「住宅過剰社会」という、気になる書名に惹かれて、アマゾンで購入。税込み821円。
東洋大学建築学科の野澤千絵教授の新書『老いる家 崩れる街 住宅過剰社会の末路』 (講談社現代新書) 2016/11/16。
湾岸のタワーマンションにお住まいの方は読まないほうがい。
湾岸のタワーマンション問題
本書のメインテーマは、タワーマンション(超高層マンション)ではないが、「第1章 人口減少社会でも止まらぬ住宅の建築」のなかで、「つくり続けられる超高層マンションの悲哀」として38ページも割かれている。
「『空中族』の増加」や「眺望の陣取り合戦と値崩れ」、「小学校整備も人口増に追いつかない」といった小見出しで、超高層マンションの負の部分が解説されている。
たとえば、超高層マンションであるがゆえの「不良ストック化するリスク」として次のように指摘されている。
これまで見てきたように、超高層マンションは、購入者側にもデベロッパー側にも人気があるために、売れるから建てられるという状況が続いています。
しかし、マンション専門家からは、火災・災害時のリスク、多種多様な居住者間の合意形成、高額な維持管理費、大規模修繕や将来の老朽化対応など、一般的な分譲マンションに比べて、超高層マンションであるが故に深刻化する様々な問題点について警鐘が鳴らされています。
こうした様々な困難に直面することで、超高層マンションは、将来、不良ストック化するリスクがあるとも考えられています。
(「1.つくり続けられる超高層マンションの悲哀」P36)
そのほかにも「住民同士の希薄な関係性」や「超高層マンションが林立するカラクリ」など、具体的に整理されているので、タワマン検討中の人にとっては必読であろう。
あと、「羽生ショック」についても、記されている。
「羽生ショック」
フィギュアスケートの羽生結弦選手のことではない。
羽生市では、賃貸アパートが需要以上に大量に建設された結果、市内の賃貸アパートの入居率が低下し、市内全体のアパート経営へ影響を与えるだけでなく、人のあまり住んでいない賃貸アパートが乾燥大麻の保管場所に利用されるなど、まち全体の治安問題にまで発展してしまいました。
つまり、賃貸住宅の供給過剰がまち全体の資産価値や住環境に影響を及ぼすことを明らかにした現象であり、今後、他の市町村でも起こる可能性のある影響を先取りしているとも言えます。
(「3.賃貸アパートのつくりすぎで空き部屋急増のまち」P90)
大都市の郊外や地方都市で、賃貸アパートの建設が止まらない、サブリース問題が指摘されているのである。
サブリースのシステムでは、賃貸アパートの建設を、サブリース会社か関連する建設会社で行わせるのが一般的で、多くの場合、サブリース会社は賃貸アパートの建設自体でほとんどの利益を出せるようになっているのです。
つまり、サブリース契約は、賃貸アパートの建設を請け負う契約をさせるためのツールとなっている面が大きく、サブリース会社が何らリスクを負わずに済むという極めて賢い(?)ビジネスモデルとなっています。
加えて、サブリース契約期間中、リフォームや修繕などもサブリース会社が指定する建設会社でやらなければいけなかったり、サブリース会社の指示通りにメンテナンスをしないと契約解除されたりするなど、サブリース会社が損をしない仕組みができあがっているのです。
(同 P87)
本書は問題点を指摘するだけでなく、最後に第4章として「住宅過剰社会から脱却するための7つの方策」を提言している。
さすが大学の教授である。
本書の構成
全4章。平易な文章で読みやすい。
- 第1章 人口減少社会でも止まらぬ住宅の建築
- 第2章 「老いる」住宅と住環境
- 第3章 住宅の立地を誘導できない都市計画・住宅政策
- 第4章 住宅過剰社会から脱却するための7つの方策
「住宅過剰社会」が抱える構造的な問題を、都市計画と住宅政策の観点から論じた良書。
タワマン検討中の人だけでなく、”住宅過剰社会”の末路を知りたい人にもお薦めの1冊。