旭化成は10月22日、国土交通省に「旭化成建材(株)の過去10年間の杭工事実績」を報告したあと、同日18時から記者会見を開き、「過去10年間の杭工事実績(施工データの流用等が無かったかを確認する現場数)」を公表(PDF:118KB)した。
杭工事の施工データを改ざんした社員(以下、X)が関与した物件は全国で41件に上る(ということになっている)。
公表された資料は、そっけない都道府県別・建物用途別の数値データだったので、可視化(グラフ化)しておこう。
3,040物件のうちの23%が集合住宅
過去10年間に旭化成建材が施工した杭工事は全部で3,040物件。
そのうちの696件(23%)が集合住宅。
3,040物件のうち、Xが関与したのは41物件。
そのうちの13件(32%)が集合住宅(マンション)。
3,040物件のうち最も多いのが北海道
全3,040物件について、都道府県別に物件の多い順に並べたのが次図。
150件を超えているのは、次の7都道府県。北海道と東京都が多い。
- 北海道(422件)
- 東京都(356件)
- 大阪府(262件)
- 埼玉県(198件)
- 神奈川県(192件)
- 茨城県(179件)
- 千葉県(168件)
Xが関与した41物件につき、都道府県別にみると、圧倒的に愛知県が多い。2位が岐阜県、3位が三重県。
記者会見時の説明によれば、Xは旭化成建材の契約社員になる前は、中京地方の会社に勤めていたという。
現時点(10月22日)における雑感
旭化成が公表した資料には、物件名はもちろん、建物の規模も所在地も記されていない。
こんなそっけない資料を公表すれば、世間からの反感を買うことは分かりそうなものだが。
工事を発注した三井住友不動産Rや国交省の意向が強く働いた結果なのだろうか。
耐震偽装事件では、事件が発覚して1カ月後に、偽装物件として57件のマンション名までが公表(PDF)され、収拾がつかない状態に陥った。そのときの教訓を踏まえたのか。
免震データ偽装事件のときは、具体的な物件名を開示することなく、東洋ゴム工業1社の問題として、世間の関心が薄れていった。
東洋ゴム工業の製品を使っているのがマスコミの大口スポンサーである不動産会社だから、マスコミの報道も慎重だったのではないのか(免震偽装事件 3つの疑問 )。
これまでのところ、売主(工事発注者)である三井不動産レジデンシャルの記者会見はない。親会社の三井不動産の岩沙会長が10月20日、東京都内であった会合後に「売り主として購入者、居住者のご心配と不安を解消するようしっかり対応したい」と記者団の取材に応じた程度。
大口スポンサーに対してモノが言えないマスコミが、末端の作業員に過ぎないXの行為を強調しすぎると、今回の問題が結果的に「トカゲの尻尾切り」で終わってしまうことになりかねない(大手不動産のメディア・タブー性 )。
- 杭偽装の責任者、9都県41件を担当 愛知が最多23件(朝日新聞 10月23日00時13分)
- 傾斜、現場責任者関与は愛知県が23件で最多(読売新聞 10月23日 01時19分)
- マンション傾斜:改ざん社員関与の工事…9都県41件(毎日新聞 10月22日18時47分)
- 旭化成「申し訳ない」 改ざん担当者の案件は41件(日本経済新聞 10月22日18時21分)
杭工事データの偽装が行われたのは、まだ、現場経験豊富な団塊の世代が活躍していた時代。職人も今ほどは高齢化していなかったし、不足していなかった。
そんな時代に起きた杭工事の偽装。いまのような、人材不足、職人不足、資材高騰の時代であれば、もっとヒドイことが起こっていても不思議ではないだろう。
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