今年に入ってから、「訪日外客数(=日本を訪れた外国人旅行者の数)」と「外国人延べ宿泊者数」の乖離が大きくなっている。
不法入国者の増加による影響は無視できるが、クルーズ船による観光客(宿泊日数ゼロ)の増加による影響は無視できない。特に民泊の増加による影響は大きそうだという話。
- 民泊の増加を指摘する旅館経営者のつぶやき
- 4分の3以上がアジアからの旅行者
- 「訪日外客数の増減率」と「外国人の延べ宿泊者数の増減率」が乖離し始めている
- 【結論1】不法入国者の増加の影響は無視できる
- 【結論2】クルーズ船による観光客(宿泊日数ゼロ)の増加の影響は少なくない
- 【結論3】民泊の増加による影響(訪日外国人の1割が民泊利用)
- まとめ
- 【補遺】平均宿泊数の影響は無い
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民泊の増加を指摘する旅館経営者のつぶやき
外国人入国者は増えているのに宿泊者数は減り始めたのは、不法民泊が原因だと指摘する、40代旅館経営者のつぶやき。
(永山久徳氏のツイート 2016年11月15日 09:52)
実際のところはどうなのか?
観光庁や国交省の公開データなどを使って調べてみよう。
まずは、訪日外国人の特徴の確認から。
4分の3以上がアジアからの旅行者
観光庁「宿泊旅行統計調査」データによれば、2016年1月~10月までの訪日外客数(=日本を訪れた外国人旅行者の数)は2,011万人。うち4分の3以上がアジアから(次図)。
訪日外国人数の上位4か国・地域のうち、平均宿泊数は中国籍(14.7泊)が最も長く、韓国籍(4.7泊)が最も短い(次図)。
さて、ここからが本題。
「訪日外客数の増減率」と「外国人の延べ宿泊者数の増減率」が乖離し始めている
「訪日外客数(=日本を訪れた外国人旅行者の数)」と「外国人延べ宿泊者数」の推移を見ると、今年に入ってから、両者とも増加に勢いが見られない(次図)。
上図を増減率(前年同月比)で描き直したのが次図。
今年に入ってから、「訪日外客数」と「外国人延べ宿泊者数」の乖離が大きくなっていることが分かる。
なぜ、乖離し始めたのか?
「訪日外客数」と「客室稼働率の増減率(全国)」の推移を見ても、両者の乖離が大きくなっていることが分かる(次図)。
なぜ、訪日外国人が増えているのに、旅館・ホテルの客室稼働率は低下しているのか?
「訪日外客数(=日本を訪れた外国人旅行者の数)」の増加が鈍れば、それに比例して「外国人延べ宿泊者数」の増加も鈍りそうなものなのだが――
前年同月比で、「訪日外客数」が減少する割合よりも、「外国人延べ宿泊者数」が減少する割合のほうが大きくなっていくのはナゼか?
原因として考え得る項目は次の4つ。
- 日本に住む知人・親戚宅に宿泊する割合が増加した影響
- 不法入国者の増加による影響
- クルーズ船による観光客(旅館・ホテルでの宿泊日数ゼロ)の増加による影響
- 民泊の増加による影響
今年に入って 「知人・親戚宅に宿泊する」訪日外国人の割合が特に増加したとは考えにくいので、これは検討対象から外し、他の3項目について検証してみよう。
【結論1】不法入国者の増加の影響は無視できる
法務省が2016年3月11日に公表した「本邦における不法残留者数について(平成28年1月1日現在)」によれば、2016年1月1日現在の不法残留者総数は6万2,818人。
※不法残留者数とは、外国人の入国・出国記録や強制退去数を踏まえた、在留期間を経過している人数のこと。
2014年以降、不法残留者数が微増している(次図)。
過去1年間で2,811人増加しているが、旅館・ホテルの宿泊日数に与える影響は無視できそうな数字だ。
【結論2】クルーズ船による観光客(宿泊日数ゼロ)の増加の影響は少なくない
国交省が2016年6月2日に公表した「2015年の我が国のクルーズ等の動向」によれば、クルーズ船により入国した外国人旅客数は、過去最多の約111.6万人(前年比約2.7倍)とされている。
2016年の訪日クルーズ旅客数データは未だ公開されていない。
そこで、寄港回数から推定すると、次式より154万人となる。
- 「16年1~10月の寄港回数(1,801回)」÷「15年1~10月の寄港回数(1,307回)」=1.38
- 15年のクルーズ船による外国人入国者数(111.6万人)×1.38=154万人
2015年の段階では、訪日外国人1,974万人に対して、訪日クルーズ旅客数約112万人は5.7%。2016年になると、7.9%(=5.7%×1.38)にまで増加する(推定)。
クルーズ船による観光客(宿泊日数ゼロ)が旅館・ホテルの宿泊日数に与えるインパクトは少なくなさそうだ。
【結論3】民泊の増加による影響(訪日外国人の1割が民泊利用)
Airbnb Japanが2016年11月16日に公表したプレスリリース「Airbnb利用のインバウンドゲストが300万人を突破」によれば、Airbnbを利用したインバウンドゲスト数が2015年130万人、2016年は現段階で300万人を突破したという。
Airbnbを利用したインバウンドゲスト数の増加
2015年に日本のAirbnbリスティングに宿泊したインバウンドゲストの数は約130万人でした。2016年は現時点ですでに300万人を超え、前年からの伸び率は230%を記録しています。
「訪日外客数(=日本を訪れた外国人旅行者の数)」と「Airbnb利用者数(概数)」の推移を可視化したのが次図。
16年10月までの訪日外客数2,011万人に対して、Airbnb利用者数(概数)300万人は、率として15%。無視できない大きさとなっている。
ただ、Airbnb Japan発表した「300万人を突破」という数字は、割り引いて考える必要がある。なぜならば、複数か所に泊まると別の人として計上されるためだ。
でも、Airbnb以外にも、「住百家」「自在客」「途家」といった中国版Airbnb経由による民泊宿泊者がいることを勘案すると、訪日外国人の1割程度は民泊を利用しているといえそうだ。
「Airbnb登録件数に対して中国版Airbnbの割合は2割」より
まとめ
今年に入ってから、「訪日外客数(=日本を訪れた外国人旅行者の数)」と「外国人延べ宿泊者数」の乖離が大きくなっている理由を分析した結果は次のとおり。
- 2014年以降、不法残留者数が微増している。過去1年間で2,811人増加しているが、旅館・ホテルの宿泊日数に与えるインパクトは無視できそうだ。
- 2015年の段階では、訪日外国人1,974万人に対して、訪日クルーズ旅客数約112万人(5.7%)。2016年になると、7.9%にまで増加する(推定)。訪日クルーズ旅客数(宿泊日数ゼロ)の増加が旅館・ホテルの宿泊日数に与えるインパクトは少なくない。
- Airbnb以外にも、「住百家」「自在客」「途家」といった中国版Airbnb経由による民泊宿泊者がいることを勘案すると、訪日外国人の1割程度は民泊を利用している。訪日外国人が増加しているのに宿泊者数が減少している主原因は民泊利用者の増加にありそうだ。
【補遺】平均宿泊数の影響は無い
Okada Hiroshi氏から、滞日日数が減少しているのでは、というコメントを頂戴した。
違法民泊は問題だけどクルーズだけでなく予算をケチる旅行者が多くなり今まで3泊していたのに2泊にするなど滞日日数が減っただけかも。
観光庁が四半期ごとに公表している「訪日外国人消費動向調査」には、訪日外国人の平均泊数データが掲載されている。
そこで、平均宿泊数と同増減率(前年同月比)の推移を可視化したのが次図。
今年に入って、特に平均宿泊数が増えているわけでもなく、増減率(前年同月比)はむしろ減少している。
よって、平均宿泊数(滞日日数)の変化については、「訪日外国人が増加しているのに宿泊者数が減少している」原因ではないと判断した。
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