
※詳細は、The Impact of Airport Noise on Housing Values: A Summary Reportを参照。
飛行ルート直下から4分の1マイル離れるごとに3.4%資産価値が上がる(シアトル・タコマ国際空港)
ワシントン州の地域通商経済発展省の1997年の助成研究。
シアトル・タコマ国際空港(シアトル市)の拡大計画に関連して、条件が同じ住宅であれば、飛行ルート直下から4分の1マイル離れるごとに3.4%資産価値が上がるとしている。
※詳細は、 SEA-TAC INTERNATIONAL AIRPORT IMPACT MITIGATION STUDYを参照。
「SEA-TAC INTERNATIONAL AIRPORT IMPACT MITIGATION STUDY」に掲載されている表9.04データを元に作成
空港が原因で平均27.4%資産価値が減少(カリフォルニア州)
ベル氏(不動産鑑定士)が1997年にカリフォルニア州オレンジ郡理事会に提出した報告書。
3か所の空港(ロサンゼルス国際空港、ジョン・ウェイン空港、オンタリオ国際空港)近くの地域で、半年以上で190件の不動産売買事例を分析した結果、空港が原因で15.1~42.6%、平均27.4%資産価値が減少している可能性があるという。
※詳細は、 Airport Diminution in Valueを参照。
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