吉田繁治著「膨張する金融資産のパラドックス」ビジネス社(2015/12/9)は、今後「必ず金融危機がやって来る」ことを、ファクトを元に、淡々と論理的、分析的に記している良書。
緊急危機は必ずやってくるが「ハイパーインフレにはならない」という。
「財政が破産状態になり国債が暴落すると、戦後のようなハイパーインフレ(物価が300倍以上)になるという粗雑な論を主張している論者」とは一味も二味も違う(ハイパーインフレにならない理由はP324参照)。
全部で365ページと、かなりのボリュームではあるが、マスメディアからは伝わってこない情報が満載なので、読んで損はないと思う。
本書は不動産についても若干言及しているので、以下にピックアップ(2か所)しておこう。
住宅価格は普通の所得の世帯がローンを払える金額かどうかで、バブルが判定できる
バブルは崩壊したあとでないとわからないと言われているが、負債の所得倍率を見ればバブルかどうか判定できるという。
【サステナブルな資産価格と負債】
(前略)金融緩和を長期化させ、不動産バブルからリーマン危機を生んだと言えるFRBの元議長グリーンスパンは、バブルは崩壊したあとでないとわからない」と弁明し、経済学者も追認していますが、そんなことはない。住宅価格は普通の所得の世帯がローンを払える金額かどうかで、バブルが判定できるからです。(中略)
その国の世帯年収の6倍を大きく超えた住宅価格は、バブルでしょう。平均年収が600万円なら、3600万円が年収の6倍です。平均的な新築住宅に5000万円の価格がついて売れているときは、バブルです。
価格が年収の7倍を超えると、ローンを借りた人の債務不履行が増えるからです。負債の所得倍率でみれば、バブルはわかります。日本の銀行は貸すとき、一時的ではない確実な年収の5倍を枠のメドにしています。
(P49~50)
首都圏の新築マンションの年収倍率の推移は次図のとおり。
2010年度の年収倍率はバブル水準の6.2倍。そして2015年度の年収倍率は「ローンを借りた人の債務不履行が増える」7倍超えの7.1倍。
現在は、不動産バブルの真っ最中なのである。
「首都圏の新築マンションの年収倍率はアメリカよりも高い」のグラフを最新データに更新
不動産価格は上がらなくなる日本
世帯数の増加は、2020年の5305万世帯で頂点。世帯数の増加ないし維持がない限り、住宅価格と地価は上がらなくなるという。
【不動産価格は上がらなくなる日本】
(前略)不動産への需要が増えて価格が上がるには、人口増が必要です。ところが2040年に向かって、47都道府県のうち43府県で居住人口は20%近くも減少します(国立社会保障・人口問題研究所の予測)。出生率は大きくは変わりません。人はすべて平等に1年に1歳を加えます。死亡率もほぼ一定なので、人口の予測は正確です。人口減は不動産需要の減少と供給の過剰を示します。
2010年までは、1人住まいの世帯が年率で2.9%(20年で1.8倍)増えることで住宅需要を支えていました。しかし世帯数の増加は、2020年の5305万世帯で頂点を迎え、その後は年率0.55%ペースで減っていきます(2035年は4955万世帯)。世帯数の増加ないし維持がない限り、住宅価格と地価は上がらなくなります。
(中略)
1990年代後期からの人口減で生じていた「北海道現象」が今後、全国化します。
これは、65歳以上が50%以上になった限界集落の消滅という事態でもあります。全国1800の市区町村のうち半分の900は存続が難しくなり、全国の6割の地域では2050年になると人口が半分以下になります。1人当たりの所得は増加しますが、不動産価格は上がらなくなります。
以上の人口事情から、これから10年スパンの長期で見た土地価格は人口が増加ないし維持される地域、および商業設備投資がある大都市部以外は相当に下がります。(以下略)(P320~321)
マンションデベロッパーは、ビジネスモデルを「箱の産業」から「場の産業」に転換しないと生き残れない時代がやってくる(15年後の住宅着工戸数4割減の衝撃!ビジネスモデルを転換しないと生き残れない時代へ)。
(本日、マンション広告なし)